【3438】 ○ 浜田 敬子 『男性中心企業の終焉 (2022/10 文春新書) ★★★★

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両立支援が性別役割分業を固定化、「変わらない」企業はフリーライドしている。

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男性中心企業の終焉 (文春新書 1383)』['22年] 浜田 敬子 氏

 朝日新聞で『AERA』で女性初の編集長を務め、今は報道番組のコメンテーターとしても活躍する著者が、自身が長年にわたり取り組んできたジェンダーギャップの問題について、現状とその解消策を論じた本です。

 第1章では、男子的なテクノロジー業界でD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)企業に舵を切ったメルカリの事例が紹介されています。経営者が私財30億円を投じて理科系女子向け奨学金制度をつくるなど、むしろⅠT企業ならではないかとも思わせられましたが、2021年の「女性がたくさん入っている会議は時間がかかる」と言った森喜朗東京五輪・パラリンピック組織委員会会長の発言問題が、逆に追い風になったというのはナルホドと思いました。

 第2章では、均等法施行以降の30年を振り返りながら、依然ジェンダー指数が万年最下位にある日本の現況を掘り下げています。興味深かったのは、資生堂やベネッセといった両立支援の先進企業が企業内保育や育休期間の延長を実施し、また多くの企業が短時間勤務制度などを導入したが、こうした施策が逆に女性にマミートラックと呼ばれる道を歩ませ、性別役割分業を固定化させることにも繋がったとしている点です。2014年の"資生堂ショック"などもその延長線上にあることになります。

 第3章では、新型コロナによるリモートワークの普及により、女性たちの発言は活発化し、働き方への満足度も上がったものの、企業によって取り組みに差があるため、企業間の「オンライン格差」は拡大しており、また一方で企業内でも、ハイブリッド型の職場で出社している人とリモートを続ける人との間で格差が生じてきているとしています。

 第4章では、政府が2003年から、政治家や企業の経営層・管理職など指導的立場における女性の比率を30%にする 「202030」という目標を掲げていたものの、 2020年になってもその目標は一向に達成されず、あっさりと達成時期は 「2020年代のできるだけ早い時期に」と延期されたこと取り上げ、なぜうまくいかなかったのか、こうした数値目標は逆差別なのか、「女性優遇」という反発にどう挑戦していくべきかを論じています。

 第5章では、経営戦略としてダイバーシティを進める経営者たちを紹介し、第6章では、女性たちの間で世代間のギャップがあることからくる「ロールモデル不在」問題にどう向き合うべきかを提言しています。第7章では、最後の壁は家庭にあり、コロナによって家庭での男性と女性の家事育児時間の格差はむしろ拡大しており、今後は、男性育休の段階的な義務化が、この問題を解くカギになるとしています。

 第7章の最後に、ジェンダーギャップが解消しない背景には、先進的な取り組みをする企業がある一方で、「変わることを拒んでいる企業」があるためだとし、改革を進める企業は「変わらない」企業にフリーライドされていて、「変わらない」企業はいずれ若い世代から見放されていくにしても、フリーライドが続いている期間、タダ乗りされている職場は楽ではないとしている点は、個人的には新たな視点でした。

 取材で得た証言や事例などだけでなく、著者自身の経験も(ずっと正社員として好きな仕事をやってこられたことを恵まれていたと自覚しながらも)盛り込まれていて、読みやすいです。個人的には、分析に啓発的な視点が見られ(両立支援が性別役割分業を固定化、にはナルホドと、「変わらない」企業がフリーライドしているというのは、「ブラック企業」問題と相似形だと思った)、やや漠たる面はあるもののの、解決策も提言されていてよかったと思います。
《読書MEMO》
●目次
第1章 男子的なテクノロジー業界でD&I企業に舵を切ったメルカリ
第2章 日本の「ジェンダー失われた30年」と加速する世界の動き
第3章 リモートワークが変えた意識。阻んでいた「出社マスト」
第4章 数値目標は逆差別か。「女性優遇」という反発への挑戦
第5章 経営戦略として本気でダイバーシティを進める経営者たち
第6章 ロールモデル不在と女性たちの世代間ギャップ
第7章 最後の壁は家庭と夫の家事育児進出

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