【3423】 ◎ 榎本 博明 『職場の"人事心理学" (2022/04 労務行政) ★★★★☆

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モチベーションから組織運営まで、職場で役立つ心理学を学べる。

職場の人事心理学.jpg職場の人事心理学2022.jpg職場の"人事心理学"』['22年]

 本書は、「人事心理学」を標榜する現時点での唯一の書籍として、人事心理学を体得するのに必須となる基礎知識を、モチベーションから組織運営まで9ジャンル100項目にわたって解説したものであるとのことです。確かに、人事用語についての辞典や解説書はこれまでもありましたが、「人事心理学」にフォーカスした本は意外と無かったように思います。

 ジャンル区分は、モチベーション、人材育成、キャリア開発、人事評価、ストレス対処、人間関係、交渉・説得、リーダーシップ、組織運営の9つで、例えば第1章のモチベーションであれば、X理論・Y理論、欲求の変化を踏まえた対応など、第2章の人材育成であれば、学習性無力感やアイデンティ拡散、防衛的悲観主義など、第3章のキャリア開発であれば、職業適性、職業興味やワークバリュー、キャリアアンカーなどといった用語やテーマが取り上げられています。

 第4章の人事評価で、ポジティブ・イリュージョンやダニング=クルーガー効果といったことを取り上げているのも心理学という観点から特徴的ですが、第5章がストレス対処、第6章が人間関係、第7章が交渉・説得というように、こうしたジャンル区分のもとに用語やテーマが集約されていること自体が目新しいと同時に、本来的であるように思いました。人間関係管理などは人事の職務領域かと思いますが、そうした認識があまりない人もいたりする昨今です。また、個人や他部門に対して説得的コミュニケーションができることは、営業職などに限らず、人事パーソンにも求められる資質であると言えます。

 書かれていることはいずれも、人事パーソンに限らず、管理職や経営者は知っておいて、リーダーシップの発揮や組織運営に役立てたい知識ばかりですが、「人事の仕事は、まさに心理学の守備範囲にあるといってよい」と著者も述べているように、その前にまず人事パーソンとしての自分自身が押さえておきたいところです。

 これまで多くの職場心理学に関する本を著している著者だけに、それぞれの解説が具体例を挙げるなどしてわかりやすく解説されています。書店で見かける組織心理学などの入門書的な解説本の中には、図解を多用してぱっと見て概要が理解できるようにしたものもあり、確かにそれはそれで分かりよいのですが、「何となくわかった気になっている」だけという面もあるかもしれません。

 本書の場合、著者自身の言葉でしっかり解説されていて、また、100項目ある各項の前半は用語などの基本解説となっているのに対し、後半は実践のためのヒントが示されている構成となっているため、読み込みことによって理解が深まり、実践へのより強固な足掛かりにもなると思われます。

 改めて「人事心理学」というものが関わる範囲が広範であることに思い当たり、本書の100項でそのすべてをカバーしているとは言えないと思います。しかしながら、書かれていることは知っておきたいことばかりです。

 どの章からでも読め、それでいて、各項は読み物を読むように読めます(もちろんその際には自分の経験に引き付けて読むべきですが)。人事パーソンとして、職場で役立つ心理学を学ぶ上での"すぐれもの"ではないかと思います。

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