【3457】 ◎ リチャード・S・テドロー (土方奈美:訳) 『なぜリーダーは「失敗」を認められないのか―現実に向き合うための8の教訓』 (2011/01 日本経済新聞出版社) ★★★★☆

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経営者は不都合な事実を認めない傾向にあり、それは会社を破滅に導くとしている。

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なぜリーダーは「失敗」を認められないのか: 現実に向き合うための8の教訓』['11年] 『なぜリーダーは「失敗」を認められないのか』['15年/日経ビジネス人文庫]
Tedlow, Richard S
Tedlow, Richard S .jpg 頭も良く、学歴も立派で、輝かしい経歴を持ち、切れ者の部下を抱える企業トップが、なぜ目の前の「現実」を認められないのか?――本書は、ハーバード・ビジネススクールの著名教授が、「否認」が原因で危機に陥った有名企業の事例を解き明かし、それを避けるためにリーダーが取るべき行動と「不都合な真実」を受け入れるための8つの教訓を説いたものです。

 第1部では、現実を直視せずに失敗した企業や経営者の事例が紹介されています。取り上げられているのは、"モデルT"の成功で自動車産業を興隆させたものの、自分にとって都合の悪い情報を遮断したために、会社を誤った方向に導いてしまったヘンリー・フォード(第1章)、ラジアルタイヤの出現で業界構造が一変したことを認めなかったために凋落したタイヤ業界の5大メーカー(第3章)(5社のうち生き残ったのはグッドイヤーのみ)、自分たちに都合のよい統計だけを信じ、不都合なものを無視した大手食品スーパーのA&P(第4章、その後、2015年に経営破綻)、シカゴに摩天楼を築いたのもつかの間、Kマートに買収された小売大手シアーズ(第5章、その後、2018年に経営破綻)などで、そのほかIBM(第6章)、コカ・コーラ(第7章)、さらにドットコムバブルとその崩壊(第8章)などの事例も紹介されています。IBMについては、コンサルタント出身のルイス・ガースナーによる経営の再建ストリー、コカ・コーラについては、ライバル会社ペプシコにおいてロジャー・エンリコがとった戦略などについても書かれています。

 フォード社の創業者ヘンリー・フォードは、革新的な生産技術によって、安価で庶民が買えるモデルTを生み出したことにより、米国に広く車社会を実現し、モデルTは、19年間という長きに渡り、ほぼ仕様の変更なく作り続けられ、その総販売台数は1500万台余におよぶ大ヒット作となったといいます(因みに、この台数は市場歴代第2位であり、第1位は日本のカローラだそうだ)。しかし、モーターリゼーションが進行するにつれ、人々の指向が多様性を帯び、その一つが、ボデーカラーでした。モデルTは、乾燥の早い塗色として黒しかなかったそうですが、人々は、他の色を求め始め、ボディスタイルや装備など、もっと優雅で豪華なものを嗜好し始めていたのでした。このユーザー指向の変化を捕まえたのがGMであり、モデルTより多少割高でも、その様な、好みの色やボディスタイル、装備などを求め、モデルTの売上は頭打ちになったのでした。このことは、ヘンリー・フォードが自らの社長室の窓から通りを走るクルマを見れば一目瞭然のことだったことです。その様な中、社の前途を憂いヘンリー・フォードに意見具申した幹部は、なんと彼に解雇されてしまったとのことです(第1章)。

 経営者やリーダーがどうして失敗を認められないのかについては、自我を脅かす外の現実に対する自己防御のメカニズムが無意識に働くためであり、これは個人的な場合もあるが、グループシンク(集団浅慮)と呼ばれる集団的行為であることも多いとしています。そして、否認は強力な本能だが、きちんとした自己認識、批判に対するオープンな姿勢、自らの認識とは矛盾する現実への寛容さなどを通じて、否認への防御を固めることできるとしています(第2章)。

 第2部では、事実の否認に陥りそうになりながらも、現実を見極め、それを克服した事例が紹介されています。取り上げられているのは、デュポン(第9章)、インテル(第10章)、ジョンソン&ジョンソン(第11章)などであり、彼らは、どうやって否認を回避することができたのかを、最終章(第12章)で次の8つの教訓としてまとめています。

  1.手遅れになるまで危機を待たない
  2.事実を曲解しても、待ち受ける現実は変わらない
  3.権力は人を狂わせる
  4.経営陣は、悪い知らせを聞く耳を持つ
  5.長期的な視野に立つ
  6.バカにしたり、歪曲した言葉遣いには要注意
  7.隠すことなく真実を語る
  8.失敗は、常識に囚われることから始まる

 紹介されている、事実の否認に起因する大企業の「凋落ストーリー」は、読む者を魅了します。優秀であるとみられている経営者さえも、不都合な事実を認めない傾向にあり、それは会社を破滅に導くことにもなるということでしょう。また、それは、CEOなどに限らず、リーダー全般に当てはまることであり、偉大なリーダーか否かは、厳しい現実に向き合えるかにかかっているということになるのでしょう。そのことを改めて強く思わされる本です。

 ビジネス書としては大変読みやすいし理解しやすく、また、デュポンの創業者の父親が、フランス革命の嵐の中、断頭台に上がる1日前にロベスピエールが処刑されて助かったとか、最近まで目にしていたコカ・コーラ・クラシックの「クラシック」の誕生の経緯とか色々あって、読み物としても飽きさせないものでした。

【2015年文庫化[日経ビジネス人文庫]】

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