【3419】 ○ スチュワート・D・フリードマン (塩崎彰久:訳) 『トータル・リーダーシップ―世界最強ビジネススクール ウォートン校流「人生を変える授業」』 (2013/04 講談社) ★★★★ 《再読》

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リーダーシップとワーク・ライフ・バランスを統合させた「トータル・リーダーシップ」。

トータル・リーダーシップ.jpgトータル・リーダーシップ.jpg スチュワート・フリードマン(Stewart Friedman).jpg スチュワート・フリードマン(Stewart Friedman)
トータル・リーダーシップ 世界最強ビジネススクール ウォートン校流「人生を変える授業」』['13年]

Work and Life The Four-Way View.jpg 著者は、リーダーシップ開発とワーク・ライフ・バランスに関する第一人者であり、本書はそうした著者が唱えるところの、リーダーシップとワーク・ライフ・バランスを統合させた「トータル・リーダーシップ」の強化ステップやその内容等について、著者がペンシルバニア大学で実際に行っている講義に沿ってテキスト化したものです。個人的には、10年前に読んだものの再読・再整理になります(翻訳者の塩崎彰久氏は弁護士で、父は塩崎恭久元厚生労働大臣。2021年10月衆議院議員総選挙にて初当選して自身も国会議員となり、2023年9月、岸田改造内閣で厚生労働大臣政務官に就任している)。

 第1章「トータル・リーダーシップへの旅」では、「トータル・リーダーシップ」とは、「リーダーシップ」と「ワーク・ライフ・バランス」というこれまで直接関連しないと考えられてきた概念を融合する新たな概念であり、仕事、家庭、コミュニティ、自分自身の人生の四つの領域に調和をもたらすことで、リーダーシップにも磨きをかけるものであるとしています。「トータル・リーダーシップ」の目的は、仕事、家庭、コミュニティ、自分自身の人生の四つの領域における「四面勝利」であり、一般にはレード・オフと思われがちなこれら四領域が実は相互連関しているとの新発見から、新たな人生は始まるとして、以下、そのためのエクササイズを紹介しています。

 よきリーダーは自らの価値観に沿った明確なビジョンを持つとし、第2章、第3章では、ビジョンを描くために、何が最も大事なのかを見極めていくエクササイズになっています。第4章、第5章では、自分のビジョンにまわりの人を巻き込んでいく前提として、自分にとって誰が本当に大切なのかを探っていきます。第6章、第7章では、創造力を発揮して、人生の四つの領域のすべてに成果を上げるための「実験」を計画し、実行に移していくことになります。そして最後には、実験がパフォーマンスにどう影響したかを分析して、うまくいった理由、いかなかった理由を挙げ、そこから卓越したリーダーとしての人生を送るための知見を得るところとなります。

 第2章「あなたにとって本当に大切なものは何ですか」では、まず、自分はどんな人間か、どういう人間になりたいのかを問い直し、どんなリーダーになりたいか、自身の中核的な価値観は何かを見つめ直すことを説いています。

Wharton, Total Leadership.jpg 第3章「4つの領域を定義する」では、仕事、家庭、コミュニティ、自分自身の四つの領域の自分にとっての関心度をチャート化し、さらにそれらが調和しているかを四つの円で表してみることで、人生の四の領域を調和させるために、自分に何ができるかを考えてみることを推奨しています。

 第4章「人生の大事なステークスホルダーは誰ですか」では、自分にとってカギとなるステークスホルダーを特定すること、そのステークスホルダーは自分に何を求め、自分はステークスホルダーに何を期待しているかを考えてみることを勧めています。

 第5章「大事なステークスホルダーと心から繋がるためには」では、ステークスホルダーとの関係を掘り下げるためにダイアログ(対話)について解説し、相手の視点に立って新たな可能性を見つけるにはどうすればよいか、ステークスホルダーの気持ちを探るにはどうすればよいかを説いています。

 第6章「ビジョンに近づく「実験」を計画してみよう」では、自分を頼りにしている人々の期待にうまく応えられる人間になるために、知恵を絞った「実験」を計画・実行してみようとして、実験のアイデアの生み出し方やプランの立て方についてアドバイスしています。

 第7章「ステークスホルダーと力を合わせてビジョンを実現しよう」では、前進への決意をさらに固めるためのアドバイスとして、行動を開始すること、利他に貢献すること、現在の人的ネットワークの隙間を見つけてそれを広げ、身近な人々の輪を超えて変化を起こすことを説いています。

 第8章「「リーダーシップの終わらぬ旅」では、実験の結果やステークスホルダーの期待を振り返り、さらには「四面勝利」の視点を振り返ることで、自分にとって何が大事なのか、第3章の関心度チャートと四つの円を新たに書き直してみることを勧めています。そして、ここまでのエクササイズを通して、リーダーシップの教訓をどう導き出すか、学習者・指導者として成長するための次のステップは何かを説いています。

 仕事、家庭、コミュニティ、自分自身で各「円」を描かせて、その大きさや重なり具合から、その人の人生における比重の置き方や価値観の一致度をみるやりかたは興味深いです。これは、キャリアカウンセリングなどでは以前から用いられている手法ではないかと思いますが、それをリーダーシップ理論にまとめあげているところが画期的と言えるでしょう。

 因みに、翻訳者の塩崎彰久氏は元厚生労働大臣・塩崎恭久氏の長男。本書刊行時点で長島・大野・常松法律事務所パートナー・弁護士でしたが、2021年10月31日の第49回衆議院議員総選挙にて初当選し、現在衆議院議員です。

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