【3440】 ○ リード・ホフマン/ベン・カスノーカ 『スタートアップ的人生(キャリア)戦略 (2023/01 ニューズピックス) ★★★★

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スタートアップの事業戦略は人生(キャリア)戦略に応用できると説く。

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スタートアップ的人生(キャリア)戦略』['23年]『スタートアップ! シリコンバレー流成功する自己実現の秘訣』['12年]

 起業家らによって書かれた本書では、成長著しいスタートアップの事業戦略と、個人の人生(キャリア)戦略は驚くほど似通っているとし、変化に対応できるスタートアップ的人生戦略とはどのようなものかを説いています(因みに本書は、『スタートアップ! ―シリコンバレー流成功する自己実現の秘訣』('12年/日経BP)を底本とし、2022年における原著の大幅アップデートを反映させた上で改題した改訂新版である。著者らには、『ALLIANCE アライアンス―人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』('15年/ダイヤモンド社)などの著書もある)。

 第1章では、情熱のみでキャリアを検討するのは問題があり、自分の競争上の強みを、大志、市場環境、資産の3つの歯車の組み合わせによって考え、自分のキャリア資本を築くのにふさわしい、歯車がうまく噛み合う場所を見つけ、そこから、情熱のほとばしる方向へと方向転換すべきだとしています。また、成長ループに乗っている分野、もしくは競争の少ない隙間(ニッチ)分野に参入すべきだとしています。

 第2章では、21世紀の人生(キャリア)は、スタートアップと同様に、準備万端になることなどないが、変化に適応できるよう、うまく方向転換できるプランニングが必要であるとしています。そこで、「ABZプランニング」というものを提唱し、それは現状プラン(A)のほかに、目標や目的、そこにたどり着くルートが変わった場合にとるプラン(B)を考えておき、さらに、いざというときの備え、救命ボート的なプラン(Z)も考えておくべきだが、二手先を考えても、それ以上先(C、D、E...)は考える必要はないというものです。

 第3章では、誰かが独力で成功したという「神話」を信じてはならず、事業やキャリアを切り拓いてきた人は、人との縁を何より大切にしてきたとし、仕事上で大き意味を持つ人間関係には、信頼できる盟友、弱いつながり、ソーシャルメディアのフォロワーの3種類があるとしています。また、人とのつながりを大事にするには、まず相手の立場に立って尽くすことであるとしています。

 第4章では、偶然の幸運(セレンディピティ)をどう引き寄せるかについて、好奇心を発揮し、情熱を注げるのを見つけること、周りとのつながりを大切にし、機転を利かせ、活動を絶やさずにいることなどを説いています。

 第5書では、リスクへの対応について、リスクを賢く見極めることは大事で、不確実性とリスクを同一視してはならず、正確にリスクを評価すべきだとしています。また、年齢と仕事のステージによってリスクは異なり、短期的なリスクも、長い目で見れば安定性を高めることになるというパラドックスが、事業にもキャリアにもあてはまるとしています。

 第6章では、よりよい機会を探し、キャリアについてのこれまで以上に優れた判断を下すには、周りの人とのつながりを知恵袋とすることで、さまざまの難問が解けるとし、他人とのつながりがあっても使いこなせなければ意味がないため、必要な情報を人と分かち合うこと、幅広い専門家にアドバイスを求めることを推奨しています。

 スタートアップの事業戦略は人生(キャリア)戦略に類似しており、応用できるというのが本書の趣旨ですが、起業家らによって語られていることで説得力があると受け止める人と、ちょっと自分たちとは遠い世界だと思ってしまう人がいるかもしれません。

 しかしながら、読んでいくと、事実やデータを基に論じていることもあってオーソドックスであり、一方で、「職種ではなく業界を選ぶ」「スキル・情熱と市場環境を組みあわせる」といったスタートアップの発想も活かされていて、さらに「ポートフォリオ・キャリア」「永遠のβ版」といった興味深い考え方も紹介されており、人事パーソンにとっても、啓発される要素が少なからずある本でした。

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