【3475】 ○ 白木 三秀 『変革せよ!企業人事部―テレワークがもたらした働き方革命』 (2023/07 早稲田新書) ★★★☆

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グローバルHR担当者からみたテレワーク、「駐妻」らの「越境テレワーク」問題。

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変革せよ! 企業人事部:テレワークがもたらした働き方革命 (早稲田新書 017)』['23年]

 人的資源管理の研究者による本書では、コロナ禍におけるテレワークの普及は、単なる「働き方改革」を超えて、企業の人事部門にも変革をもたらしたとして、その動向を検証するとともに、日本企業の人事部の今後あるべき姿について考察しています。

 第1章では、企業におけるテレワークの実施状況等のデータをもとに、テレワークの業務面・生活面での影響を確認し、最後に、国内の仕事はオフィスで、海外との仕事は時差の関係から自宅からテレワークで行っているグローバル人事担当者を例に挙げ、テレワークはすでに国境を超える働き方を含んでいるとしています。

 第2章では、4人の企業人事部のグローバルHR担当者とのディスカッションを通して、テレワークが人びとの働き方や人事部にどのような影響を与えたかを探っています。そこからは、在宅勤務の定常化、とりわけ海外における在宅オペレーションの定着、メンバーシップ型からジョブ型に変わりつつある仕事の仕方、といった変化が見られるとしています。

 さらに、テレワークには「正」の側面と「負」の側面について触れ、テレワークで仕事人生を送る「駐妻」(夫の海外赴任に帯同する女性)の抱える問題をテレワークは解決できるのか、海外オペレーションの今後や日本人スタッフの海外派遣はどうなっていくのかを議論しています。

 第3章では、実際の駐在員妻たちへのインタビューを通して、「越境テレワーク」はそうした海外で働く女性の救世主となるのかを語り合い、課税制度の複雑な現状や、帰国後に立ちはだかる再就職の壁によるキャリアブランクといった諸問題を浮き彫りにしています。

 第4章では、テレワークにより働き方改革が進んだ場合、企業の人事権はどうなるかを法的視点から確認し、第5章では、これからの人材開発と人事のドメインはどうなるかを考察、企業は従業員が「継続的学習力」を形成できるよう、社内環境を整備することが求めらるとしています。

 テレワークの拡大を機にジョブ型が検討され、報酬体系の見直しも迫られている現状が窺えます。また、働く時間や場所の垣根が低くなることで、部署や会社の枠を超えた連携が可能になる一方で、現場でメンバー同士が意見を言い合うことで生まれる"現場の力"は、ハイブリッド勤務では発揮に限界があるという指摘もされています。

 「変革せよ!企業人事部」というタイトルの結論は、従業員一人一人が望む働き方をふまえ、その人にふさわしいキャリア形成を支援する役割が人事部門に求められるようになったということなのでしょう。

 ただし、グローバルHR担当者からみたテレワーク、さらに海外駐在員の妻たちが抱える「越境テレワーク」上の問題にかなりのページを割いているため、そうしたテーマに特化した研究レポートのような本になったようにも思えてしまい、大上段に構えたタイトルの割には...といった印象もありました。 

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