【3426】 ○ アダム・グラント (楠木 建:監訳) 『THINK AGAIN―発想を変える、思い込みを手放す』 (2022/04 三笠書房) ★★★★

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「再考」することの大切さを説く。相手と意見が対立した際の対処法も。

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THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す』['22年]『Think Again: The Power of Knowing What You Don't Know』['21年] Adam Grant
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 組織心理学者で、ベストセラーとなった『GIVE & TAKE―「与える人」こそ成功する時代』('14年/三笠書房)の著者による本書では、人はその心理的な特性から思い込みを捨てて考え直すことが苦手であり、既存の考えにとらわれず考えを見直すことは、思考の柔軟性を取り戻し正しい判断を促すとして、その原理と対処法を紹介しています。

 パート1では、私たちの思考様式は、考えたり話をしたりする時、無意識に3つの職業の思考モードに切り替わり、その3つとは、「牧師」(理想を守り確固としたものにするために説教する)、「検察官」(相手の間違いを明らかにするために論拠を並べる)、「政治家」(支持層の是認を獲得するためにキャンペーンやロビー活動を行う)であるとしています。

 そして、それらとは別に私たちが持つべきは「科学者」の思考モードであり、科学者は自分の知っていることを疑い、知らないことを深掘りする力が要求され、真実を追求する時、私たちは科学者の思考モードに入り、仮説を検証するために実験を行い、新しい知識を発見するとしています。

 科学者のように考えるとは、単に偏見のない心で物事に対応することではなく、それは能動的に偏見を持たないことをいい、なぜ自分の見解が「間違っているかもしれない」のか、その理由を探し、わかったことに基づいて見解を改めることが必要であり、大抵の場合、多くの人は偏見を捨てて、様々な観点から物事を見つけることによって恩恵を受けるはずであって、私たちの思考の敏捷性が向上するのは、科学者の思考モードにいる時だからだとしています(第1章)。

 私たちの知識や考えには「盲点」があり、思考の盲点は、人を「見えていないことが見えていない」状態にし、結果として自分の判断力に誤った自信を持つようになり、自分の考えが間違っているかもしれないと考えることさえしなくなるが、対処法はあり、私たちは正しい種類の自信を持っていれば、曇りのない目で自分を見つめ、考え方を改善するよう学ことができるとしています。

人は、ある特定の分野における能力が低ければ低いほど、同分野での自己能力を過大評価する傾向にあり、これが原因で、人は自己を正しく認識できず、多くの場面で自分で自分の足を引っ張り、また、人は自分の知識に確信を持っていると、知識の隙間や誤認を探そうとしないし、当然ながら隙間を埋めたり修正したりしないとしています。

 一方で、経験不足が明らかである時は自らを過小評価するもので、人が自信過剰になりやすいのは、ド素人からワンステップ進み、アマチュアになった時であり、ほんの少しの知識が危険になり得、人は経験を積むにつれて、謙虚さを失うものだとしています。

私たちが手に入れるべきは、バランスの取れた自信と謙虚さであり、つまり、自己の能力を信じながら、自分の解決方法が正しくない可能性、あるいは問題自体を正しく理解していない可能性を認めること、そこから疑問が生まれれば、既存の知識を再評価するようになり、ほどほどの自信があれば、新しい見識を追い求めることができるとしています(第2章)。

 そして、実は、「自分の間違い」を発見することは喜びであり、「愚かなこだわり」から自由になるには、個人的感情に流されず、固定観念を捨て、「外からはいいてくる情報」に心を開くことであり、「ミスを潔く認める人」ほど評価が上がるとしています(第3章)。

 また、「熱い論戦」(グッド・ファイト)は怖れてはならず、「対立を避けてしまう心理」が革新を妨げ、「挑戦的なネットワーク」(耳の痛い意見)を避けるべきではなく、意見が合わない時に感情に流されず「理性的に反論」できるかがカギになるとしています(第4章)。

 パート2では、相手に再考を促す方法を説いています。まず。議論の場で相手の心を動かすには、相手を「敵」と見なすのではなく「ダンスの相手」だと思うことであるとして(第5章)、相手の「先入観」「偏見」とどう向き合うかを説くとともに(第6章)、「穏やかな傾聴」こそ人の心を開くとしています(第7章)。

 パート3では、学び、再考し続ける社会・組織を創造する方法を説いています。分断された社会の「溝」を埋めるために「平行線の対話」を打開していくにはどうすればよいか(第8章)、健全な懐疑心と探究心を育み、生涯にわたり「学び続ける力」を培うにはどうすればよいか(第9章)、「学びの文化」を職場で醸成しさせ、「いつものやり方」を変革し続けるにはどうすればよいか(第10章)を説いています。

 パート4では、結論として、「意義ある人生」をおくるために、視野を広げて自らの「人生プラン」を再考することを推奨しています(第11章)。

 出来るようでなかなか出来ないのが「再考」であり、自分の考えを疑うことをせず、誤った考えに気づきもしないことが多い中で、本書では「再考」することの大切さが組織論にまで落とし込んで書かれています。仕事上の相手と意見が対立した際の対処法や、建設的な議論を通して自らの思考の質を高める方法についても書かれており、ビジネスパーソンには啓発される要素の多い本であると思います。

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