【3451】 ◎ デヴィッド・グレーバー (酒井隆史/芳賀達彦/森田和樹:訳) 『ブルシット・ジョブ―クソどうでもいい仕事の理論』 (2020/07 岩波書店) ★★★★☆

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「ブルシット・ジョブ」という禁忌を正面切って論じたものとして意義深い。

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ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論』['20年]デヴィッド・グレーバー(文化人類学者)

『ブルシット・ジョブ.jpg 1930年、ケインズは、20世紀末までに、テクノロジーの進歩によって週15時間労働が達成されるだろうと予測し、テクノロジーの観点からすればそれは達成可能だったはずが、実際には達成されなかったのはなぜなのか――本書は、こうした疑問からスタートし、それは、実質的に無意味な仕事=「ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)」が蔓延したからだとしています。

 第1章では、ブルシット・ジョブを、「被雇用者本人でさえ、その存在を正当化しがたいほど、完璧に無意味で、不必要で、有害でもある有償の雇用の形態」であると定義し、とはゆえ、その雇用条件の一環として、本人は、そうではないと取り繕わねばならないように感じているとしています。

 第2章では、ブルシット・ジョブの5つの類型として、①取り巻き:誰かを偉そうにみせたり、偉そうな気分を味わわせたりするためだけの仕事、②脅し屋:雇用主のために他人を脅したり欺いたりし、そのことに意味が感じられない仕事、③尻ぬぐい:組織に存在してはならない欠陥を取り繕うためだけの仕事、④書類穴埋め人:組織が実際にはやっていないことを、やっていると主張するための仕事、⑤タスクマスター:他人への仕事の割り当てだけを行う仕事、を挙げています。

 第3章、第4章では、ブルシット・ジョブによる精神的暴力について考察しています。例えば、意味のない仕事は、その仕事に従事する人を惨めな気持ちにさせるだけでなく、時には脳に損傷を起こすほどのダメージを与えるとしています。人は、自分の行動が何かに影響を与えて結果が得られるという広い意味での「仕事」に根源的な悦びを感じるように出来ていて、ブルシット・ジョブは、人からその喜びを取り上げる精神的暴力だとしています。

『ブルシット・ジョブ―クソどうでもいい仕事』.jpg 第5章では、ブルシット・ジョブが増殖するのには、個人的な次元、社会的・経済的な次元、文化的・政治的な次元の、それぞれの次元の理由があるとしています。例えば社会的・経済的な次元では、近年の金融資本の増大に伴い、金融や情報関連の(ブルシット・ジョブに発展しやすい)仕事が増加したこと、「雇用創出」は良いものとされ、無駄な仕事であっても雇用を減らすような大胆な政策を選択しにくいことが、理由として挙げられるとしています。

 第6章では、なぜ我々は無意味な雇用の増大に反対しないのかを、特に仕事の「価値」に注目して考察しています。社会的価値の低いブルシット・ジョブが高給であったりする一方、社会的価値の高いエッセンシャルワーカーの給料が低いという問題があり、奇妙なことに、労働の社会的価値が高まるほどその仕事の経済的価値が下がっているようであると。その考えられる理由の一つとして、世間にはどこか、教師などの社会的価値が高く尊い仕事は、お金目当ての人間が行うのはふさわしくないと考える風潮があり、これは言い換えれば、社会的価値の高い仕事に就き、社会に便益を与えていることを自覚し喜びを感じている人は、より多くの報酬を期待する権利はなく、反対に自分の仕事は有害で無意味だという認識に苛まれている人は、まさにこの理由によって、より多くの報酬を受け取ってもよいという感覚が存在しているためだとしています。

 最終章の第7章では、ブルシット・ジョブの政治的影響について、また、それを脱出する一つの方法について考察しています。ブルシット・ジョブの存在は、仕事に意味を求める人間の性質にも、合理性を追求する経済の原則にも反しており、つまるところ、ブルシット・ジョブの存在を許す現代の労働状況がこのような形になっているのは、政治的な力なのだとしています。そして、これまで指摘してきたジレンマを終結させるには、「普遍的ベーシック・インカムの導入しかない」とし、つまり「労働と報酬を切り離す」ことで、労働本来がもたらす楽しみややりがいに応じ、人が職業を選ぶ社会に転換させることを提案しています。

 本書は、現代の資本主義社会において、あるわけないという思い込み故に、(薄々気付いている人はいたものの)これまでほとんど言われなかった(禁忌とされてきた)「ブルシット・ジョブ」というものを正面切って論じたものとして意義深く、また、コロナ禍に見舞われ、AIへの期待と不安が大きい現代において、今後の仕事というものを考えるにあたり、この本が示唆するものは大きいと思います。本書を読み、周囲を見回してみて、仕事というものについて再考するのもよいかと思います。

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