【3463】 ◎ L・デビッド・マルケ (花塚 恵:訳) 『米海軍で屈指の潜水艦艦長による「最強組織」の作り方 (2014/05 東洋経済新報社) ★★★★☆

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「命じるリーダーシップ」から「委ねるリーダーシップ」ヘ(実話本!)。

「最強組織」の作り方2.jpg デビッド・マルケ.jpg L. David Marquet(元アメリカ海軍大佐、リーダーシップコンサルタント)
米海軍で屈指の潜水艦艦長による「最強組織」の作り方』['14年]

 本書は、1999年に米海軍で潜水艦艦長になった著者が、当時最低ランクの艦だったサンタフェを「命じるリーダーシップ」から「委ねるリーダーシップ」に試行錯誤しながら変えていったことで、たった1年で平均以上の優秀艦に変貌させ、その後は次々と優秀なリーダーを輩出するトップクラスの潜水艦になり、著者が退任した後も優秀艦であり続け、10年経過した後でも軍の平均よりもはるかに高い確率で乗員が昇進を遂げ続けているという、そうした艦長個人の技ではない改革を成し遂げた過程を紹介した本です(実話本とも言える)。

 Part1(第1章~第6章)では、著者がいかにして従来型のリーダーシップに対して葛藤や疑問を抱き、最終的には自分の固定概念となっていた「命じるリーダーシップ」と決別することになったかが書かれています。前に機関科長として乗り込んだ原子力潜水艦で、部下に権限を与える試みがうまくいかなかった著者(第1章)は、新たにサンタフェの指揮を執ることを命じられ、上っ面の権限移譲ではだめで、何かを改善するときに何よりも大事なのは、それをやり続ける不屈の精神を持ち続けることだと考えます(第2章)。そこでまず艦内を歩き回り(第3章)、乗員の話に耳を傾けることから始め(第4章)、職場の中で、立場が上の人々がリーダーでその他の人材は単なるフォロワーにすぎないという考え方が日常的に促進されているのに気づき(第5章)、新しいリーダーシップを導入する必要を感じます(第6章)。

 Part2(第7章~第13章)では、「委ねるリーダーシップ」を実践するために導入した仕組みを紹介しています。まず、名ばかりの委譲を止め、班長が班員をすべて管理できる「責任班長」という仕組みを作り(第7章)、挨拶のルールを変えるなど、意識よりまず行動を変えることから組織文化を変えていきます(第8章)。また、部下に仕事の目的を理解させ(第9章)、許可を求めるような言葉を使うのではなく、「これから~をしようと思います」という報告ベースの言葉に変えさせます(第10章)。さらに、問題の解決策を叫びたい欲求を抑えて、メンバーに決断のチャンスを与え(第11章)、常に部下を監視することを止め(第12章)、同僚や部下に率直な気持ちを話せるようにしました(第13章)。

 Part3(第14章~第18章)では、職務を果たす技能を高める仕組みに焦点を当てています。まず、ミスを減らす方法を考案し(第14章)、常に学ぶ者でありことを心掛けます(第15章)。部下の説明よりも上長自身の確認を重視し(第16章)、大事なメッセージは繰り返し(第17章)、非常事態時でも、部下に主導権を与えた方がよいとしています(第18章)。

 Part4(第19章~第25章)では、正しい理解を促す仕組みを紹介し、それを促すことで、誰もがリーダーとして振る舞うようになるとしています。まず、部下との間に信頼を作る方法を説き(第19章)、お飾りでない行動指針を作ること(第20章)、目標を持って始めさせること(第21章)、命令に盲目的に従わせないこと(第22章)を推奨しています。さらに、委ねるリーダーシップの具体策を整理し(第23章).部下には権限とともに自由を与えることで(第24章)、自分がいなくなっても機能する組織ができるとしてしています(第25章)。最後に、委ねるリーダーシップを実践するための3つの理念として、支配からの解放と、それを支える優れた技能、正しい理解の二本柱を挙げていました(第24章)。

 実話であるため読みやすく、海軍の潜水艦という「上からの命令に絶対服従」的イメージのある職場での、こうした「委ねるリーダーシップ」の実践が、成功例として紹介されているのが興味深いです。次世代型リーダーシップあるいは組織のあるべき姿のひとつとして、示唆に富む内容の本です。

《読書MEMO》
「最強組織」の作り方 2014.jpg●委ねるリーダーシップを実践するための3つの理念
1. 支配からの解放
仕事を自分ごととして捉えて、指示待ちにならないようにするために、上司が指示を出すという雰囲気や慣習を変える必要がある。
A. 指示を出されていた側の行動を変える
許可を求めるような言葉を使うのではなく、「これから〜をしようと思います。」という報告ベースの言葉に変えてもらう。また、報告を受けた人が質問をしなくても済むように、背景や行動の理由も一緒に報告するようにする。この場合、効果的な報告をするには報告を受ける側が気にするであろうことを考える必要がある。その結果、報告する側の視座が上がる。
B. 指示を出していた側の行動を変える
指示したくなってしまう衝動を抑える必要がある。指示という形で答えを渡してしまうのではなく、アドバイスや視点を提供することができれば、仕事の主導権は相手に残したままより良い形で進行する補助をすることができる。そのため、メンバーが困っていること、考えていること、何かをやろうとした背景を率直に口に出してもらう環境を作ることが鍵になる。
2. 優れた技能
メンバーの権限を拡大する時、メンバーにそれを処理する能力があることを確認する必要がある。
もし能力を大幅に超えていると、メンバーが重圧に押し潰されてしまいます。
3. 正しい理解
メンバーが自主的に行動を決定して進めていくときに、チームの進むべき方向性に対して正しい理解がある必要がある。それがないと、メンバーが判断を始めた瞬間にバラバラの方向にチームが進んでしまうことになる。そのため、チームの方向に対して正しく理解するとともに、行動指針を作り判断基準とする。

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