【3456】 ◎ コリン・パウエル/トニー・コルツ (井口耕二:訳) 『リーダーを目指す人の心得 文庫版』 (2017/06 飛鳥新社) ★★★★☆ 《再読》

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文庫化による再読だが、説得力ある。
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リーダーを目指す人の心得 文庫版』['17年]  『リーダーを目指す人の心得』['12年]"It Worked for Me: In Life and Leadership"
PRESIDENT (プレジデント) 2019年 10/4号
「プレジデント」201910.jpg ジャマイカ移民の子で、子ども時代はニューヨークのサウス・ブロンクスのストリートキッドであり、若い頃にはぺプシ工場の清掃夫をしていたのが、陸軍入りして昇進に昇進を重ねて上りつめ、4つの政権でアメリカ軍制服組トップである統合参謀本部議長(1989-1993)などの要職を歴任、最後はジョージ・W・ブッシュ政権で国務長官(2001-2005)を務めたコリン・パウエル(Colin Luther Powell、1937-2021)が、多くの逸話や自らの体験をもとにリーダーシップについて語った本です。纏めたのは、専ら軍人の回顧録を書いているライターのトニー・コルツ、訳者は『スティーブ・ジョブズ―偶像復活』('05年/東洋経済新報社)、『スティーブ・ジョブズ(上・下)』('11年/講談社)等、ジョブズの伝記なども訳している井口耕二氏です。

リーダーを目指す人の心得 管.jpg 少し前になりますが、菅義偉(すが よしひで)氏が2020年9月に総理大臣に就任した際に、官房長官時代に読んで以来いかなる時も心の支えにしてきた愛読書であると表明したことで話題になりました。その翌年['21年]10月に著者コリン・パウエルが84歳で亡くなったのが惜しまれます。以前、単行本で読みましたが、今回は、文庫化されたものを再読し、復習的に内容を纏め直してみました。


 第1章「コリン・パウエルのルール」では、私の「13ヵ条ルール」というリーダーに求められる"自戒13カ条"が紹介されていて、事例に沿った分かりやすいリーダー訓にまず引き込まれます。その13カ条とは、以下の通りです。
 1.なにごとも思うほどに悪くない。翌朝には状況は改善しているはずだ。
 2.まず怒れ。そのうえで怒りを乗り越えろ。
 3.自分の人格と意見を混同してはならない。さもないと、意見が却下されたときに自分も地に落ちてしまう。
 4.やればできる。
 5.選択には細心の注意を払え。思わぬ結果になることもあるので注意すべし。
コリン パウエル.jpg 6.優れた決断を問題で曇らせてはならない。
 7.他人の道を選ぶことはできない。他人に自分の道を選ばせてもいけない。
 8.小さなことをチェックすべし。
 9.功績は分けあう。
 10.冷静であれ。親切であれ。
 11.ビジョンを持て。一歩先を要求しろ。
 12.恐怖にかられるな。悲観論に耳を傾けるな。
 13.楽観的であり続ければ力が倍増する。

 第2章「己を知り、自分らしく生きる」では、自分を本当に知ることの重要性と、いつも自分らしくある方法を、説いています。ここでは、仕事バカになるな、必要だと思う以上に人に親切にせよ、常に問題を探して歩けとも言っています。

 第3章「人を動かす」では、自分の部下を中心に、ほかの人を知ることに焦点を当てています。ここでは、部下を信じること、部下に尊敬されようとせず、まず部下を尊敬することなどを説いています。

 第4章「情報戦を制する」では、近年のデジタル世界における自らの経験を語り、情報戦を制するにはどうすればよいか、著者にとっての話をするときに意識すべき「5種類の聞き手」とは誰かなどを解説しています(著者にとってのそれは、記者、米国民、政治家や軍部リーダー、敵、兵士の5つであると)。

 第5章「150%の力を組織から引きだす」では、偉大な管理者、偉大なリーダーになる方法を説いています。まず、自分の側近として生き残る方法(べからず集)を挙げ、ひとつのチームになること、準備を整える時間を与えること、「命令だ!」と命令しないことなど説いています。また、組織において「必要欠くべからざるとされている人物」が実は組織の足を引っぱっているのに、その現実を直視しないリーダーがいるが、リーダーは、組織にみあう能力がなくなった者を交代させられるよう、常に用意を整えておかなければならないとしています。

 第6章「人生をふり返って―伝えたい教訓」では、自分のこれまでの人生を振り返るとともに、若い人に伝えたい教訓を述べています。ここでは、リーダーたるものは、降ってわいた問題も解決しなければならないとする一方で、スピーチで人の心をつかむ楽しい工夫などについても語られていて、エッセイとしても読める章となっています(ダイアナ妃との思い出―レセプションでダイアナ妃を巡って主賓のヘンリー・キッシンジャーをさし置いて王妃と近しく接したこと―を嬉々として語っている)。全体を通しても、リーダーシップの啓蒙書としてばかりでなく、読みものとしても興味深く、楽しく読めるものとなっています。

 原題は" It Worked for Me: In Life and Leadership"。「For Me(私にとっては)」となっているのは、リーダーシップに正解というものはなく、「誰もがこれでうまくいく」とはいうわけではないということを示唆しているわけですが、そうでありながらも、書かれていることの普遍性と説得力は、巷に出回っている「これを読めばあなたも有能なリーダーになれる」的な薄っぺらな自己啓発本を凌駕して大いに余りあるものです。

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