【3496】 ○ リチャード・ボヤツィス/メルヴィン・L・スミス /エレン・ヴァン・オーステン (和田圭介/内山遼子:監訳/高山真由美:訳) 『成長を支援するということ―深いつながりを築き、「ありたい姿」から変化を生むコーチングの原則』 (2024/04 英治出版) ★★★★

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個人のビジョンからアプローチし、持続的な変化を促す「思いやりのコーチング」。

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成長を支援するということ――深いつながりを築き、「ありたい姿」から変化を生むコーチングの原則』['24年]リチャード・ボヤツィス

 本書は、従来のコーチングに対し、相手と深いつながりを築き、「ありたい姿」から変化を生む新たなコーチングの原則を提唱したもので、成長を願う相手の情熱やビジョンを呼び起こし、本気で相手を支援するための理論と実践方法を示したものです。

 第1章では、外から規定された目的を果たすための行動を促す従来のコーチングを「誘導型のコーチング」とし、それに対し、相手に心からの気遣いや関心を示し、相手を中心に考え、相手が自分のビジョンや情熱の対象を自覚、追求できるようにするコーチングを「思いやりのコーチング」と呼んで、他者が学び、成長するのを真に助けるには、後者の方がうまくいくとしています。

 第2章では、優秀なコーチは、人々が追い求め、潜在能力を最大限に発揮するためにインスピレーションを与え、励まし、サポートするとし、これこそが思いやりのコーチングであり、真に持続する望ましい変化を達成するコーチングでは、「共感する関係」を築くことが重要だとしています。

 第3章では、思いやりのコーチングの方法をさらに掘り下げていきます。「人は変わりたいと思ったときに変われる」と気づくことの重要性から始め、持続する望ましい変化モデルとして、「意図的変革理論(ICT)」における5つのディスカバリーを解説しています。

 第4章では、脳科学の観点から、不安や怒り、罪悪感といったネガティブな感情を引き起こすNEAと、希望や喜び、高揚感といったポジティブな感情を呼び起こすPEAという2つの脳内要素を示し、PEAを呼び込む方法としては、まず相手に夢やパーソナルビジョンを尋ねること、さらに、思いやりを示すことであるとし、マインドフルネスや遊び心などの効用も説いています。

 第5章では、変化や学びのプロセスを維持するには、PEAの影響下にいる時間がNEAの影響下にいる時間の2~5倍必要であり、PEAは安全、希望、喜びなどの感情を生み出し、私たちの繁栄を助け、NEAは、ストレスホルモンを活性化することで、脅威に対する闘争、逃亡、停止などの反応を引き起こし、私たちの生存を助けるとしています(両者は相互補完的な関係にあり、コーチングにおいても、NEAとPEAのバランスを保つことが重要)。

 第6章では、パーソナルビジョンについて述べています。個人のビジョンを発見し発展させることが、PEAを呼び起こすための最も強力な方法であるとし、パーソナルビジョンがいかに変化を生み出すかを述べるともに、パーソナルビジョンは、特定の目標というより、夢を映像化したものに近いとしています。

 第7章では、夢を現実に変える手助けをするために、コーチ、マネジャー、その他の支援者が対象者と共鳴する関係を育むにはどうすればよいかを、第8章では、組織の中でコーチングや助け合いの文化を築くにはどうすればよいかを、第9章では、コーチングに適した瞬間の見分け方や、気の進まない相手に対してどう対処すべきかを述べています。

 そして最終第10章で、改めて相手を思いやることの大切さを説き、コーチングにおける対話を通して人々を支援し、鼓舞するにはどうすればよいか、これまで述べてきたことを振り返りながら、読者それぞれの将来に向けてアドバイスを呼びかけています。

 本書で提唱されている思いやりのコーチングとは、個人のビジョンをもとに、総合的なアプローチを取りながら持続的な変化を促すプロセスであるといえ、お互いに共鳴するコーチングによって、真の人間関係を築かれ、支援者はビジョンを実現できるようになり、より充実した人生を送れるようになるという考えは、どうしてもコーチングをテクニカルなものと捉えがちな我々にとって、従来のコーチングの枠を超えるものであり、たいへん啓発的であったように思います。

 著者の一人、リチャード・ボヤツィスは、ダニエル・ゴールマンの『EQリーダーシップ』(2002年/日本経済新聞社)の共著者であることも念頭に置いて読むといいのではないかと思います。

《読書MEMO》
●「意図的変革理論(ICT)」における5つのディスカバリー
・ディスカバリー1 理想の自分
 コーチや支援者は、コーチング対象者がどのような人間になりたいか、どのような人生を送りたいかを明確にする手助けをする。この探索はキャリアだけに留まらず、人生の全ての側面にわたる。
・ディスカバリー2 現実の自分
 コーチは対象者の現実の姿を理解することを支援し、その人の強みや弱みを明らかにし、理想の自分と比較する。
・ディスカバリー3 学習アジェンダ
 コーチや支援者は対象者の強みを活かし、理想と現実のギャップを埋めるための学習アジェンダを作成するよう促す。
・ディスカバリー4 新しい行動の実験と実践
 新しい行動を試みることを奨励し、失敗しても再度挑戦するか別のアプローチを試すようにサポートする。
・ディスカバリー5 共鳴する関係と社会的アイデンティティ・グループ
 対象者が信頼できる人々のネットワークから引き続きサポートを受けることが重要である。これらの発見を通じて、コーチや支援者は対象者が自己効力感を高め、希望や楽観を持つように励まし、核となる価値観や人生の目的について深く考えるよう促す。
●NEAとPEA
▪️NEA
 不安や怒り、罪悪感といったネガティブな感情を引き起こし、目の前のタスクの実行や課題の解決を促すもの。
▪️PEA
 希望や喜び、高揚感といったポジティブな感情を呼び起こし、パーソナルビジョンに向けた自律的な成長を促すもの。

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