【3445】 △ 浜 矩子 『人が働くのはお金のためか (2023/02 青春新書INTELLIGENCE) ★★★

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21世紀の資本による、21世紀の労働者に対する「搾取と疎外」。

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人が働くのはお金のためか (青春新書インテリジェンス) 』['23年]

 本書において著者は、「21世紀の労働」という名のミステリーゾーンを旅するとして、ブームを引き起こした経済学者トマ・ピケティの著作『21世紀の資本』(2014年/みすず書房)などに着目しながら、「21世紀の労働」の有り様と実態に迫りつつ、そもそも「人はなぜ働くのか」という考察を進めています。

 『21世紀の資本』で言われていることを著者なりに要約すると、グローバル化の進展とともに富の偏在は進み、「21世紀の資本」は凄まじい規模と速度で国境を越え、暴利をむさぼり、富裕層の不労所得が増大と集中をする一方で、経済格差は広がり、「使い捨て型」雇用は増え、働く人々に貧困が忍び寄る―ということになります。

 第1章では「人はなぜ働くのか」をテーマにした文献を14冊挙げ、それらのアマゾンのサイトにおける「読者のブック・レビュー」を分析しています。そして、そこから、自分たちは「21世紀を生きる労働者」だということを意識しつつも、知的創造活動の成果に見合う待遇(お金)を受けていない、「疎外された労働」の立場に置かれていると感じていることが読み取れるとしています。

 一方で、「若者向けの就活支援サイト」に目を向けると、21世紀の労働者の多くが「お金を得るために働く」と言っている現実を踏まえつつも、彼らに「カネのために働くのか」と問いかけ、企業の採用面接で「なぜ働くの?」と聞かれた際の対応例としては、「自己実現」と「社会貢献」を模範解答として挙げているとのことです。

 第2章では、この文献レビュアーの感覚と就活サポーターの呼びかけを、労働観の変遷、働く理由としての金銭動機、自己実現、承認欲求、社会貢献の5つ対比ポイントから分析しています。そして、それらは正反対の傾向を示していて、就活サポーターは文献レビュアーたちの感覚と真逆の、「21世紀の資本」が求める「21世紀の労働」のイメージを押し付けているように見えるとしています。

 第3章では、以上、述べたように、21世紀の資本は、それが欲している21世紀の労働の鋳型の中に、21世紀の労働者たちを押し込もうとしているという観点から、安倍政権が推し進めた「働き方改革」を批判的に検証しています。その中にはフリーランス絶賛論もありましたが、日本のフリーランスがどこまで自由なのか、実際には高齢者が多く、低収入で不安定なのが実態であり、ギグワーカーなども同様であるとしています。

 第4章では労働観の歴史的変遷を辿り、終章ではアダム・スミスとカール・マルクスにフォーカスして、この偉大なる二人の偉人の労働観から、21世紀の資本による「21世紀の労働」の呪縛から逃れる方法を探っています。そして、そこから「共感」と「覚醒」というキーワードを引き出しています。

 また、ここでは、21世紀の資本による、21世紀の労働者に対する「搾取と疎外」について、「21世紀型ステルス搾取」が端的に集約されているのが「やりがい詐欺」であり、仕事の成果によって承認欲求が満たされるなどして、搾取されているのに疎外感が実感できないのが「ステルス疎外」だとしています。

 本書によれば、アマゾンのサイトにおける文献レビュアーは、金銭的動機を第一に挙げ、やりがい詐欺を警戒しているといいます。企業の採用面接で、自己実現や社会貢献を志望理由とせよとの就活サポーターのアドバイスに従ったとしても、それは「面接での受け答え」と割り切っのてことではないでしょうか。

 考察を進めていく過程は興味深く読めましたが、やや政策批判が先にありきの印象も。本書のタイトルについては、著者自身も「やりがい詐欺の道具立てにされかねず不本意」だそうです。

《読書MEMO》
●目次
序章 ―――「21世紀の労働」に目を向けるわけ
第1章―――湧き上がる「人はなぜ働くのか」論
第2章―――2つの「人はなぜ働くのか」論を比べてみれば
第3章―――日本の21世紀の労働者たちが当面している状況
第4章―――かつて人々はどう働いていたのか
終章 ―――「21世紀の労働」を呪縛から解き放つために


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