【3326】 ○ 各務 晶久 『職場の紛争学―実践コンフリクトマネジメント』 (2019/07 朝日新書) ★★★☆

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職場での対立・葛藤を解消する「コンフリクトマネジメント」を事例で紹介。

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職場の紛争学 実践コンフリクトマネジメント (朝日新書)』['19年]

 人事コンサルタントによる本書では、企業内で多様な人材が働く昨今、職場での思わぬコンフリクト(対立・葛藤)が増えていくだろうとし、実際に起きた6つの事例をもとにその類型を分析し、解決のための方法を指南しています。

 事例1は「オーナー社長vs.大企業OB」。オーナー社長が自ら中途採用した大企業のOBが、当初に期待した成果を上げられず、社長が「自分の給料分は利益を上げてくだい」と言うと、本人に「なぜ、私が営業をやるんだ!」と逆に開き直られてしまったというもの。コンサルタントは社長と大企業OBの両者と面談し、両者の視点の対立点を抽出、コンフリクトの原因と考えられる双方のパラダイムの違いなどを明らかにしていくとともに、人事マネジメント上どのような工夫をすればこうしたコンフリクトを予防できるかを示しています。

 事例2の「ゆとり社員vs.バブル上司」では、厳しい上司に追い込まれて泣き出す部下と、そもそも上司は敵であり乗り越えていくものだという考えの管理職の対立を、事例3の「専門志向vs.上昇志向」では、社内の飲み会に出ていては自分のスキルを磨けないとする専門職と、そんなことでは将来の幹部に必要な社内人脈が築けないとする上司との対立を取り上げています。

 さらに事例4から6にかけて「営業トップvs.経営層」「意識高い系部下vs.実直上司」「女性総合職vs.男性上司」と続きますが、目に見える多様性ばかりではなく、仕事への取り組み方やキャリアについての考え方など、意識や価値観といった目に見えない違いを取り上げている点が特徴的であるとともに、これらはどこの職場にも十分に起こり得るコンフリクトであるように思いました。

 最後に、「コンフリクトマネジメント入門【理論編】」として、条件、認知、感情の3つが対立を生み出す要素としています。つまり、対立を生み出す3つの要素とは、①立場や役割の違いによって起こる目標・条件の対立、②思考・価値観の違いによって起こる物事の解釈の対立、③条件・認知の対立状態が続いたり、その経験がもとになったりして起こる心情面の対立、であるとしています。

 その上で、ケネス・W・トーマスの「二重関心モデル」を紹介し、そこから導き出される〈強制〉〈服従〉〈回避〉〈妥協〉〈協調〉の5つの解決方法と、その他、〈闘争〉〈訴訟〉〈仲裁〉〈ミディエーション〉というコンフリクトへの4つの対応方法を示しています。さらに、コンフリクトの解決に至るまでには、今起こっているコンフリクトを構造的に捉える必要があるとして、そのために有効な6つの視点として、1.世界観、2.立脚点、3.ニーズ、4.問題の再焦点化、5.建設的提案、6.破壊的提案、を挙げています。 そして最後に、これまで事例の解決策としても紹介されてきたミディエーションというものについて解説しています。
 
 著者が言うように、日本人は対立を回避する傾向がこれまで強かったけれども、多様な人材をさまざまな雇用形態で活用せざるを得なくなったため、今後はこれまで避けてきた対立が表面化することも多くなるのでしょう。その際に、コンフリクトを1つ解決すればそれで終わりというのではなく、対立の根底に何があるのかを見極めることが、次の予防へと繋がることになり、そのヒントを与えてくれるものとして、事例編は興味深く読めました。

 一方の理論編の方は、コンパクトに纏められていますが、その分、やや概念的なままに終わってしまった印象があります。とりわけ最後のミディエーションについては、紙数が尽きたのかという印象も。

 人事専門誌「月刊人事マネジメント」6回の連載をベースに、ケネス・W・トーマスの著書や、鈴木有香氏がその著書『交渉とミディエーション』(三修社)、『人と組織を強くする交渉力』(自由国民社)などで展開しているコンフリクト・マネジメント、メディエーション論を加筆したものの、新書1冊に纏めるとなると、理論編が圧縮されるのは致し方なかったのでしょうか。

ただ、事例編の部分はコンフリクトについての気づきを促してくれるとともに、その解決・予防について示唆に富むものであったように思います。事例編を読むだけでも、「コンフリクトマネジメント」が実際どういうものか理解することは可能だと思います。

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