【3322】 ◎ リード・ホフマン/ベン・カスノーカ/クリス・イェ (篠田真貴子:監訳) 『ALLIANCE アライアンス―人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』 (2015/07 ダイヤモンド社) ★★★★☆

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「終身雇用の時代に戻れない」中での雇用主と社員との新たな信頼関係を提唱。

ALLIANCE アライアンス.jpg 『ALLIANCE アライアンス―――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』['19年]

 本書は、終身雇用の時代にも戻れず、現状維持もできない今こそ、雇用主と社員の関係を見直す時ではないだろうかとし、会社と社員を雇用というよりは信頼関係で結ぶ「アライアンス」という、シリコンバレーで導入されている新たな雇用形態の考えを考えを紹介している本です。

 第1章では、米国においても一昔前の雇用モデルは終身雇用であり、それは、当時の安定した時代には合っていたが、世の中は変わり、株主資本主義の台頭により、会社は株価を上げるための短期的な財務目標の達成を優先するようになり、終身雇用という雇用モデルは硬直的すぎるため、組織の柔軟性を高めようとした結果、社員も仕事内容も、短期間で取り換えが可能になったとしています。

 こうした随意雇用(一方的に契約が破棄できる雇用契約)になると、働く人は自らを「フリーエージェント」だと考えよう、と吹聴されるようになり、自分を高めるチャンスを常に追い求め、より良い仕事に誘われたらいつでも転職するようになり、企業と個人が忠誠心で結ばれていた時代には引き返せないところまで、世界は変わってしまったとのことです。

 終身雇用の時代にも戻れず、現状維持もできないならば、今こそ雇用主と社員の関係を見直す時ではないか。いずれも起業家である著者らはそう述べ、雇用を「アライアンス」であると考えてみようと提案してます。アライアンスとは、互いのメリットを得ようと、期間を明確に定めて結ぶ提携関係のことであり、この関係は、雇用主と社員が「どのような価値を相手にもたらすか」に基づいてつくられるとしています。

 著者らは、社員との間に「帰属意識を持てる一生の関係」を築きたいと願い、自社を「家族的」と表現するCEOがいるが、この言葉は、誤解を生みやすいとしています。本当の家族なら、我が子の働きぶりが悪いからといってクビにすることはないが、自社を家族だと表現した後でレイオフを行うCEOは後を絶たないと。これと対照的なのが「チーム」であり、プロスポーツのチームは終身雇用を前提としていないにもかかわらず、相互信頼と相互投資、そして互恵の原則が機能しており、個人の栄光よりもチームの勝利を優先するほどメンバー同士の信頼が強い時、チームは勝つ―逆説的だが、こうしてチームとして勝つことがメンバーの個人的成功の近道になるとしています。

 第2章では、アライアンスの関係を築く場合、まず、「コミットメント期間(ツアー・オブ・デューティ)」を定める必要があるとしています。「ツアー・オブ・デューティ」はもともと軍隊用語で、任務や配置の割り当て一回分を意味し、そこには「ミッションを期間内に成し遂げることに専念し、そこに個人の信用をかけている」という考えであるとのことです。コミットメント期間には、「ローテーション型」「変革型」「基盤型」の三つのタイプがあるとし、ローテーション型は会社に「規模拡大」をもたらし、変革型は会社に「適応力」を与えてくれ、基盤型は会社に「継続性」をもたらすとしています。

 第3章では、コミットメント関係で大切なものとして、社員と会社の目標および価値観をそろえる「整合性」を挙げ、どの程度の整合性が必要なのかは、コミットメント期間のタイプによって違ってくるとしています。そして、整合性の構築の3つのステップとして、①会社の核となるミッションと価値観を打ち立て、それを広める、②社員の大切にしている価値観とありたい姿を知る、③社員、上司、会社間の整合性を目指し協力する、の3つを掲げています。

 第4章では、変革型コミット期間を導入する際に、それをうまく活用する4つのステップとして、①対話を開始し、コミットメントの目標を設定する、②双方が定期的にフィードバックし合う仕組みをつくる、③コミットメント期間の終了前に次の期間の設計に着手する、④想定外の事態に対処する(コミットメント期間の途中での変化)の4つを挙げ、それぞれについて解説しています。

 第5章では、会社が社員に仕事上のネットワークを広げる機会をつくって彼らのキャリアをサポートし、社員は、自分のネットワークを使って会社を変革する手助けをする、会社と社員の連携関係の構築を推奨しています。社員の「ネットワーク情報収集力」は、組織が外部とかかわり合い、そこから学ぶのに最も効率的な方法であるとしています。さらに、ネットワーク情報収集力の4つの役目について解説しています。

 第6章では、そうした社員のネットワーク情報収集力を育てるための、社員の人脈を伸ばすコツと戦術を挙げています。それは、①ネットワーク力のある人材を採用する、②会話とソーシャルメディアを駆使して情報を掘り出す手法を教える、③個人のネットワーク構築を支援するプログラムと方策を全社展開する、④社員が得た情報を会社に還元させる、の4つであるとのことです。

 第7章では、会社が「卒業生」(自社の元社員)のネットワークをつくり、生涯にわたって個人と会社のアライアンス関係を続けていくことを推奨しています。「卒業生」ネットワークに投資する理由として、①優れた人材の獲得に役立つ、②有力な情報が得られる、③顧客を紹介してくれる、④「卒業生」はブランド・アンバサダーである、の4つを挙げています。

 第8章では、「卒業生」ネットワークを活かすには、効果的に導入するためのコツとテクニックがあるとして、①「卒業生」ネットワークの参加者を決める、②ギブ・アンド・テイクの中身をはっきり示す、③退職手続きを見直す、④現役社員と「卒業生」を繋げる、の4つについて解説しています。

 著者の一人リード・ホフマンは世界最大級のビジネス特化型ソーシャル・ネットワーキング・サービス会社「リンクトイン」を2002年に創業しており(現会長)、本書の中での事例の多くはそのリンクトインで実際に取られた施策となっています(よって「アライアンス」とは、シリコンバレーで導入されている新たな雇用形態ともいえる)。その分、監訳者がまえがきで述べているように、本書の内容がそのまますぐに適用できる日本企業や職場はそう多くないかもしれません。それでも、将来に向けての視点で本書を読めば、「市場にある人的資源をどう活かすか、どうやって社員のキャリア形成をサポートし、会社との間に信頼を醸成するか」、「雇用慣行などの彼我の差をおいても得るところが多いのではないか」と自分も思いました。


《読書MEMO》
(監訳者によるMEMO)
●忠誠心を得られない企業は、長期的思考ができない企業である。長期的思考ができない企業は、将来に向けた投資のできない企業である。そして、明日のチャンスと技術に投資しない企業は、すでに死に向っている企業なのだ。(25p)
●変革型コミットメント期間の核心は、その社員が自分のキャリアと会社の両方を大きく変革させるような機会を得るという約束である。(53p)
●「本人とその成長のために投資するのです。ここで身につけるさまざまな能力を、どこで活かしてもよいのです。結果的のそのキャリアパスがマクドナルドの社内でも社外でもかまいません。」(63p)
●具体的なコミットメント期間について上司と話し合う中で、そのコミットメント期間における本人の「向上」が何をさすのか、上司の助けを借りて明らかにすればいい。(87p)
●(アライアンスの)中心にあるのは道義であって、法律ではない。そしてコミットメント期間も、公式な契約ではない。大切な関係を尊重し守るための、自発的な合意だ。(107p)
●終身雇用では、マネジャーも社員も社内に集中することがよしとされた。(略)今や、会社も社員も社外に目を向け、自分がどのような環境の中で仕事をしているのか全体像をつかんでおく必要がある。(118p)
●このような守りの姿勢の前提となるのは「どうせ社員には『非公開』と『機密』の違いが理解できない」という認識だ。その考え方には問題がある。(131p)
●アライアンスの基本理念を思い出してほしい。「会社はあなたのキャリアを一変させる手助けをする。あなたは会社を変革させ、より環境に適応できるよう力を貸してほしい」(144p)
●「『卒業生』ネットワークの集りには、経営幹部が誰か一人は必ず出席します。その幹部は通常30分から40分の『アスク・ミー・エニシング(何でもきいて)』コーナーを設け、ハブスポットに関するあらゆる質問に答えるのです。『今一番心配なことは何ですか?』とか『顧客は離れていっていませんか?』なんて質問もあります」(172p)
●職場という小宇宙での人間関係を改善することは、社会全体に大きなインパクトを与える可能性がある。プロジェクトからプロジェクトへ、部署から部署へ、会社から会社へ、とその影響は波及していく。(略)しかし、この(アライアンスのような)「小さなこと」は誰もが今日から取り入れることができ、いずれ積み重なって大きなリターンを我々にもたらしてくれるはずだ。(176p)
8 「卒業生」ネットワークを活かすには―効果的に導入するためのコツとテクニック

●目次
1 ネットワーク時代の新しい雇用―職場に信頼と忠誠を取り戻す「アライアンス」とは
2 コミットメント期間を設定しよう―アライアンスは仕事の内容と期間を定める
3 コミットメント期間で大切なもの―社員と会社の目標および価値観をそろえる
4 変革型コミットメント期間を導入する
5 社員にネットワーク情報収集力を求める―社員を通して世界を自社内に取り込む
6 ネットワーク情報収集力を育てるには―社員の人脈を伸ばすコツと戦術
7 会社は「卒業生」ネットワークをつくろう―生涯続く個人と会社のアライアンス関係

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