【3434】 △ 加藤 諦三 『パワハラ依存症 (2022/08 PHP新書) ★★★

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パワハラする人、される人について分析した人生訓的エッセイ。人事パーソンには物足りないか。

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「人生相談50年」―心理学者で早稲田大学名誉教授の加藤諦三先生(撮影/山田智絵)(フムフムニュース )

パワハラ依存症 (PHP新書)』['22年]

番組を始めて10年頃、1980年代前半の加藤氏
加藤諦三 j.jpg 本書は、社会学者であり、ニッポン放送のラジオ番組「テレフォン人生相談」のパーソナリティを半世紀にわたり務める著者が、パワー・ハラスメント(パワハラ)をやめられない人、いつもパワハラされる人について解説したものです(懐かしいけれど「まだおやりになっていたのか」という印象もある。大和書房に70年代から80年代にかけて「加藤諦三文庫」というのがあったし、『青春をどう生きるか』('81年/光文社カッパ・ブックス)といった類の著書も多くある。PHP研究所にも70年代「加藤諦三青春文庫」というのがあって、こちらは2020年代に入って復刻されており、PHP新書には本書以外も10冊ばかり著作があって、版元とのつながりは深いようだ)。

 第1章では、パワハラが起きる理由を考察し、パワハラは「観客のいる前で」(みんなの前で)行なわれるという点が重要であり、パワハラをする人は自分の無意識にある失望を部下に投射し、部下を声高に侮辱することで自分の心の傷を癒しているため、観客は多いほど気持ちが落ち着くのだとのことです。

 そして、パワハラが多い職場に共通するのは、コミュニケーションがうまくいってないことであり、そうした職場では、それぞれの個人が心の底にマイナスの感情を溜め込むため、どうしても心を病んだ人が多くなるとしています。

 第2章では、パワハラの深層を分析し、パワハラをする人は、社会心理学者のフロムが唱えた、死を愛好するネクロフィラスな傾向、悪質なナルシズム傾向、近親相姦願望が統合された「衰退の症候群」の病理にあるとしています。

 また、心理学者のアドラーは、「共同体感情をもっている人によってのみ人生の諸問題は解決できる」としており、共同体感情の反対は劣等感、ナルシズム、ネクロフィラスであって、パワハラをする人は、人生の問題を解決できないままに生きているが、無意識では自分の人生が行き詰っていることを感じていても、意識の領域では認めていないといいます。

 第3章では、パワハラされるのは、危機的な状況に陥っても他人にお願いをすることができない人であり、そうした人がうつ病になったり過労死するとしています。パワハラされる人は、世俗には質の悪い人がいることを知り、人を見る目を養わない限り、何度立ち直っても、またそうした人物に利用されて燃え尽きるとしています。

 一方、パワハラをする人は、あらゆる方法で自分が優越していることを確認しようとし、それは強迫性を帯びていて、したくてパワハラをしているわけではないが、そうしないと自分自身では生きられないためサディストになるのだと。つまり、パワハラをするのは善人を装ったサディストであり、彼らには苦しむ部下を見るのが快感であるとのことです。

 第4章では、パワハラする人は、子供の頃に抑圧されて悔しかった思いを、大人になって弱い立場の相手にぶつけているのであり、パワハラする上司への従順は、火に油を注ぐことになるとしています。パワハラされないようにするには、狼の餌食にならない人間関係を築くことであり、心が触れ合う仲間をつくるなどの助言をしています。

 心理学の知見をベースとする一方で、人生訓的エッセイ風でもあり、読んでみて合う人、合わない人がいるかと思いますが、パワハラは依存症であると言い切っている点は明快でした。ただし、パワハラする側の人は、本書にもある通り自分でその意識がないため、きっとこうした本も読まないでしょう(パワハラされる側の人にとっては、状況改善のヒントとなる点があると思った)。

 この本の通りならば、パワハラする上司は詰まるところ、独りで仕事するか辞めてもらうしかないようにも思いますが、企業としては、この点が最も難しいところではないでしょうか。ただし、そうしたマネジメント的な対処策は、本書で扱う範疇には含めないことを前提に書かれている本であり、その点は人事パーソンには物足りないのではないかと思います。

 ただ、冒頭に「まだおやりになっていたのか」と書きましたが、心理学の知見は仕事や生活における対人関係で応用可能な普遍性があり、また「人生相談」などはベテランが活躍できる場でもあるので、続けられること自体は良いことだと思います(最近週刊誌などで散見する、自分の過去の経験を滔々と述べるタイプの人生相談よりはいいのではないか)。


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