【3334】 △ 新井 健一 『働かない技術 (2019/08 日経プレミアシリーズ) ★★★

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タイトルずれ? これからの組織マネジメントの在り方を探っているが、やや新味に欠く。

働かない技術.jpg 『働かない技術 (日経プレミアシリーズ)』['19年]

 働き方改革で、従来の長時間労働やパワハラ体質に頼った組織マネジメントが見直しを迫られているなか、コンサルティング会社出身の経営コンサルタントが、これからの管理職や組織マネジメントの在り方を、2人の担当課長を軸とした架空の社内ストーリーを交えながら、平易に説いた本です。

 タイトルに「技術」とありますが、生産性の低い会議や売り上げのための残業ばかりやっている企業はいずれガラパゴス化するとしながらも、長時間労働をなくすための「技術」を説くというよりは、30代から40代のいわゆるミドル世代に、これまでの上司と同じ働き方をするのではなく、新たな覚悟と知恵を身につけるよう「意識」を改革することを訴えた本であったように思います(タイトルずれ?)。

 人事・人材管理面からの考察もされていて、日本企業に特徴的な「メンバーシップ型」組織が、長所もある反面、長時間労働を招く要因にもなっているとし、さらに、職能給であろうと役割給であろうと、職務の範囲が限定されておらず、企業の裁量により自由に職種やポストを異動させられる人事管理では、残業体質を改善するのは難しいとしています。

 その上で、管理職による管理の仕方は、今後、自らの仕事は持たず職場のメンバーを育成していく「役割給概念による日本型人事管理」と、担当ポストに求められる職務の範囲内で自らの専門性を発揮する「職務給概念による欧米型人事管理」の2つの道に分かれ、人事管理もそれに沿ってハイブリッド化するだろうとしています。

 また、課長(ミドル)が取り戻さなければならない価値観として「徳」を挙げ、役割給型の管理職は、部下の成長のために「贅沢な無駄時間を作り出す」べきであると説く一方、自ら時間を犠牲にして働きすぎる課長は、役割給型、職務給型のいずれであろうとも、いずれ「いらない人材」に転落するだろうとしています。

 全員が同じように多能工的なキャリアを目指すのではなく、2つのの方向のキャリア分離が最も望ましいとし、具体的には、遅くとも一般職から管理職に昇進する前に、「役割給人材」か「職務給人材」か、どちらの人材タイプを目指すか自身で決めるよう、生涯キャリアを自己管理することを訴えています。

 このように、もともと30代から40代のミドル世代に、従来の「職場脳」から脱却し、キャリアを自律することの必要性を説いた啓発的な内容の本であり、人事パーソンが読むと、タイトルに「技術」とあるだけに、やや物足りないのではないかと思います。

 管理職個々の意識改革と併せて、これからの組織マネジメントの在り方をも探っていますが、やや新味に欠くように思いました。例えば、本書で言うところの「役割給人材」「職務給人材」のコース分けを(従来的な専門職制度とは異なり)かなり早期のうちに行っている企業もすでにあります。

 ただし、企業側からみて、人事管理をハイブリッド化することが、従来の長時間労働からの脱却につながるのかどうかというと、もう少し議論や検証が必要なように思えました。管理職を目指す人、いま管理職の地位にある人に気づきを促すという意味では悪くないと思いますが、人事パーソンの目線で△とさせてもらいました(厳しい?)。

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