【3435】 ○ ジョン・P・コッター/バネッサ・アクタル/ガウラブ・グプタ (池村千秋:訳) 『CHANGE 組織はなぜ変われないのか (2022/09 ダイヤモンド社) ★★★★

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「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(ジョン・P・コッター)

組織改革の7領域(戦略、DX、リストラ、組織文化、Ⅿ&A、アジリティ、社会変革)を論じる。
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CHANGE 組織はなぜ変われないのか』['22年]/『ジョン・P・コッター 実行する組織―大企業がベンチャーのスピードで動く(Harvard Business Review Press)』['15年]

 本書は、組織論・リーダーシップ論で著名な著者が、そもそも組織がなぜ変化に適応することが苦手なのかについて解説し、その対処法を紹介したものです。

 全3部構成の第1部「序論」(第1章・第2章)では、第1章で、人類の進化の過程で何千年も昔に確立された人間の性質と、19世紀後半から20世紀前半に形づくられた現代型組織の基本設計は共に、迅速に容易に賢明に変化を遂げることに適しておらず、人と組織は主として、生き延びるために効率性と安定性を確保することを得意としている(21p)ため、人や組織は成熟するにつれて、安定と目先の安全を重んじるメカニズムが強化されていくが、そのため、新たな脅威を察知しても、試練を乗り越えるために十分な規模の変化を十分なスピードで実行できない場合が多いとしています(22p)。今日の世界では、変化に素早く適応しないことほど大きなリスク要因はなく、変化を積極的に追求する姿勢こそが大切であり、今日の企業が生き延びるにはもっと多くの変化が必要であるとしています。

 第2章では、「人間の性質」に組み込まれている生存本能は非常に強く、生き延びようとする本能が働く結果、新しいチャンスを素早く察知し、イノベーションを推進し、変化に適応し、適切なリーダーシップを振るい、好ましい変革を成し遂げる能力が意図せずして押さえ込まれてしまう場合がしばしばあるとのこと(33p)。現代社会では、脅威が極めて手強かったり、脅威を素早く回避もしくは除去する現実的な手立てがなかったりし、この場合、生存チャネルが活性化して緊張が高まった状態が長引きかねず、すると、人は疲弊し、動転して、問題にうまく対処できなくなり、の状態になると、チャンスに気づいたり、冷静に、そして創造的に物事を考えたりする能力が低下する場合が多いとしています(36p)。

人間は生存チャネルの他にもう1つ「繁栄チャネル」というメカニズムを持っていて、これは生存チャネルと異なり、これにより、脅威ではなく機会に目を光らせ、このレーダーが新しいチャンスを察知すると、不安や怒りよりも情熱や興奮が高まり、視野が狭まるのではなく、逆にチャンスへの好奇心により、視野が広がることが多いと。自らの当面の生き残りに関して不安を感じず、ポジティブな感情が高まると、人はコラボレーションに前向きになり、創造性とイノベーションが活発になると(39p)。

 今日の組織が十分なスピードで賢明な変化を実現するためには、多くのメンバーの生存チャネルが過熱することを防ぎ、逆に繁栄チャネルを活性化させる必要があり、しかし、これは簡単ではなく(39p)、現在は昔に比べてデータの入手と活用が容易になったことで、生存チャネルが簡単に過熱しかねず、生存チャネルが過熱すると、繁栄チャネルはあっさり抑え込まれてしまうとしています(42p)。人間本来の性質と現代のピラミッド型組織は、安定性と効率性を重視するため、変化の激しい時代には不向きであり(45p)、そうした現組織に対する学術研究に加え、変革のリーダーシップが求められるとしています。

 そして、適応や変革を早めるにどうすればよいかを、第2部(第3章~第9章)で、戦略、デジタル・トランスインフォメーション(DX)、リストラ、組織文化、M&A、アジリティ、社会変革の推進という組織の7つの領域について述べています。

 第2部「本論」の第3章では、戦略を通じて人々の行動を引き出し成果を上げるためには、マネジメント中心ではなく、リーダーシップ中心のアプローチの方が、変化の速い時代には適しているとしています。

 第4章では、DX成功のカギは、幅広い層の社員に切迫感を持たせ、変革に本腰を入れさせ、行動とリーダーシップを引き出すことであるとしています。

 第5章では、リストラクチャリングは旧来のやり方では弊害は大きくなるばかりであるとして、成功の確率を高めるための方法論を説いています。

 第6章では、組織文化と業績の関係を紐解き、企業文化が好業績を生むとの考えのもと、深く根を張った文化を変え、はるかに良い結果を生み出すにはどうすればよいかを解説しています。

 第7章では、M&Aについて、Ⅿ&A後の統合でしばしば見られる失敗を指摘し、統合にまつわる問題とその解決策や、事業売却や会社分割を見送ってよい場合について述べています。

 第8章では、「アジャイル」な組織として、ピラミッド型組織とネットワーク型組織を併存させた「デュアル・システム」が適しているとしています(著者らが2012年頃にこれに気づいたとしいるように、この部分については、『ジョン・P・コッター 実行する組織―大企業がベンチャーのスピードで動く』 (2015年/ダイヤモンド社)に詳しい)。

 第9章では、社会変革と企業変革の共通点は何かを考察し、社会運動と企業変革は互いに学べることが多く、共に、変革の成否はリーダーシップの在り方にかかっているとしています。

 第3部「結論」(第10章・第11章)では、第10章で、より多くの人に、より多くのリーダーシップを発揮してもらうにはどうすればよいかを説いています。

 第11章では、現代型組織の在り方を捨てずに変える方法として「デュアル・システム」を改めて推奨し、社内のあらゆる部署や組織階層の人たちのリーダーシップを引き出しやすい環境づくりが重要であるとしています。

 コッターの前著『実行する組織』が「デュアル・システム」に的を絞った組織論であったのに対し、コッター社の研究プロジェクトの成果物である本書は、脳科学(「人間の性質」)、現代型組織の限界、変革のリーダーシップの3種類の研究をベースに、戦略、DX、リストラ、組織文化、Ⅿ&A、アジリティ、社会変革の推進という組織改革の7つの領域について論じている点で集大成的であり(著者らは第2部については、自らが関心のある個所から読めばよいとしている)、より幅広い観点から啓発される組織論となっているように思います。

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