【3424】 ○ 小林 傑/山田 博之/野崎 洸太郎 『図解でわかる! 戦略的人事制度のつくりかた (2022/04 ディスカヴァー・トゥエンティワン) ★★★★

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コンサルティングファームの手を借りることになる前の準備として読む?

戦略的人事制度のつくりかた.jpg図解でわかる! 戦略的人事制度のつくりかた』['22年]

 経営コンサルティングファームによる本書は、人事制度自体を俯瞰した上で、人材ビジョン、等級、評価、報酬という人事制度の重要な要素を統合的に説明できるような「フレームワーク」の提示を目指したものです。そのフレームワークは、大手企業からの数多くの引き合いを通して、経営コンサルティングファームが生み出した「人事フレーム」をもとに作成したとのことです。

 一般に、学術書であると抽象的すぎて実務で活用しにくく、一方、実務書であれば、報酬制度や評価方法など、個々の論点についてのノウハウは詳しく書いてあるものの、人事の全体像とはリンクしていないタイプのものが多い中、本書は理念と実務を統合的に説明している点が特徴であり、その点において「フレームワーク」という言い方をしているようです。

 要となるフレームワークは全体で5+1のステップで構成されており、ステップ1が「現状分析・改定の方向性」、ステップ2が「人材ビジョン・人事制度改定コンセプト」、ステップ3が「等級制度」、ステップ4が「評価制度」、ステップ5が「報酬制度」、ラストステップが「導入・運用」となっています。

 ステップ1からステップ2にかけては、人材マネジメントのあるべき姿とその企業の現状とのギャップをどのように測り、人事制度改定の判断軸をどう作っていくかを解説しています。主として理念的・概念的な内容となりますが、図解で解説し、ポイントを整理しているため、とっつきにくいという印象は緩和されていると思います。

 ステップ3からステップ5にかけて解説されている等級制度、評価制度、報酬制度については、比較的オーソドックスな解説がなされていますが、この制度しかない、これがベストであるという示し方ではなく、あくまでも制度策定のフレームとなる考え方を示すことに主眼が置かれている印象を受けました。

 ラストステップでは、「制度3割、運用7割」であるということを踏まえた上で、人事制度が活用される運用基盤をどう整えるか、制度導入説明会の注意点や評価者トレーニングの実施ポイントなどを具体的に解説しています。

 全体を通して、例えば評価制度であれば、評価制度の役割や種類、行動評価、目標管理、評価段階・ウエイト等をひと通り解説した上で、制度の概要設計や詳細設計等について具体策の検討フレームを空欄で示すとともに、併せてそれぞれの記載例も示すというかたちをとっています。そのため、記載例を見ながら、自社の場合、検討フレームを埋めるとすればどうなるかを考えさせる、ワークブック的なつくりになっていると言えます。

 現実には、人事制度改定プロジェクトのリーダーまたはメンバーにでもならない限り、なかなかこうしたことは学習したり考えたりしないものであるし、また実践の場を経ないと、こうした知識は本当に身にはつかないという面はどうしてもあるかと思います。人事ビギナーには、本書の各検討フレームを埋めるのは結構ハードルが高いようにも思いました。

 ただし、人事パーソンには社内コンサルタント的な素養も求められると思われることから、こうしたコンサルティングファームの切り口や手法に触れておくのもいいのではないかと思います。それは、制度改定を内製的に実施することになった際にも役立つと思います。また、仮にコンサルティングファームの手を借りることになったとしても、自社最適の制度への道は自らが選択しなければならないわけです。そうしたことをイメージしながら読むといいのではないでしょうか。

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