【3403】 ◎ ケン・アイバーソン (近藤隆文:訳) 『逆境を生き抜くリーダーシップ (2011/07 海と月社) ★★★★☆

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「従業員を団結させ、競争力を高める」実践的リーダー論。「社員第一主義」で貫かれている。

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逆境を生き抜くリーダーシップ』['11年]

 本書は、80年代において鉄鋼業がマメリカ国内で構造不況に陥る中、倒産寸前の片田舎の製鉄所(ニューコア)を、全米有数の鉄鋼メーカーに押し上げ(本書刊行時点で全米第3位、2016年時点で粗鋼生産量全米第1位)、フォーチュン500社のCEO(最高経営責任者)の中で最も所得が低いと書かれたことを勲章とする著者が明かす、「従業員を団結させ、競争力を高める」実践的リーダー論です。

 第1章「『長期の』利益を全員の目標に」では、経営者は「長期の」利益を社員全員の目標としなければならないとし、そのために社員とつながる4つの原則として、以下を挙げています。
(1)経営陣は、従業員が生産性に応じた報酬をえられるように会社を経営する義務がある
(2)従業員は、職務をきちんとはたしていれば明日も仕事があると安心できなくてはならない
(3)従業員は公平に扱われる権利があり、また、当然そのように扱われると確信できなければならない
(4)従業員には、不公平な扱いを受けていると思った場合に申し立てる手段がなければならない

 第2章「意思決定は現場にまかせろ」では、経営者は自分の直感を信じるべきだが、総合的な方針以外の決定はすべて、現場の管理職と従業員に任せるべきで、従業員とつながる方法としては、①対話、②意識調査、③ミーティングの3つを効果的に行うべきであるとしています。

 第3章「社員はすべて平等だ」では、社員をすべて平等に扱うことが経営を助けるとし、また、マネジメント階層はできるだけ少なくするべきであるとしています(ニューコアには4階層しかない)。そして、情報はすべて共有すべきであるとしています。平等と自由こそがやる気を生み、企業の成功は文化で決まるとしています。

 第4章「進歩は従業員から生まれる」では、会社の功績は社員の功績であり、社員の職場環境は重要であり、責任の大部分を部下に委譲し、社員が自力で答えを見つけられるような職場環境の形勢に専念すべきだとしています。本気で社員を活かしたいなら、「経営者が企業の成功のカギを握っている」といった考えは変えるべきだとし、管理職に求められる6つの変化として、以下を挙げています。
 ①ふさわしい人材を選ぶ。
 ②管理職の時間配分を見直す。
 ③社員がみずから成長できるようにする。
 ④社員に情報を提供する
 ⑤テクノロジーへの投資は社員にまかせる。
 ⑥合併と買収は社員の視点から検討する

 第5章「やる気を生む給料とは」では、ニューコアが業界最高の給与を払える理由は、作業効率が良く、生産性が高いからで、「生産量に応じた」ボーナスがチームワークを高めているとしています。報酬体系を改善するカギは、個人の貢献よりもチームワークに報いるようにすることであり、給与体系の違いが競争力の差になるとしています。

 第6章「小さいことはいいことだ」では、「大きな本社」は無駄そのものであり、大企業にとって最善のやり方は、必要最低限の階層の数を設定して、なるべく早く構造のスリム化に取りかかることだとしています。

 第7章「リスクをとれ!」では、アイデアはすべて試させるべきで、経営者や管理職は、社員が持ってくるアイデアを受けいれるよう努め、その革新性とリスクを引き受けるべきであるとしています。賭けに出てこそ成功するのであって、攻めの姿勢を保ち、勝つことだけを考えるべきだとしています。

 第8章「『ビジネス』と『倫理』の関係」では、倫理の問題は棚上げにすべきではなく、また、ビジネス界での倫理の基準は常に変化するとしています。

 第9章「成功は『シンプル』の先に」では、シンプルこそ成功のカギであり、事業をシンプルに保てば、顧客にも正直になれるとしています。成長を促す単純な原理として、また、これまで述べてきたことのまとめとして、以下の5つを挙げています。
 ・長期的な存続を短期的な収益より重視すること。
 ・重役のふところを潤わせるのではなく、痛みを分かち合うこと。
 ・意思決定の権限を現場の労働者に与えること。
 ・管理職と従業員の差を最小限にすること。
 ・社員には生産性に応じた報酬を支払うこと。

 従業員の信頼と忠誠心を獲得するにはどうすればよいかという問題は、どこの企業でも悩むことですが、著者は、そのためのリーダーシップの在り方として、長期視点での意思決定、現場との適切なコミュニケーションや現場への意思決定権限の委譲、アクティブリスリングを身につけること、権力の危険性を理解すること、必要な情報が従業員に公平公正に開示されていること、など多くの考え方や方法を挙げています。また、それらを実践することで著者自身が、組合の必要性を従業員が一切提起しないほど満足度の高い経営を実現してきたことになり、とても説得力があるように思いました。

 特に従業員第一を心掛けている点が印象的で、典型的なアメリカ型の経営者というより、むしろ日本の経営者(松下幸之助や本田宗一郎)に近い空気も感じさせなくもない点が興味深かったです。従業員の能力を最大限発揮させるには、彼らを「人間らしく扱う」ことであるといったようなことは、当たり前の原則なのかもしれませんが、こうした「社員第一主義」を貫いている企業が実際どれほどあるかと思うと、改めて示唆に富む内容であったと思います。

《読書MEMO》
●目次
序文(ウォレン・ベニス)
はじめに
1 「長期の」利益を全員の目標に
2 意思決定は現場にまかせろ
3 社員はすべて平等だ
4 進歩は従業員から生まれる
5 やる気を生む給料とは
6 小さいことはいいことだ
7 リスクをとれ!
8 「ビジネス」と「倫理」の関係
9 成功は「シンプル」の先に
エピローグ ビジネススクールへの提言

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