【3460】 ◎ 仁科 雅朋 『心理的安全性がつくりだす組織の未来―アメリカ発の心理的安全性を日本流に転換せよ』 (2023/03 産業能率大学出版部) ★★★★☆

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精神文化論から入り、日本の組織の中で心理的安全性を高める実践的手法を提案。

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心理的安全性がつくりだす組織の未来: アメリカ発の心理的安全性を日本流に転換せよ』['23年]

 本書は、近年、日本でも注目されているアメリカ発の心理的安全性を、欧米と日本の文化の違いを見極め、両者の良い点を組み合わせて心理的安全性を阻む固定観念を打破して効果的に日本流に転換し、企業や組織、個人が心理的安全性を実践する方法を示したものであるとのことです。

 第1章では、エイミー・C・エドモンドソンの『恐れのない組織』を俯瞰し、心理的安全性とは「みんなが気兼ねなく意見を述べることができ、自分らしくいられる文化」のことであるとしています。そして、心理的安全性の高い組織を作るためには、「自分らしくある」というオーセンティック・リーダーシップが有効であるとしています。

 第2章では、欧米の産業発展の歴史と背景を、フレデリック・W・テーラーの科学的管理法、ヘンリー・フォードのフォード・システム、エルトン・メイヨーの「ホーソン実験」などを中心に振り返っています。そして、欧米の影響を受けて独自の強みを発揮してきた日本的経営の根底には「家族主義」があったとし、それがバブル崩壊後、失われた30年が経過し、日本的経営も崩れ、Z世代の出現などにより、どの組織も時代に合った変革が求められているとしています。

 第3章では、日本人の精神文化は、ルース・ベネディクトの『菊と刀』に代表される恥の文化であり、応分の場の中での役割を逸脱した行為を恥ずかしく感じる文化であるとしています。一方、アメリカの精神文化は、キリスト教を根底にした罪の文化であり、この日米の違いは、「恩」と「愛」という精神性の違いとなって現れるとしています。そして、日本人はその「恩と恥と義理」という精神性のため、役割(仕える人)が変わればその人に従うという二面性を有するとしています

 第4章では、日本における心理的安全性の高い組織の作り方として、透明性、ノンジャッジメント、操作主義に陥らないこと、フィードバック力を鍛えることなどを提唱するとともに、心理的に安全な会議を行うための具体的な方法を解説しています。また、第5章では、自分自身の心理的安全性の高め方として、これから日本でも広まっていくであろう「マインドフルネス瞑想法」について、その意味と手法を掘り下げています。

 第6章では、著者自身のコンサルティング経験から、心理的安全性を高めた組織変革事例を4つ紹介しています。第7章では、どのようにして心理的安全性を高めたかを4人の中堅企業の経営者に対してインタビューし、日本の組織の閉塞感を打破するために何が必要かを聞き出してい4す。最終章では、心理的安全性の先にある未来についての著者の考えが述べられています。

 第1章・第2章が「心理的安全性の基礎」と「欧米の産業発展史と日本的経営の特性」編、第3章・第4章が「日本人の精神文化」とそれをもとにした「日本における心理的安全性の高い組織の作り方」編、第6章・第7章が、日本での「心理的安全性を高めた事例」編といった構成と言えますが、この精神文化論から入って具体的な方法論にいく流れが、非常に説得力があり、わかりよいものであったと思います。

 心理的安全性について理解を深めるだけでなく、それを組織の成長につなげるための実践的な方法を探る上で示唆に富む内容であり、組織の在り方や個人の働き方を再考する上でも参考になる本でした。お薦めします。

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