【3462】 ◎ クリスティーン・ポラス (夏目 大:訳) 『Think CIVILITY― 「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である』 (2019/06 東洋経済新報社) ★★★★☆

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礼節は、個人だけでなく、チームや企業にとっても最強の武器になると説く。

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Think CIVILITY(シンク シビリティ) 「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である』['19年] 『まんがでわかる Think CIVILITY 「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である』['20年] Christine Porath

Think CIVILITY― .jpg 本書は、筆者が20年間携わってきた知識や経験、研究をもとに、チームや企業、コミュニティにとって、無礼な態度がいかに大きな損害をもたらすか、そして、礼節ある態度がいかに大きな利益をもたらすかを説いた本です。

 第1部では、著者自身の体験も踏まえ、無礼な態度とはどのようなもので、それはどのような大きな損害をもたらすか、また、礼節とはそもそも何であり、それはどのような大きな利益をもたらすかを述べています。第1章で、無礼な人が増え、礼節が悪化し続けている理由を考察し、第2章では、無礼な人がもたらす5つのコスト(同僚の健康を害する、会社に損害をもたらす、まわりの思考能力を下げる、まわりの認知能力を下げる、まわりを攻撃的にする)を、第3章では、礼節がもたらす5つのメリットを、個人が得られる3つのメリット(仕事が得やすい、幅広い人脈が築ける、出世の可能性が高まる)と、企業が得られる2つメリット(高い業績をあげる、従業員に安心感を与える)に分けて解説しています。そして第4章では、無礼は伝染し新たな無礼を生むが、礼節もその伝染力は強いとしています。

 第2部では、他人にどういう態度で接するべきか、仕事で成功を収め、強い影響力を持った人になるための、自身の礼節を高めるメソッドを紹介しています。第5章では、自らの礼節をチェックするための7つの方法(他人からフィードバックをもらう、できるコーチの指導を受けるなど)を挙げ、第6章では、礼節がある人が守る3つの原則(笑顔を絶やさない、相手を尊重する、人の話に耳を傾ける)について解説しています。第7章では、人に対する無意識の偏見を鎮める方法を説いています。第8章では、ワンランク上の礼節を身に付けるための5つの心得(与える人になる、成果を共有する、褒め上手な人になる、フィードバック上手になる、意義を共有する)を紹介しています。第9章では、礼節あるメール作法のを具体的に示しています。

 第3部では、礼節ある会社になるための4つのステップ(採用、コーチング、評価、改善策の実践)から成る方法を紹介しています。第10章では、礼節ある人を見極める採用システムを作ること(無礼な人を入れない)、第11章では、礼節を高めるコーチングを取り入れること(礼節を守る価値観を伝える)、第12章では、誤った評価システムを改善すること(礼節ある行動を取った人を評価できるシステムを作る)、第13章では、無礼な社員とどう向き合うか(フィードバックを与え、改善されなければ解雇も辞さない)について述べています。

 第4部では、無礼な人に狙われた場合の対処法について述べています。第14章は、無礼な人ととも働くことになってしまった人が、その状況にどう対処すべきかを述べ、未来に目を向けるための7つの方法を書いています。また、最後に、礼節を身に付けるのに遅すぎるということはなく、礼節は人生に必ず良い影響をもたらすとしてます。

 礼節は、個人にとってばかりでなく、チームや企業にとっても最強の武器になるとした点がユニークであり、自身や自身が属する組織を省みる上で、示唆の富む本です。

《読書MEMO》
■第1部 なぜ礼節ある人が得をするのか
●(第1章)礼節が悪化し続けている理由
・グローバリゼーションによる異文化同士の衝突
・自己愛の強さに関する世代間ギャップ
・職場環境とそこでの人間関係の変化
・発達したテクノロジーがもたらす、コミュニケーションに際しての誤解や欠落
●(第2章)無礼な人がもたらす5つのコスト
1.同僚の健康を害する。
2.会社に損害をもたらす。
3.まわりの思考能力を下げる。
4.まわりの認知能力を下げる。
5.まわりを攻撃的にする。
●(第3章)礼節がもたらす5つのメリット
[個人編]礼節のある人が得られる3つのメリット
・仕事が得やすい。
・幅広い人脈が築ける。
・出世の可能性が高まる。
[組織編]礼節のある企業が得られる2つのメリット
・礼節ある上司のチームは高い業績をあげる。
・礼節ある経営者は従業員に安心感を与える。
■第2部 自らの礼節を高める
●(第5章)自らの礼節をチェックするための7つの方法
1.他人からフィードバックをもらう
2.できるコーチの指導を受ける
3.同僚や友人に協力してもらいチームで改善に取り組む
4.360度フィードバックを利用する
5.人の感情を読み取る訓練をする
6.毎日、日記をつけてみる
7.「食う・眠る・動く」で自分を大切にする
●(第6章)礼節がある人が守る3つの原則
1.笑顔を絶やさない
2.相手を尊重する
3.人の話に耳を傾ける
●(第7章)無意識の偏見を鎮める方法
「無意識の偏見を抑制するには、相手と自分の共通点に注目することが有効である」と社会心理学者のジェイ・ヴァン・バヴァル、ウィル・カニンガムは述べている。もし偏見や思い込みからネガティブな感情を抱いてしまう人がいたら、「その人と何か共通のアイデンティティがないか」を探してみることだ。
●(第8章)ワンランク上の礼節を身に付けるための5つの心得
1.与える人になる
2.成果を共有する
3.褒め上手な人になる
4.フィードバック上手になる
5.意義を共有する
●(第9章)礼節あるメール作法
・件名は短く、内容がわかるようにする
・ccに含めるのは必要最低限の人のみ
・依頼に対しては対面と同様に誠実に対応する
・ユーモア・皮肉・批評については、少しでも問題がないか、何度も読み返す
・書いた文章に問題がないと確信できない時は、いったん保存してあとで見直す
・送信時間に気をつけ、場合によっては予約送信を利用する
・受け取り手が遠方にいる場合は時差に注意する
・返信の際は、もらったメールの文面をよく読む
「緊急」を多用せず、基本的に緊急かどうかの判断は受け取り手に委ねる
・開封通知やフォローアップ・フラグは使わない
・署名ブロックをつける
・相手が社内の他の人たちに読まれると困るようなことは絶対に書かない
・宛先が複数人の場合は順序に気をつける(職位順・要件への関わり順など)
・謝罪の場合はそもそもメールで良いのか熟考し、メールの場合には件名に「謝罪」「申し訳ありません」などを書いて明確に伝わるようにする
・絶対に適切な場合を除き「全員に返信」は使わない
・すべて太文字のメールは絶対に書かない
・送り手の評価が少しでも下がるようなメールは第三者に転送しない
・面と向かって言えないようなことはメールにも書かない
・マイナスな感情を伝えるのに「!」は使わないし、真剣な内容のメールでは「!」は多くて1回の使用にとどめる
■第3部 礼節ある会社になるための4つのステップ
●(第10章)礼節ある人を見極める採用システムを作る
無礼な人が1人でもいると、その無礼さは周りに伝染し、組織全体が無礼になってしまうリスクがある。そのため、無礼な人をそもそも採用しないというのは、シンプルながら有効な手段と言える。採用の面接の際には、少しでも無礼な言動がないか目を光らせ、仮定に基づく質問ではなく、過去に実際に起きた複数の出来事についてどう対処したかを尋ねるべき。面接の方法は体系化し、どの人に対しても同じ質問を同じ順序ですることによって、入社後の仕事ぶりがかなり正確に予測できるようになる。また、良い人を確実に採用したいのであれば、面接をするだけでなく、何人かの社員と食事やイベントを共にさせ、普段の言動を見たり、独自に探し出した関係者から話を聞くという方法もある。
●(第11章)礼節を高めるコーチングを取り入れる
まず「礼節を守る」ということを企業の経営理念に加えるべきである。そして、それを皆が常に念頭に置いて行動するよう、目立つ場所に掲示しておく。誰もが自分の力だけで変わることはできない。そのため、トレーニングやコーチが必要だし、その際には教える側、教わる側が互いに適切なフィードバックを与え合うことが大切である。「上方評価」「360度フィードバック」「ピア・トゥー・ピア・コーチング」などを取り入れ、積極的に改善の機会を作っていきたい。
●(第12章)誤った評価システムを改善する
会社の礼節を高めたいと思えば、礼節ある行動を確実に評価できる体制を作らなくてはいけない。そのため、評価にあたっては、業績評価という伝統的な基準と、思いやりや敬意の程度を適切に評価できるような体系的な基準を上手に組み合わせる必要がある。言い換えれば、結果だけではなく、その過程も評価基準に含めるということだ。過程を見る際に気を配りたいのが、自分に与えられた以上の動きをし、周囲の同僚たちを助ける「スター社員」である。
多くの企業は、こういうスター社員の貢献を正しく認識していない。他人に協力する態度を評価できる体制になっているか、今一度確認してみるべき。
●(第13章)無礼な社員とどう向き合うか
社内に無礼な人がいるとわかったときにはどうすればいいのか。方法は2つ。改善させて共に働き続けるか辞めてもらうかだ。コストの観点から考えて、改善させられるなら改善させて働いてもらいたい企業がほとんどだろう。他人の行動を変えるには、「フィードバックループ」が有効である。フィードバックループは次の4つのステップで構成される。
・証拠を提示する
・証拠の妥当性を確認する
・悪い行動を続けた場合にどうなるかを伝える
・改善を実行させる
改善を実行させた後は、改善度合いを評価する機会を作ることも大切である。後の成果確認がないと、人は進歩しないことが調査から明らかになっている。
また、周囲の人たちの協力も不可欠だ。
■第4部 無礼な人に狙われた場合の対処法
●(第14章)無礼な人から身を守る方法
自分自身や自分が影響を及ぼせる人から無礼な態度を受けている場合には対処のしようがあるが、中にはどうしようもない相手から無礼な扱いを受けてストレスを感じている人もいるだろう。それに対する助言を一言で言うなら「あなた自身と、あなたの将来のことだけを考えるべき」である。気をつけるべきなのは、相手の態度に振り回されてはいけないということだ。無礼な相手の人間性や、職場の環境を、自分だけの力で変えられると思ってはいけない。
ともかく必要なのは話し合いだが、アクションを起こす前に次の3つのことを自問した方がいい。加害者に何か言い返しても、身体的な危険はないか、その無礼な振る舞いは意図的なものか、その人が無礼な態度を取ったのは初めてか、3つの問いへの答えがすべて「イエス」なら、相手と面と向かって話をしよう。ただし、話し合う前には安全な場所を確保し、シミュレーションを行い、場合によっては第三者に同席を求める。話し合いの際には、「どうすれば最もお互いにとって利益になるか」を最優先に考え、決して相手の人格に触れてはいけない。また、話す言葉だけではなく、声の調子や表情など、言語以外でのコミュニケーションにも気を配る必要がある。もし、3つの問いへの答えがひとつでも「ノー」だった場合には、相手と直接、話し合ってはいけない。その後の接触では、会話を手短にし、友好的な態度を保ち、常に毅然とする。そして、最大の防御策は、自分自身がエネルギーに満ち、生き生きと活動していて、日々の成長を実感できていることである。逆境に遭遇したときも「この状況から何か学べることはないか」と考え、常に前向きに考えることによって、無礼な人から受けるネガティブな影響は抑えることができる。
●(第14章)未来に目を向けるための7つの方法
1.目標を定め、進歩を実感する
2.自分を成長させてくれるものを見つける
3.メンターの助けを得る
4.食事、睡眠、運動、マインドフルネスを活用する
5.仕事の意味を見出す
6.社内外で良い人間関係を築く
7.社外の活動で成功を目指す

●終わりに―あなたはどういう人間になりたいか
 礼節は人生に良い影響をもたらす

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