【3333】 ◎ テレンス・ディール/アラン・ケネディー (城山三郎:訳) 『シンボリック・マネジャー (1983/05 新潮社) ★★★★☆

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超一流の企業は強い文化を持ち、シンボリック・マネジャーとは文化の有能な管理者であると。

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シンボリック・マネジャー (新潮文庫 テ 9-1)』['87年]/『シンボリック・マネジャー (同時代ライブラリー 326)』['97年]
シンボリック・マネジャー』['83年]
シンボリック・マネジャー s.jpg ハーバード大教授のテレンス・ディールと、マッキンゼイ社の経営コンサルタントのアラン・ケネディーによるベストセラー&ロングセラー本です(原題:Corporate Cultures,1982)。本書において著者らは、アメリカの有力企業80社を綿密に調査した結果、常に生き残る企業には経営の合理性を超えた何かがあるとして、「企業文化」という新しい観点から経営と管理の本質を人間性に即して説いています(日本語版訳者は城山三郎)。

 第1部「企業を支える文化」では、第1章「強い文化―持続的成功の推進力」において、超一流の企業は強い文化を持っており、それを維持することが企業を持続的に成功させるうえで重要であるとしています。そして、文化を維持するには、文化の基盤となる確固たる理念、文化の体現者である英雄、文化を形に表した儀礼・儀式、文化を伝達するコミュニケーション・ネットワークなどが必要とされるとしています。

 第2章「理念―企業の性格を決定するもの」では、企業の基本的な性格と、他とは異なる態度を決定するのは企業の価値理念であり、企業の価値理念は会社のあらゆる側面を支配するとし、また、強い文化には危険性や落とし穴もあるとしています。

 第3章「英雄―あの人のようになりたい」では、価値理念を文化の魂とすれば、英雄はこれらの価値理念を体現して組織の力を示す、強い文化の中心人物であるとしています。そして、英雄には生まれながらの英雄もいるがそれは稀有な存在であって、アメリカで最も成功している会社のいくつかでは、英雄の必要性を固く信じて、定期的に英雄を作り出しているとしています。また、英雄的資質とはカリスマ的才能のことではないとも言っています。

 第4章「儀礼と儀式―組織内の人間の行動原理」では、強い文化の会社は、企業生活における儀礼と儀式を作り出し、英雄はそれを効果的に演出するとして、管理上の儀礼や表彰の儀式、文化的なイベントの必要性を説いています。

 第5章「伝達―非公式の人間関係が情報を運ぶ」では、強い文化には強力なネットワークが存在し、なぜなら、それを通じて、組織の基本的な信念が強められるからだとしています。また、文化ネットなワーク内の役割として、語り役、聖職者、耳打ち役、うわさ屋、秘書、スパイ、秘密結社などを挙げ、文化ネットワークを動かす管理者は、組織のあらゆる階層の人々と絶えず接触し、こうした非公式の人間関係が運んでくる情報も含め、自分たちが尊重する価値を強化するために活用するとしています。

 第2部「企業を動かす文化」では、会社はどのようにすれば強い価値理念を企業環境に合わせて調整し、成功を持続できるかを論じています。第1章「企業の種族―会社には四つの型がある」では、会社には、逞しく男っぽい文化、よく働きよく遊ぶ文化、会社を賭ける文化、手続きの文化の四つのタイプがあるとして、それぞれの文化における英雄、儀式と儀礼、強みと弱みを解説しています。

 第2章「診断―あなたの会社をどう考えるか」では、こうした文化を診断するための技法を紹介し、文化の診断によって、管理者は文化の現在位置とその強弱を知ることができるとしています。

 第3章「象徴的管理者(シンボリック・マネジャー)―いま最も求められる人材」では、強い文化の会社では、管理者が率先して文化を維持・形成するとして、彼らを「シンボリック・マネジャー(象徴的管理者)」と呼んでいます。そして、シンボリック・マネジャーは、これまで有能とされてきた、分析能力に優れた合理的管理者とどう違うのか解説し、言行一致の体現者であるシンボリック・マネジャーの方が合理的管理者より重要であるとしています。文化の有能な管理者こそがシンボリック・マネジャーであり、そうあるためには、勇気と、文化の価値理念を貫き通す覚悟が必要だとしています。

 第4章「改革―組織の根底の部分」では、文化を管理すること以上に文化を変えることは難しく、改革には危険が伴うが、ときには改革が必要であるとし、では改革を管理するにはどうすればよいかを説いています。そして文化の改革は、改革成功に有効な基本的文化事業(英雄、価値理念、儀礼など)を、改革を試みる管理者が敏感に捉えることができるかにかかっているとしています。

 第5章「未来の企業―外的変化に適応できる会社の条件」では、科学技術の発達により、将来の組織はどのようになり、その中で中間管理者やコンピュータはどのような役割を担うようになるか、また、それによってどのよな組織革命が起き、組織の文化はどのように変化するかを予測していますが、ここにおいても、将来有望なのは強い文化の会社であり、強い文化は環境に対応できるばかりでなく、さまざまな状況の変化に適応することができるとしています。

 本書の背景には、1980年代初頭に米国で米国企業の生産性の伸びの低下が目立つようになり、一方、当時の日本は米国と比べ従業員がずっと企業に一体感を持っているように見えたため、日本の経営を見習えと主張する本も多く出版される中で、米国でも成功モデルと見なされる企業は同様の特色を有しているということが分かり、そこで著者らが注目したのが「企業文化」の重要性ということだった―という流れがあるかと思います。

 とは言え、今読んでも、言っていることに古さを感じさせないです。企業が継続的に成功できるような環境つまり「文化」とは、額縁に入った社是、社訓によってもたらされるものではなく、「文化」を社内に作り出す、経営理念の体現者たるシンボリック・マネジャーによって作られるものだと(となると誰をマネジャーにするかが重要になってくる)改めて感じ入った次第です。

【1987年文庫化[新潮文庫]/1997年ライブラリー化[岩波同時代ライブラリー]】

《読書MEMO》
●目次
第1部 企業を支える文化
 Ⅰ 強い文化―持続的成功の推進力
 Ⅱ 理念―企業の性格を決定するもの
 Ⅲ 英雄―あの人のようになりたい
 Ⅳ 儀礼と儀式―組織内の人間の行動原理
 Ⅴ 伝達―非公式の人間関係が情報を運ぶ
第2部 企業を動かす文化
 Ⅰ 企業の種族―会社には四つの型がある
 Ⅱ 診断―あなたの会社をどう考えるか
 Ⅲ 象徴的管理者(シンボリック・マネジャー)―いま最も求められる人材
 Ⅳ 改革―組織の根底の部分
 Ⅴ 未来の企業―外的変化に適応できる会社の条件

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