【3452】 ◎ マシュー・サイド 『多様性の科学―画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』 (2021/06 ディスカヴァー・トゥエンティワン) ★★★★☆

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多様性の重要性を豊富な具体例を示して説明。我々に意識変革を迫る。

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多様性の科学』['21年]マシュー・サイド(イギリスのジャーナリスト、作家、放送作家、元卓球選手)

『多様性の科学』2.jpg 著者の『失敗の科学―失敗から学習する組織、学習できない組織』('16年/ディスカヴァー・トゥエンティワン)に続く第2弾(ただし『才能の科学―人と組織の可能性を解放し、飛躍的に成長させる方法』('22年/河出書房新社)は『非才!―あなたの子どもを勝者にする成功の科学』('10年/柏書房)として、著者の本としては先に刊行されている)。画一的な組織は凋落し、複数の視点で問題を解決する組織は成功するとして、多様性の重要性を豊富な具体例を示して説明し、致命的な失敗を未然に見つけ、生産性を高める組織づくりを説いた本です。

 第1章では、画一的な集団には「死角」があることを説いています。ここで主に取り上げられているのは、9・11テロ事件を防げなかったCIAであり、CIAにおける人材の偏りが失敗を助長したとし、異なる視点を持つ者を集められるかがカギとなり、画一的な視点では盲点を見抜けないとしています。

 第2章では、同質者の集まった組織と反逆者(異質者)の集まった組織でどちらが優れた成果を生み出すかを、サッカーの英国代表の技術顧問委員会に起業家や陸軍士官など門外漢を集めたケースを紹介し、画一的集団の危険性を1980年代の「人頭税」の失敗、ある町議会の積雪対策の盲点から説明、精鋭グループよりも多様性のあるグループの方が上であることを論じ、最後に戦時中にクロスワードの愛好家を暗号解読チームに入れたことで、ドイツ軍を早期に敗北に追い込んだ例を紹介しています。

 第3章では、1996年の「エベレスト大遭難事件」を主に取り上げ、また、1978年の「ユナイテッド航空173便燃料切れ墜落事故」で副操縦士らが機長に進言できなかった点に着眼し、支配的なリーダーがいるとほかのメンバーは本音を言えないというヒエラルキーが落とし穴をつくるとしています。また、こうしたヒエラルキーには、支配型のヒエラルキーのほかに尊敬型ヒエラルキーというのもあり、反逆者のアイデアをリーダーが脅威と受け止めず、心理的安全性が確保されていれば、チームのパフォーマンスは上がるとしています。

 第4章では、スーツケースにキャスターが付いた時のことを例に、偏見は発明の邪魔をするとし、また、イノベーションは多様性の中でこそ生まれ、「漸進的イノベーション」と「融合のイノベーション」があるが、「融合のイノベーション」はこれまで過小評価されてきたが重要であり、多様性と関係が深いこと、世界的に有名な起業家たちも、成功の原点には多様なネットワークでつながった頭脳があったとしています。

 第5章では、ソーシャルメディアを利用する際、自分と似た興味関心をもつユーザーをフォローする結果、意見を発信すると自分と似た意見が返ってくる(それによってますます偏った考えに陥っていく)「エコーチェンバー現象」というものを解説、そこから抜け出した例として、自身がどっぷり浸かっていた白人至上主義から抜け出したデレク・ブラックのケースを紹介しています。

 第6章では、ダイエットの諸説に惑わされる人が多い中、ダイエットと多様性について考察するに際して、計算生物学者のエラン・シーガルの研究を引き合いにしてます。エランはダイエットの研究を重ねるうちに、ダイエットが人間の多様性を無視していることに気づいて、食事療法は一人ひとりで異なると訴えましたが、著者は標準化を疑う眼があなたにはあるかと問いかけています。

 第7章では、個人主義を集団知に広げるためにはどうすればよいか、日常に多様性を取り込むための3つのこととして、「無意識のバイアス」を取り除く、陰の理事会(若い社員が上層部に意見を言える場)、与える姿勢(ギバー)を挙げ、自分とは異なる人々と接し、馴染みのない考え方や行動に触れることが、進歩をもたらす大きな力になるとしています。

 致命的な失敗を未然に防ぎ、組織を伸ばすにはどうすればよいかを説いた本ですが、画一指向というのはどの組織でもあるのではないでしょうか。「ギバー」のところで紹介されているアダム・グラントの近著『THINK AGAIN―発想を変える、思い込みを手放す』(2022年/三笠書房)もそうですが、「我々一人ひとりの意識を根本的に変えにきている」本であり、啓発される要素は多いと思います。

《読書MEMO》
●【目次】
第1章 画一的集団の「死角」
第2章 クローン対反逆者
第3章 不均衡なコミュニケーション
第4章 イノベーション
第5章 エコーチェンバー現象
第6章 平均値の落とし穴
第7章 大局を見る

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