【3425】 ◎ ビル・パーキンス (児島 修:訳) 『DIE WITH ZERO―人生が豊かになりすぎる究極のルール』 (2020/09 ダイヤモンド社) ★★★★☆

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資産を減らすという真逆の発想はユニーク。批判もあるが、啓発的。

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DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』['20年] 『Die with Zero: Getting All You Can from Your Money and Your Life』['20年]

 本書タイトルが示すところは「ゼロで死ね」、つまり「死ぬ時までにお金はすべて使いきってしまおう」ということで、人生を豊かにするためにお金を使い切るという考え方を、9つのルールにして提案しています。版元の口上も「お金の"貯め方"ではなく"使い切り方"に焦点を当てた、これまでにない"お金の教科書"」とのことで、確かにその点ではユニークであり、アメリカではベストセラーになったようです。

 ルール1は、「"今しかできないこと"に投資する」こと。今しかできないことに金を使うべきで、金を無駄にするのを恐れて機会を逃すのはナンセンスだとしています。人生の充実度を高めるのは、"そのときどきにふさわしい経験"であり、節約ばかりしていると、その時にしかできない経験をするチャンスを失うとしています

 ルール2は、「一刻も早く経験に金を使う」こと。人生で一番大切な仕事は「思い出づくり」であり、思い出を通して人生の出来事を再体験でき、「思い出の配当」はバカにはできず、年齢を重ねるごとに多くのリターンが得られるとしています。

 ルール3は、「ゼロで死ぬ」こと。莫大な時間を費やして働いても、稼いだ金をすべて使わずに死んでしまえば、人生の貴重な時間を無駄に働いて過ごしたことになるし、仕事に情熱を捧げる人であっても、稼いだ金を使うことをおろそかにすべきではないとしています。

 ルール4は、「人生最後の日を意識する」こと。人は死が迫ってこないと、合理的な判断ができないが、人生の残り時間を意識することは、現在の行動に大きな影響を与えるはずだとしています。

 ルール5「子どもには死ぬ「前」に与える」こと。死んでから与えるのは遅すぎ、死ぬ「前」に財産を与えるべきであるとしています。なぜならば、一般的に相続人の相続時の年齢は「60歳前後」であるのに対し、金の価値を最大化できる年齢は「26~35歳」であるから。親が財産を分け与えるのは、子どもが26~35歳のときが最善としています。

 ルール6「年齢にあわせて"金、健康、時間"を最適化する」こと。資質と貯蓄のバランスを最適化し、経験から価値を引き出しやすい年代に、貯蓄を抑えて金を多めに使うことを推奨し、「金」「健康」「時間」のバランスが人生の満足度を高めるとしています。また、若い頃に健康に投資した人ほど得をするとも述べています。

 ルール7は、「やりたいことの"賞味期限"を意識する」こと。どんな経験でも、いつか自分にとって人生最後のタイミングがやってくるものであり、もうじき失われてしまう何かについて考えると、人生の幸福度は高まることがあると。つまり、人生の終わりを意識すると、その時間を最大限に活用しようとすう意欲が高まるとしています。

 ルール8は、「45~60歳に資産を取り崩し始める」こと。老後のために過度に貯蓄するのではなく、金をもっと早い段階で有効に活用することを計画すべきだとしています。

 ルール9は、「大胆にリスクを取る」こと。失うものが極めて小さく、メリットが極めて大きい場合、大胆な行動をとらないほうがリスクになるとしています。

 資産を増やすことばかり励んでいる人が多い中で、資産を減らすという真逆の発想はユニークで、そのバックに、金ではなく人生の価値を最大化するためにはどうすればようかという発想があるのが共感できました。

 本書でも紹介されている『Your Money or Your Life: 9 Steps to Transforming Your Relationship with Money and Achieving Financial Independence』(邦訳『お金か人生か―給料がなくても豊かになれる9ステップ』('21年/ダイヤモンド社))で提唱された「FIRE」(Financial Independence, Retire Early movement、経済的自立と早期退職を目標とするライフスタイル)という考え方とも重なる部分があるように思いました。

 ただし、「FIRE」とは、経済的に独立して、早期に引退することであり、そのために収入増や支出減を模索しながら、意図的に貯蓄率を最大化することであって(その目的は、FIRE達成後の生涯の支出を賄うのに十分な不労所得を得ること)、一定年齢までに充分な貯蓄を得ることが前提条件になるのでないでしょうか。

 そう考えると、著者はトレーダーとして成功を収めたからこそ言える部分もあるのではないかという気もしなくはないです。40代とか50代といったら、子どもの教育費などで結構お金が必要な時期であるし、今の日本だと、子どもがいない人でも、非正規雇用のまま中年期を迎え(そのために子どもを持てなかったというのもあるかも)生活が楽ではない人も結構いるのでは。

 そうした現実問題はオミットされているため、この本には、自己中心的だという批判的な評価もあるようです。ただ、時間とお金の使い方を再考し、より豊かな人生を送るためのフレームワークを提供している点では啓発的であり、評価していいと思います(読んだ直後の評価は★★★★だったが、時間が経つにつれて日常生活で本書の趣旨について考えさせれる局面がしばしばあり、★★★★☆に評価を修正した)。

《読書MEMO》
●目次
ルール1 「今しかできないこと」に投資する
ルール2 一刻も早く経験に金を使う
ルール3 ゼロで死ぬ
ルール4 人生最後の日を意識する
ルール5 子どもには死ぬ「前」に与える
ルール6 年齢にあわせて「金、健康、時間」を最適化する
ルール7 やりたいことの「賞味期限」を意識する
ルール8 45~60歳に資産を取り崩し始める
ルール9 大胆にリスクを取る

《読書会》
■2023年06月09日 第60回「人事の名著を読む会」ビル・パーキンス 『DIE WITH ZERO』
(読書会後の懇親会)
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