【2741】 ◎ アンドリュー・S・グローブ 『HIGH OUTPUT MANAGEMENT―人を育て、成果を最大にするマネジメント』 (2017/01 日経BP社) 《『ハイ・アウトプット・マネジメント―"インテル経営"の秘密』 /『 インテル経営の秘密―世界最強企業を創ったマネジメント哲学』(1984/06 ・1996/04 早川書房)》 ★★★★☆

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「●人事マネジメント全般」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(アンドリュー・S・グローブ)

IT企業の経営者が読んでもいいが、むしろ人事パーソンにお薦めの準古典的名著。

HIGH OUTPUT MANAGEMENT1.jpgHIGH OUTPUT MANAGEMENT.jpg ハイ・アウトプット・マネジメント―インテル経営の秘密.jpg インテル経営の秘密3.jpg
HIGH OUTPUT MANAGEMENT(ハイアウトプット マネジメント) 人を育て、成果を最大にするマネジメント』['17年]『ハイ・アウトプット・マネジメント―"インテル経営"の秘密 (1984年)』['84年]『インテル経営の秘密―世界最強企業を創ったマネジメント哲学』['96年]

アンドリュー・グローヴ .jpgHIGH OUTPUT MANAGEMENT  .jpg 本書『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』は、2016年に亡くなったインテル元CEO・アンドリュー・グローヴ(1936-2016/享年79)による本で、1984年に発刊された『ハイ・アウトプット・マネジメント―"インテル経営"の秘密』(早川書房)に加筆修正して1996年に発行された『インテル経営の秘密―世界最強企業を創ったマネジメント哲学』(早川書房)の原書"High Output Management"をもとに、2015年に米国で出版されたペーパーバック版を翻訳したものです。

 アンドリュー・グローヴはユダヤ人で、ハンガリーから無一文で英語も話せないままアメリカに亡命し、インテルに3番目の社員として入社、1979年に社長、1987年に社長兼CEO、1998年に会長兼CEOとなった言わば〈立志伝中の人〉であり、本書の帯には「シリコンバレーのトップ経営者、マネジャーに読み継がれる真の傑作、待望の復刊!」とあり、ピーター・ドラッカーやマーク・ザッカーバーグが寄せた讃辞があります。実際、『インテル経営の秘密』のタイトルで改版された際に日本でも多くの人に読まれ、「準古典的名著」と言ってよいかと思います。

HIGH OUTPUT MANAGEMENT  .jpg 今回の新版は、本編は1983年に当時インテルの現役社長であった著者が著したもので、その前に1995年に著者自身がその後の80年代から90年代にかけての大きな環境変化(日本企業によるメモリー事業への攻勢を主としたグローバル化と電子メールの発展によるコミュニケーションの変化)について記した「イントロダクション」があり、更にその前に1995年に本書を読んだというベン・ホロウィッツによって2015年に書かれた「序文」が付いています。

 「イントロダクション」において著者は、「本書には3つの基本的なアイデアを盛り込んである」とし、それは、1つ目のアイデアは、マネジメントに対する成果(アウトプット)への志向性であり(マネジメントは成果志向であれということ)、2つ目は、そのアウトプットは個人というよりもチームによって追求されるということであり、そこで、チームのアウトプットを増大させるためマネジャーは何が出来るかとの問いが出てくるとしています。そして、チームは、そのメンバーである各個人の業績遂行活動が導き出された時に、最もよく機能して、その業績を高める―というのが、3つ目のアイデアであるとのことです。

 第1部「朝食工場―生産性の基本原理」では、3分ゆでのゆで卵とトーストとコーヒーを出すごく普通の食堂が設備投資をして「朝食工場」となり、さらにその「朝食工場」をフランチャイズ制によって全国展開していくという架空のケースを用い、その中にインテルでの事例なども織り交ぜながら、著者自身が考えるマネジメントの原理原則を体系的に説明しています(この部分は個人的には、「科学的管理法」に近いものを感じた)。

 第2部「経営管理はチーム・ゲームである」では、マネジャーのアウトプットとは、自分の組織のアウトプットと自分も影響力が及ぶ隣接諸組織のアウトプットの和であるとし、マネジャーとしてアウトプットを上げるうえでの"テコ作用"という考え方を示しています。また、ミーティングはマネジャーにとっての大事な手段であるとし、インテルで行われている「ワン・オン・ワン」という監督者と部下のミーティングを紹介しています(「ワン・オン・ワン」についてだけで『ワン・オン・ワン―快適人間関係を作るマネジメント手法』('90年/パーソナルメディア)という本になっている)。更に、決断を行う際に陥りがちな"同僚グループ症候群"というものを指摘するとともに、明日のアウトプットのために今日どういった行動をとるべきかを、3つのステップから考える計画策定方式(プランニング プロセス)というものを提唱し、これを日常業務に適用したものが目標による管理(MBOシステム)であるとしています。

 第3部「チームの中のチーム」では、冒頭の「朝食工場」が全国展開するような会社になったとき、自ずとそれは"使命中心"と"機能別"のハイブリッド型組織になるとし、インテルのハイブリッド型組織を紹介するとともに、二重所属制度という考え方を紹介しています(「グローブの法則」として「共通の事業目的を持つすべての大組織は、最後にはハイブリッド組織形態に落ち着くことになる」としている)。また、われわれの行動がコントロールされ、影響される過程を考え、われわれの行動は、自由市場原理の力、契約上の義務、文化的価値の3つの方法でコントロールされるとし、最も適切な仕事のコントロール方式とはどのようなものかを考察しています。

 第4部「選手たち」では、モチベーションの問題を取り上げています。マズローの欲求段階説を改めて解説し、仕事とスポーツを対比させて、マネジャーが部下から最高の業績を引き出せるようにするには、部下のタスクへの習熟度を高めることが肝要であり、それが効果的なマネジメントスタイルの基本的要因となるとしています。そこで人事考課が重要になってくるわけであり、マネジャーが考課するときに判断すべきことは何か、避けなければならない大きな落とし穴は「可能性(ポテンシャル)の罠」であるとして、"潜在能力"を評価することに警告を発しています(時期的には日本企業が職能資格制度を盛んに採り入れていた頃になる)。また、査定内容の伝え方についても指南し、それとは別に問題社員の場合の対応や、更にはエース社員の考課の仕方についても述べています。また、マネジャーにとっての2つ困難な仕事である、採用面接と、貴重な人材が退社しないようにする話し合いついても助言しています。そして、タスクに対するフィードバックとしての報酬の考え方および昇進について論じるとともに、なぜ教育訓練が上司の仕事なのかを説いています。最後には、「これからの行動指針チェックリスト」が付されています。

 かなり以上前に書かれた本でありながら、古さを感じさせないのはすごいことかも。全体として、最初に生産管理の話から入っていき、マネジャーとしてアウトプットを上げるうえでの"テコ作用"という考え方を示し、業績達成のために部下のモチベーションやタスク習熟度をどのように管理し、部下をどのように考課し、どうフィードバックするかという話の流れになっていて、後半にいけばいくほど「人事」の話になってきます。「人を育て、成果を最大にするマネジメント」というサブタイトルは極めて妥当であり、『インテル経営の秘密』というタイトルから、変化の激しいIT業界について書かれた本だと思われているフシもありますが、実は「人事」の根幹について書かれた本であるということ。だから「経年劣化しない」と言うより「人事の本質が分かる」と言った方がいいかもしれません。従って、IT企業の経営者が読むのもいいですが、人事パーソンにもお薦めの本です。
 
《読書MEMO》
目次
序文 ベン•ホロウィッツ
イントロダクション
第1部 朝飯工場~生産の基本原理
1章 生産の基本
3分間ゆで卵の生産原理は/製造作業の実際\状況が複雑になると/大量生産の場合は/付加価値をつけること
2章 朝食工場を動かす
インディケーターこそ大事なカギ/ブラックボックスの中をのぞくには\将来のアウトプットをコントロール/品質の保証/生産性を高めるために
第2部 経営管理はチーム・ゲームである
3章 経営管理者のテコ作用
マネジャーのアウトプットとは/「パパ、本当はどんなお仕事をしているの?」/社内情報の収集と提供/経営管理活動のテコ作用/マネジャーの活動速度を速めること―ラインのスピードアップ/組織内に組み込まれたテコ作用―マネジャーの部下は何名が適切か/仕事の中断―マネジャーを悩ますもの
4章 ミーティング-マネジャーにとっての大事な手段
プロセス中心のミーティング/使命中心のミーティング
5章 決断、決断、また決断
理想的なモデルは/同僚グループ症候群/アウトプットへの努力
6章 計画化―明日のアウトプットへの今日の行動
計画策定方式/プランニング・プロセスのアウトプット/目標による管理―日常業務にプランニング プロセスを適用すると
第3部 チームの中のチーム
7章 朝食工場の全国展開へ
8章 ハイブリッド組織
9章 二重所属制度
工場保安係はどこに所属すべきか/ハイブリッド組織を働かせる\もうひとつの妙案―二面組織
10章 コントロール方式
自由市場原理の力/契約上の義務\文化的価値/マネジメントの役割/最も適切なコントロール方式/仕事のコントロール方式
第4部 選手たち
11章 スポーツとの対比
生理的欲求/安全―安定への欲求/親和―帰属への欲求/尊敬―承認への欲求/自己実現への欲求/金銭およびタスク関連のフィードバック/不安/スポーツとの対比
12章 タスク習熟度
マネジメント•スタイルとマネジャーのテコ作用/良いマネジャーになるのは容易ではない
13章 人事考課―裁判官兼陪審員としてのマネジャー
なぜ、悩むのか/業績の査定\査定の内容を伝えること/「 一方では......他方では......」/問題社員/エースの考課の仕方/その他の考え方と実際のやり方
14章 2つのむずかしい仕事
面接/「私、辞めます」
15章 タスク関連フィードバックとしての報酬
16章 なぜ教育訓練が上司の仕事なのか
最後にもうひとつ―これからの行動指針チェック・リスト

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