【3480】 ○ ウェンディ・スミス/マリアンヌ・ルイス (関口倫紀/落合文四郎/中村俊介:監訳/二木夢子:訳) 『両立思考―「二者択一」の思考を手放し、多様な価値を実現するパラドキシカルリーダーシップ』 (2023/11 日本能率協会マネジメントセンター) ★★★★

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「両立思考」によるパラドックス・マネジメントを提唱。

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両立思考 「二者択一」の思考を手放し、多様な価値を実現するパラドキシカルリーダーシップ』['23年]

 仕事と家庭、利益とパーパス、個人と組織、男性と女性...。相反する考えで溢れる現代において、われわれが常に陥りがちな「択一思考」の罠から逃れ、創造力に富み、持続可能で包括的な解決策の糸口を見つけるにはどうすればよいか。本書は、それを可能にする「両立思考」へのアプローチを、二人の経営学者が解説したものです。

 全3部構成の第1部では、われわれを取り巻く二者択一的な対立(ジレンマ)の中にはパラドックスが隠れており、矛盾しながらも相互に依存する緊張関係(テンション)があるとして、それに効果的に対応するにはまず、このパラドックスを理解しなければならないとしています。第1章で、パラドックスは、パフォーマンス・パラッドクス、学習パラドックス、所属パラドックス、組織化パラドックスの4種類に区別できるとしています。

 第2章では、こうしたパラドックスを乗りこなす際に悪循環につながるパターンとして、行き過ぎた強化をする「ウサギの穴」、過剰修正する「解体用剛球」、二極化する「塹壕戦」の3つを挙げています。

 第2部では、パラドックスをマネジメントするツールを紹介しています。まず第3章で、パラドックスが好循環を引き起こす方法として、ラバ型(クリエイティブな統合)と綱渡り型(一貫した非一貫性―状況に応じて頻繁に方針を変える)を紹介しています。それから、統合システムとしての「パラドックス・マネジメントのABCDシステム」を紹介し、続く第4章から第7章で、各ツールを説明しています。

 第4章では、択一から両立に「前提(アサンプション(A))」をシフトするパラドックス・マインドセットについて述べ、第5章では、「境界(バウンダリー(B))」構造を作って緊張関係を包み込むことで、不確かさを乗りこなす術について解説しています。第6章では、不快のなかに「心地よさを(コンフォート(C))」を見つけることで、緊張関係を受け入れる感情に至る方法ついて述べ、第7章では、「動態性(ダイナミクス(D))」を備え緊張関係を解き放つことで、危機を回避する方法を解説しています。

 第3部では、両立思考を採用するプロセスを、個人、対人、組織という異なるレベルで探求しています。第8章では、個人の意思決定においてジレンマにどう取り組むか、第9章では、対人関係において、拡大する分断をどう縮小するか、第10章では、組織のリーダーとして、持続可能なインパクトを与え続けるにはどうするかを、具体例を挙げて説明しています。

 著者らは最後に、「パラドックスとは、対立項が互いに打ち消し合うのではなく、両極にわたってひらめきの火花を起こすように、バランスを取る技術である。(中略)思いさえあれば矛盾を受け入れることができるのだ」として、本書を締めくくっています。

 パラドックス・マネジメント、パラドキシカルリーダシップといった、日本ではまだ目新しい概念を扱った本ですが、読んでみると、陰陽思想をはじめとする古今東西の思想・哲学から、最近の話題となった経営書まで多く引用がなされており、これまでの人間の思考の歩みを辿りつつ、多様な視点が重要となる不確かな今日世界を背景に生まれた概念やアプローチであることがわかります。

 コンセプチュアルで堅めな本ですが、著者ら自身の体験談なども多く織り込まれていて、物語を読むように読める箇所も少なからずある本です。敬遠せずトライしてみるのもいいかと思います。

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