【3471】 ◎ ブライアン・J・ロバートソン (瀧下哉代:訳) 『[新訳]HOLACRACY(ホラクラシー)―人と組織の創造性がめぐりだすチームデザイン』 (2023/06 英治出版) ★★★★☆

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自律分散型の組織運営OS。組織論の動向を押さえる上では必読書の部類か。

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[新訳]HOLACRACY(ホラクラシー)――人と組織の創造性がめぐりだすチームデザイン』['23年]

 本書によれば、ホラクラシーとは役職階層型の組織に代わる新たな自律分散型の組織運営法であり、既存の権力・役職型の組織ヒエラルキーから権力を分散し、組織の目的(パーパス)のために組織の一人ひとりが自律的に仕事を行うことを可能にする、新しいソーシャルテクノロジーであるとのことです。

 本書は大きく3部構成からなりますが、 Part1では、進化し続ける組織とはどういったものかを考察しています。組織にとって現状と改善すべき状態との間にあるギャップを「テンション」と呼び、テンションを正しく認識することで、それは単なる不協和音から組織が進化するための資源になるとし、ホラクラシーとは、そうした進化する組織を支える新たなオペレーティングシステム(OS)であるとしています(第1章)。

 続いて、ホラクラシーがどのように権限を分配するのかを解説し、ホラクラシーにおいては権力を「人」ではなく「プロセス」に持たせるのが特徴で、「組織がそのパーパスを実現できるように創造性を解き放つ」ということを追求するとしています(第2章)。そして、それが新しい組織構造にどのように反映されるのかを、人間に代わって主役となる「ロール」や、ロールのグループである「サークル」の構造デザインについて解説しています(第3章)。

 Part2では、ホラクラシーというオペレーティングシステムがどのような仕組みで動作するのか、その構造、プロセス、システムを解説しています。まず、組織構造を扱うガバナンスについて、「ガバナンス・ミーティング」の進め方を述べ(第4章)、続いて、日々の活動の進め方について、「タクティカル・ミーティング」の進め方を解説しています(第5章)。

さらに、いわばホラクラシーという新しいスポーツのレフェリーとなるファシリテーターの役割や(第6章)、ホラクラシー流の戦略とは何か、「ストラテジー・ミーティング」の進め方を解説しています(第7章)。

 Part3では、ホラクラシーを既存の組織でどう活用するか(第8章)、組織を一気に変えられなくとも実践できることは何か(第9章)、ホラクラシーにより組織にもたらされる新たな可能性やパラダイムとはどのようなものかを述べています(第10章)。

 従来の組織運営では、情報の伝達が複雑になりがちで、メンバーの意思決定も時間がかかることが多くあります。一方、ホラクラシーでは、全メンバーが裁量権を持つため、スピーディーな判断を下すことができるとされており、そのため、急速に変化するビジネスの世界において、ホラクラシーは注目を集めていると思われます。

 一方で、組織を根本から変えるための慣れとコストを要し、「従来の上下関係がなくなりコミュニケーションがとりやすくなる」「社内政治もコンセンサスも必要なくなる」というのは確かに理想的ですが、組織文化の壁を打ち破るのはそうたやすいことではないように思います。ホラクラシーの概念自体を組織に浸透させるのも容易ではないし、個々のマネジメント能力も必要で、指示待ちの社員ではホラクラシー型組織に馴染むのは難しいと思われます。

HOLACRACY図4.jpg 2016年の刊行から7年を経て「新訳」が刊行された背景には、フレデリック・ラルー著『ティール組織』(2018年/英治出版)に、ホラクラシーがその事例として取り上げられたこともあるかと思います。旧訳での訳語「ひずみ」が新訳では「テンション」に、「目的」が「パーパス」に変更されるなどして、より今日にマッチした翻訳になっています。組織論の動向を押さえる上では必読書の部類でしょう。

《読書MEMO》
●目次
■Part 1 進化する働き方
1 組織のOSをアップデートする──テンションが進化の力になる
【Column 1】組織の「エボリューショナリーパーパス」と「いのちが宿るテンション」とのつながり
2 誰もがパワーを手に入れる
【Column 2】ホラクラシーの仕組みを紐解く
3 ホラクラシーの組織構造
【Column 3】ロールを通じて創造的に仕事をする
■Part 2 日々の進化を楽しもう──ホラクラシーを実践する
4 組織構造を扱うガバナンス
5 日々の活動を進めよう
6 ファシリテーターの役割
7 ホラクラシー流の戦略とは
■Part 3 進化が根付いていくために──ホラクラシーに命を吹き込む
8 既存の組織でどう活用するか
【Column 8】ホラクラシーを始める前に大切なこと
9 一気に変えられなくてもできること
10 ホラクラシーがもたらすもの
【Column】ホラクラシーにおける「組織文化」の考え方

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