【3327】 ○ 上林 憲雄/平野 光俊 (編著) 『日本の人事システム―その伝統と革新』 (2019/07 同文舘出版) ★★★★

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「日本型人事システムは組織志向と市場志向を止揚しながら環境適合的に進化していく」と。

日本の人事システム.jpg 『日本の人事システム -その伝統と革新』['19年]

 本書は、日本型人事システムの変容を大規模調査によって明らかにし、今後の方向性についての解明を試みた「人材マネジメントの新展開」調査研究プロジェクトの成果を書籍化したものです。①人事部の新たな役割、②人事ポリシー、③組織文化、④意思決定メカニズム、⑤「働き方改革」の施策、⑥グローバルリーダーの在り方、の6つの視点から7人の専門家が、日本的共同体の市場化メカニズムの実態と論理を解明し、今後の人事システムのありようを展望しています。

 第1章「人事部の新しい役割」では、日本企業の社員格付け制度のトレンドとして、職能資格制度から役割等級制度への移行が見られるとしています。また、今日の日本企業においては、「職能資格制度と人事権人事部集中」と「役割等級制度と人事権ライン分権」の補完的組み合わせが併存する一方、実際には役割等級制度を採用する企業の粘着的人事情報の集中蓄積が高いことを指摘し、その理由を考察しています。著者は、従前どおり人事部が人事情報を収集蓄積したうえで、適材適所のキャリア開発ができるようライン管理職を支援するとともに、キャリア相談等を通じて社員の自律的キャリア意識を育てる施策が効果的であり、そこに人事部が人事情報を収集蓄積する意義があるとしています。

 第2章「人事ポリシーと従業員の働きがい」では、こうした日本企業の人事施策を根底で支える人事ポリシーには、自社だけでなく他社でも通用する汎用的能力の涵養を重視する「エンプロイヤビリティの重視」志向、会社の戦略に合致するよう従業員の成長を支援する「個別化された能力開発」志向、実力や成果に応じた評価や報酬を付与する「実力・貢献主義的処遇」志向の3つのポリシーがあることをデータから確認し、「実力・貢献主義的処遇」志向であるほど従業員の働きがいは高いとしています。

第3章「人事ポリシーと組織文化」では、人事ポリシーを支える組織文化に焦点を当て、日本企業の組織文化をクラン、マーケット、イノベーション、ビューロクラシーの各志向に分類、今日の日本企業における組織文化が、家族主義的色彩の濃いクラン型をベースとして残しながら、マーケット志向やイノベーション志向やビューロクラシー志向といった複数の志向を内包しており、各志向がバランスよく観察される企業が、「エンプロイヤビリティの重視」、「個別化された能力開発」、「実力・貢献主義的処遇」を意識する志向が高いことが見い出されたとしています。

第4章「人材育成と参加的意思決定」では、日本型の意思決定スタイルは従来はボトムアップ型とされてきたが、今回の調査では、低職位層は決定のプロセスにはそれほど参画しておらず、むしろ決定の権限を下位の職位に委嘱するよりは、「起案」に下位の職位を参加させ、決定の権限は上位に委ねる方が、育成に効果があることが分ったとし、その意味では、日本型の意思決定は、人材育成の機能を果たしてきたとしています。

第5章「働き方改革の現状と未来」では、政府によって推進されている働き方改革の内実は、女性活躍推進、労働時間削減、勤務形態見直し、みなし労働時間制、限定正社員制度、既存制度の見直しという6つの施策群から構成され、ともすると法令遵守の意識が先導しがちだが、企業の活動成果にポジティブに作用するよう企業が主体的に推進してこそ意義がある施策であるとしています。

第6章「グローバルリーダーの条件」では、日本企業におけるグローバルリーダーは、米国のような普遍的で短期視点での利益追求ではなく、より長期視点で育成を重視する行動をとることが求められるだろうとしています。とりわけ日本型のチーム組織を海外拠点でとっている日本企業では、グローバルリーダーは組織が置かれた状況に合致するよう計画的に内部育成されていることが明らかになったとしています。

エピローグでも述べられていることですが、グローバル化に伴い、日本企業の人事システムは一層の市場対応が可能な体制に変貌を遂げつつあるが、現状においてもなお米国のそれとは一線を画し、むしろ旧来の日本型人事システム(人事部による従業員の人事情報の長期的な蓄積と運用、労使双方のニーズの合致志向、家族主義的な組織文化、低職位層の意思決定と起案書作成段階にいおける限定的参画、グローバルリーダーの内部育成志向)との連続性を意識しつつ、そのうえで透明性・納得性の高い実力主義に基づいた評価・報酬付与が行われる人事システムが模索されているとしており、「人材育成」と「実力主義」を両立させようという志向性が昨今の日本型人事システムの特徴であり、それは組織志向と市場志向の「ハイブリッド型人事システム」として位置づけることができるだろうというのが本書の結論です。

言い換えれば、「日本型人事システムは組織志向と市場志向を止揚しながら環境適合的に進化していく」というのが本書の結論ということになります。やや旧来の日本型人事システムに肩入れし過ぎではないかと気がしないでもなく、また、学者たちの共同研究であるためか、実務家目線で見ると若干もやっとした感じの結論になった気がしなくもないですが、大きなトレンドを俯瞰したものとしてみるべきなのでしょう。調査をもとにこうした結論を導き出している点で、それなりに説得力はあったように思います。

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