【3321】 ◎ クリス・アージリス (伊吹山太郎/中村 実:訳) 『新訳 組織とパーソナリティー―システムと個人との葛藤』 (1970/01 日本能率協会) ★★★★☆

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「組織学習論の父」アージリスの代表作。行動科学的組織論の準古典的著作。

組織とパーソナリティー アージリス2.jpg組織とパーソナリティー アージリス1.jpg アージリス.jpg Chris Argyris: 1923-2-2013
組織とパーソナリティー―システムと個人との葛藤 (1970年)

 本書は、マグレガーやリッカートと並び、行動科学的組織論を代表する 1 人であるアージリス(Chris Argyris: 1923-2013)の著書(Personality andOrganization-The conflict between system and the individual, 1957)であり、表題にもあるように、人間のパーソナリティを土台としながら、組織内における個人と組織との間にある葛藤状態をどのように解決するかを主題としています。

 第1章「本書の基本的仮定と見解」では、組織のうちにある人聞の行動を知るためには、 ①個人(パーソナリティ)、②非公式な小集団、③公式組織に関する諸要困を総合したうえで、組織全体を把握する必要があるとし、経営者は、自己の善悪、原理および人間関係の技量を判断するに足る人生観を持つ必要があるとしています。本書の目的は、企業のような人間組織の中における人間行動の基本的な原因(なぜ人々はそのように行動するのか)を解明することであり、人間状況の正しい診断には、最上の知識の利用が必要であって、体系的な枠組みを用いて、人々の行動を理解するためのヒントを与えることが本書の目的であるとしています。、

 第2章「人間のパーソナリティー」では、①パーソナリティの部分は全体を維持し、全体は部分を維持する、②組織は、同時的に動的な対内対外の平衡を表示する、③パーソナリティは活動力(エネルギー)を表示する、④心理的活動力の源は欲求に中にある、⑤パーソナリティは多くの能力を持っている、⑥パーソナリティは「自我」として概念化されている、⑦防衛機能は脅威に対して自我を守る、⑧成長の意味はわれわれの「私的世界」ととその部分とにおける増大であるとし、⑨パーソナリティの基本的な自己実現の傾向を示しています。つまり、個人のパーソナリティは、個々の要素が単に部分的に合計されたものではなく、全体的な関連の中に把握されなければならないと。パーソナリティが内面的に均衡がとれていることを「適応」、外部環境と均衡を保っていることを「順応」、個々の環境の中で、それぞれに適応し、順応して均衡が維持されている状態を「統合」しているといい、統合状態のもとで目的を達成することにより「自己実現」が達成されるとしています。人間は自己実現に向けて努力をするが、自己実現の欲求が目的を達成しようとするエネルギーの源泉として作用し、このエネルギーを生理的エネルギーに対して心理的エネルギーと言うと。心理的エネルギーはあらゆる人間に存在し、人間である限りは必ず表出し、しかもその量は個人の心的状態によって左右され、こうして形成された個々のパーソナリティを「自我」と呼び、人間はさまざまな環境との対応の過程で自我を適応・順応させることによってパーソナリティを成長させていくとしています。

 第3章「公式組織」では、①公式組織は合理的な組織であり、②課業分化、命令の連鎖、指令の統一、管理の限界などの基礎原理を有するが、③成熟したパーソナリティの欲求と公式組織の間には、基本的な不適合があるとしています。例えば、仕事を専門化することは、個人の能力の一部分しか用いられないことになり、個人は未成熟なものとして捉えられることになり、また、命令の系統によって、人間は上位の管理者に従属的・受動的にならざるを得ず、さらに指揮の統一も個人の自発的な目的設定にはなり得ないし、管理範囲の原則は、末端の個人にとっては自己の統制範囲を狭めることになるとしています。その結果、組織内で自己実現を達成することが困難となり、人間は欲求不満、葛藤、失敗感、あるいは近視眼的な視野に立たざるを得なくなるとしています。

 第4章「個人の順応と集団の順応」では、そうしたフラストレートされた状況において個人(従業員)が取る行動のパターンを挙げ、基本的には、個人のとるべき行動は組織を去るか、順応するか、意識や価値観を変えることしかないが、組織内で仕事を続けることが一般的な選択肢であるとすれば、人間は組織に対して順応行動を取りながら、インフォーマルな集団を形成し、依存するようになるとし、例えば労働組合の形成は、インフォーマルな集団が公式化したものであるとしています。

 第5章「経営者の反応とそれが従業員に加える衝撃」では、生産性の低下を防ぐために経営者が従業員に対する経営方針としての、①より強力で「ダイナミックな」リーダーシップの発揮、②従業員の行動に対するより厳格な統制、③従業員を人間的な取り扱い方をしようとする一時的な「人間関係論」的な近づき方、のそれぞれについて、それらが従業員に与える影響を考察し、これらは根本的な問題を解決するかわりに、組織の問題を増やす傾向にあるとしています。

 第6章「第一線監督者」では、こうした従業員と経営者という二つの世界の分断の中、二つの世界を繋ぐ鎖となるべき中間層にいる第一線監督者(フォアマン)は、両方の世界の板挟みになって葛藤し、フラストレーションがたまり、さらに労働組合の介入によって、その権力と地位の多くを失いつつあるとしています。この問題に対して経営者は、フォアマンを経営者に一部にするなどの対策を取るが、多くのフォアマンにとってそれは、さらに緊張を増すものになりかねないとしています。

 第7章「公式組織と健全な個人との間の不一致の度合いを減少させるには」では、公式組織において個人が葛藤や欲求不満に順応するようにするにはどうすればよいかを説いています。そして、個人と組織との軋轢を解決する手段として「職務拡大」と「参加的リーダ ーシップ」(「従業員中心的リーダーシップ」)の導入を主張しています。「職務拡大(job enlargement)」とは、仕事の流れに従って、作業者が遂行する職務の数を増加させることにより、職務の幅を拡げることで、職務の水平的拡大とも言われ、作業者にまとまりのある職務を割り当てることによって、各自の職務に自己完結性を持たせようとするものであり、「参加的リーダーシップ」とは、すべてのメンバーが方針決定や将来の活動についての議論に参加することを許し、メンバーが自分自身の職務上の立場を決定することを容認するといった従業員の自己実現を許容するリーダーシップを指します。

 第8章「効果的な経営者行動の啓発」では、効果的なリーダーシップ行動とは、個人と組織の両方が同時に最適の自己実現を得られるようにするものであるとして、そのための経営者の行動を啓発するためのヒント、並びに経営者を啓発させる専門スタッフがとるべき行動を示しています。

 第9章「要約と結論」では、要約と結論として10の命題を掲げ、それらは、①健全な個人の欲求と公式組織の要請との間に適合欠如がみられる、②この混乱の結果は、欲求不満、失敗、短期間の展望および葛藤である、③ある条件のもとでは、欲求不満と失敗と短期間の展望と葛藤との度合は増大する傾向にある、④公式組織の持つ本質は、どのような階層にある部下にも、競争と対抗と部下相互間の敵意を経験させ、また全体よりもむしろ部分へ眼を向けることを助長させる原因となる、⑤従業員の順応行動は自己統合を維持し、公式組織との統合を阻害する、⑥従業員たちの順応行動は、累積的効果を持っており、組織の中へフィードバックし、また順応行動自体を強化する、⑦ある種の経営者の反作用は、順応行動の底に横たわっている敵意を増大しがちである、⑧その他の経営者の行為は、個人と公式組織との間の間の不適合を減少することができる、⑨職務拡大あるいは役割の拡大と従業員中心のリーダーシップとは、順応行動(命題③~⑥)が組織の文化と個人の自己概念との中に深く留まる程うまくいかないであろう、⑩命題⑨の中に含まれる困難は、現実志向のリーダーシップを用いることによって最小限にしうることができるであろう、となっています。

本書は、「組織学習論の父」とも称される著者による、組織と個人の関係をパーソナリティの観点から明らかにしょうとした野心的労作ということができ、行動科学的組織論の準古典的著作でもありますが、公式組織の捉え方などについて偏りがあるとの批判もある一方で、今日においてもその内容に多くの普遍性があります。かなり"堅め"の内容の本ですが、ここは頑張って自身で手にし、そうした内容を確認してみるのもよいでしょう。

《読書MEMO》
●パーソナリティ成長の過程(マチュリティ(成熟度)理論)(p88~89)
(1)受け身の状態から能動的になっていく傾向
(2)他人に依存する状態から独立した状態に発展する傾向
(3)数少ない仕方でしか行動できない状態から,多様な仕方で行動できるようになる傾向
(4)その場限りの浅い関心から,より深い興味を持つようになる傾向
(5)短期の展望から長期の展望へと発達する傾向。
(6)家庭や社会での従属的な地位から,同僚に対して同等あるいは上位に位置したいという傾向
(7)自己意識が欠如した状態から,自己を意識し,コントロールしようとするようになる傾向
●従来の伝統的組織論が,人間のパーソナリティの成長に及ぼす問題点を(p100~109)
(1)仕事の専門化
(2)命令の系統
(3)指揮の統一
(4)管理の範囲
●フラストレートされた状況において、個人(従業員)がとる行動のパターン(p125)
(1)組織を去る。
(2)出席し社長になるため一生懸命働く。
(3)自我を守り、防衛機構によって順応する。
(4)仕事の目標を下げたり、無力感・無関心になって順応する。
(5)(4)の結果、人間は物的報酬により大きな価値を置くようになる。(6)自分の子どもに対して、仕事上の満足を期待しないで、よい賃金や仕事以外の生活に期待するように教える。

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