【3488】 ○ 内藤 琢磨 『再生・日本の人事戦略―失われた30年を取り戻す実践手法』 (2024/01 日経BP) ★★★★

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手段にすぎない制度導入を目的化せず、本当に実現したい目的を実現することを説く。

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再生・日本の人事戦略 失われた30年を取り戻す実践手法』['24年]/『『デジタル時代の人材マネジメント― 組織の構築から人材の選抜・評価・処遇まで』』['20年]
 野村総合研究所のコンサルタントである同著者の本を取り上げるのは、『デジタル時代の人材マネジメント』('20年/東洋経済新報社)以来。本書では、グローバル人事、コンピテンシーモデル、ジョブ型人事、そして昨今は人的資本経営と、この30年間、新たな「人事制度ブーム」が登場しては取り入れられたものの、それらに振り回された結果が日本企業の競争力を奪うことになったとしています。その上で、その失敗のメカニズムを明らかにし、新時代に対応できる人事システムの再構築について語っています。

 全8章の第1章では、1990年代以降、日本企業の多くは欧米発の人材マネジメントテーマを導入すること自体が目的化してしまい、本当に実現したい目的は実現できていなかったとしています。

 第2章では、そうした人事改革がなぜ失敗に帰するのかを、「思いつき」に振り回される人事部門、日本の雇用システムからの制約、組織や人が有する変革を拒む"免疫機能"といった観点から分析しています。

 第3章以降は、日本企業が取り組みが必要な人事アジェンダとして
 1 ジョブ型ありきではない人材戦略
 2 お金だけではない人への投資
 3 会社の付加価値増につながる「報酬引き上げ」
 4 見えることではなく、「見るべきこと」を見える化する
 5 人事部門を再活性化する
の5つを掲げ、第3章から第7章の各章で解説しています。

 第3章では、資格等級制度(格付け制度)について述べ、ジョブ型人事制度を「改革のおもちゃ」にしないようにするためとして、ジョブ型と職能型のハイブリッド型アプローチや、ジョブ型と職能型の両面からの人を成長させるための人材マネジメントを提唱しています。

 第4章では、「人への投資」を取り上げ、人的資本の「開示」に終始するのではなく、目的を見据えた機会付与をすべきであるとし、ジョブ型と職能型の機械付与の違いや、越境学習など新たな形の機械付与を解説・紹介しています。

 第5章では、「報酬引き上げ」を取り上げ、それを会社や個人の成長にどう結びつけるかを解説し、報酬水準の引き上げと高生産性を両立させている企業例などを紹介しています。

 第6章では、見える化が難しいとされる人的資本について、見える化は目的ではなく手段であって、見える化することに意義があるものを見える化の対象とすべきであるとしています。

 第7章では、社内における人事部門は弱体化傾向にあるとし、人事部門をどうやって再活性化するかを述べています。デイビッド・ウルリッチの 『MBAの人材戦略』を引きながら、今人事部門に何が求められているかを考察し、人事部門のリソースの強化・組み換えを提唱しています。

 最終第8章では、まとめとして、経営者が人的資本経営で同じ過ちを犯さないためには、人に付加価値をつけ成長させることに経営者自身がフォーカスすべきであるとしています。

 第8章で、経営者自らが「施策」という手段を目的にすり替えないこととしているのが、第1章の、人材マネジメントテーマを導入すること自体が目的化したという過ちを繰り返さないようにするという課題を受けており、そのことが全編を貫くテーマとなっています。

 掲げられている5つの人事アジェンダは、今後取り組みが必要であると同時に、「日本企業が過去に取り組んできた」ものでもあるとされており、実際、必ずしも目新しいものではないように思いました。ただし、手段にすぎないはずの制度導入を目的化せず、本当に実現したい目的を実現するにはどうすればよいかを念頭に置いて読み進むと、多分に示唆的であったと思います。

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