【3482】 ◎ アンジェラ・ダックワース (神崎朗子:訳) 『やり抜く力 GRIT(グリット)―人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』 (2016/09 ダイヤモンド社) ★★★★☆

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「やり抜く力(グリット)」とは「情熱」と「粘り強さ」。それは「才能」よりも重要だ」と。

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やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』['16年] アンジェラ・ダックワース
 2016年5月原著(原題:GRIT:The Power of Passion and Perseverance)刊行の本書は、米国で大きな話題を呼び(ただし、著者はその前に、彼女がマッカーサー賞(別名「天才賞」)を受賞した年である2013年の4月のTED Talkで有名になっていた)、ほどなく日本でも翻訳が刊行されました。大きな成果を出すには必ずしも才能に恵まれている必要はなく、大切なのは、優れた資質よりも「情熱」と「粘り強さ」―即ち「グリット(GRIT)」=「やり抜く力」である(言い換えれば、天才とはグリットを持った人、即ち「やり抜く力」を持った人が天才と呼ばれるにふさわしい人である)ということを心理学の観点から多角的に検証したものです。

 PART1では、「やり抜く力(グリット)」とは何か、なぜそれが重要なのかを述べています。まず、著者が大学院生のときに取り組んだ研究で、成功を収めた人たちに共通する特徴は、情熱と粘り強さを併せ持っていたことで、つまり「やり抜く力」とは「情熱」と「粘り強さ」を併せ持っていることだとしています(第1章)。著者は数学の教師をしていたときに、才能だけでは結果を出すことはできないということに気づき(第2章)、教師をやめて心理学者になり「達成の心理学」について研究した結果、「才能×努力=スキル」「スキル×努力=達成」という才能から達成に至るまでの方程式を導き出しました(第3章)。そして作成した、「やり抜く力」がどれだけあるか―「情熱」と「粘り強さ」がわかるグリッド・スケールというテストを紹介するとともに(第4章)、「やり抜く力」は①興味、②練習、③目的、④希望の4つのステップを通して伸ばせるとしています(第5章)。

 PART2では、「やり抜く力」を内側から伸ばすにはどうすればよいかを説いています。人は自分のやっていることを心から楽しんでこそ「情熱」が生まれ、情熱を持つためにはまず、自分が「興味」があることを見つけなければならず、興味は自分の内側を見つめることによって発見するものではなく、外の世界と交流するなかで生まれてくるとし、興味を持つための「3つのポイント」をを挙げています(第6章)。

 また、「粘り強さ」の特徴のひとつとして、日々の努力を怠らないことがあり、成功者はすでに卓越した技術や知識を身につけているにもかかわらず、さらに上を目指したいという強い意欲を持っているとし、認知心理学者のアンダース・エリクソンが世界で活躍するエキスパートたちのスキルの習得方法を研究した結果、エキスパートたちはただ何千時間もの練習を積み重ねているだけではなく、「意図的な練習」(目的を持った「練習」)をしていたとして、エキスパートたちの練習の「3つの流れ」で挙げています(第7章)。

 次に、「やり抜く力」が強い人たちは、自分たちがやっていることは「人の役に立っている」と考え、つまり自分たちがしていることに「目的」を持っているとし、他の人びとの役に立つという目的を持っていれば挫折や失望や苦しみを乗り越えることができるとして、目的を育む「3つの提案」をしています(第8章)。

 さらに、私たちの心のなかには、「固定思考」と「成長思考」があり、「固定思考」とは、人はスキルを習得することはできるが、スキルを習得するための能力、すなわち「才能」は、鍛えても伸ばせるものではないと考える思考であり、「成長思考」とは、「やればできる」と信じて一生懸命努力すれば、自分の能力をもっと伸ばすことは可能だと考える思考であって、「やり抜く力」を強くするためには、「人間は何でもやればうまくなる」「人は成長する」という「成長思考」(「希望」)を持つことが大切であるとしています(第9章)。

 PART3では、「やり抜く力」を外側から伸ばすにはどうすればよいかを説いています。「やり抜く力」を伸ばす方法を、子育てにおける例を挙げ(第10章)、「課外活動」は絶対にすべしとしています(第11章)。さらに自分ひとりで伸ばしていくことは大変なことであり、「やり抜く力」を伸ばすためには、まわりの人たちの力を得ることが効果的であって、「やり抜く力」が強い人たちは、人生のなかで「自信」と「支援」を与えてくれる人に出会っているとし(第12章)、「やり抜く力」が強いほど人生の「幸福感」も強いとしています(第13章)。

 結論的に言うと、「やり抜く力(グリット)」とは「情熱」と「粘り強さ」の2要素から成り、「情熱」とは、自分の最も重要な目標に対して、興味を持ち続け、ひたむきに取り組むこと、「粘り強さ」とは、困難や挫折を味わっても諦めずに努力し続けることであり、人々がそれぞれの分野で成功し、偉業を達成するには、「才能」よりも「やり抜く力」が重要であることを科学的に究明した本ということになります。自分にとって勇気づけられる本であるとともに、人を育てるということについても示唆に富む本であり、お薦めします。

《読書MEMO》
●「興味」興味を持つための「3つのポイント」
・興味を持ったことを実際に試してみる
・興味を持ち続けるために、さらに興味が湧くような経験をする
・興味を持ち続けるために、親、教師、コーチ、仲間など周囲の励ましや応援を得る
●「練習」エキスパートたちは次の「3つの流れ」で練習する
1.ある一点に的を絞って、ストレッチ目標(高めの目標)を設定する
2.しっかりと集中して努力を惜しまずに、ストレッチ目標の達成を目指す
3.改善すべき点がわかったあとは、うまくできるまで何度でも繰り返し練習する
●目的を育む「3つの提案」
提案1:いまの自分のやっていることが、社会にとってどのように役立つかを考えてみる
提案2:自分にとって大切な価値観につながるように、ささやかな変化を起こしてみる
提案3:生き方の手本となる人物(ロールモデル)からインスピレーションをもらう

●目次
[PART1]「やり抜く力(グリット)」とは何か? なぜそれが重要なのか?
第1章:「やり抜く力」の秘密―なぜ、彼らはそこまでがんばれるのか?
第2章:「才能」では成功できない―「成功する者」と「失敗する者」を分けるもの
第3章:努力と才能の「達成の方程式」―一流の人がしている当たり前のこと
第4章:あなたには「やり抜く力」がどれだけあるか? ―「情熱」と「粘り強さ」がわかるテスト
第5章:「やり抜く力」は伸ばせる―自分をつくる「遺伝子と経験のミックス」
[PART2]「やり抜く力」を内側から伸ばす
第6章:「興味」を結びつける―情熱を抱き、没頭する技術
第7章:成功する「練習」の法則―やってもムダな方法、やっただけ成果の出る方法
第8章:「目的」を見出す―鉄人は必ず「他者」を目的にする
第9章:この「希望」が背中を押す―「もう一度立ち上がれる」考え方をつくる
[PART3]「やり抜く力」を外側から伸ばす
第10章:「やり抜く力」を伸ばす効果的な方法―科学では「賢明な子育て」の答えは出ている
第11章:「課外活動」を絶対にすべし―「1年以上継続」と「進歩経験」の衝撃的な効果
第12章:まわりに「やり抜く力」を伸ばしてもらう―人が大きく変わる「もっとも確実な条件」
第13章:最後に―人生のマラソンで真に成功する

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