【3431】 ○ 上林 周平 『人的資本の活かしかた―組織を変えるリーダーの教科書』 (2022/07 アスコム) ★★★☆

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人的資本時代のリーダー論。啓発的でありながらも、どことなくもやっとした印象も。

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人的資本の活かしかた 組織を変えるリーダーの教科書 単行本』['22年]

 本書では、日本にアップルやアマゾンがような企業が生まれないのは、かつて製造業を世界一に押し上げた日本的な組織のあり方からなかなか脱却できず、人的資本への投資が進んでいないからであるとしています。日本企業の持つ資産の多くは、設備や建物、現金などの有形資産に偏っており、今、日本の企業も「人的資本経営」へと大きく変革する必要があるとしています。本書は、これから企業にとって「人的資本経営」は避けられない課題になるとし、ではその「人的資本経営」とは何なのか、 今までのマネジメントとどう異なるのか、これからのリーダーにはどのような能力が求められるのかを解説しています。

 第1章で、「人的資本経営」とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営の在り方であると定義し、今、人的資本経営が注目される理由は3つあり、1つは社会からの要請、1つは企業の戦略的必要性、1つは価値観の変化であるとしています。

 第2章では、人的資本時代における管理職を「チーム経営責任者(TMO=Team Management Officer)」と定義し、チーム経営責任者に求められる能力として、①キャリア支援力、②強み発見力、③仕事アサイン力、④チームビルディング力、⑤人材獲得力、⑥オンボーディング力、⑦全体俯瞰力の7つを挙げ、以下、第3章から第9章までの各章でそれぞれについて解説しています。

 まず、第3章と第4章では、人的資本を伸ばす能力としての「キャリア支援力」と「強み発見力」について述べています。「キャリア支援力」は、ポジションを重視した組織内キャリアではなく、人的資本に注目した個人のキャリアを支援するものであり、「強み発見力」は、自分のコピーをつくる育成ではなく、それぞれのメンバーの強みを引き出す能力であるとしています。

 第5章と第6章では、人的資本を活躍させる能力としての「仕事アサイン力」と「チームビルディング力」について解説しています。「仕事アサイン力」は、メンバーに対して画一的に関わるのではなく、それぞれの強みにフォーカスした個別アプローチがベースになるとし、「チームビルディング力」は、かつてのような上意下達ではなく、メンバーの力がスムーズに発揮できるフラットなチームづくりのために必要であるとしています。

 第7章と第8章では、チームに人的資本を投入する能力としての「人材獲得力」と「オンボーディング力」について述べています。「人材獲得力」の前提にあるのは、人材は受け身的に与えられるものではなく、管理職が自分から獲得していくものであるという考え方であるとし、「オンボーディング力」は、新しく受け入れたメンバーをチームに当てはめるのではなく、新しいメンバーの強みを活かして新たなチームを作っていくということが基本となるとしています。

 さらに、第9章で、チームの人的資本と経営戦略をつなぐ能力としての「全体俯瞰力」について、近視眼的に自分のチームだけを見るのではなく、経営戦略との連携を重視するということであるとしています。そして最後に、第10章で、人的資本経営にありがちな「5つの罠」を挙げ、罠に陥らないために人事部門や経営者が行うべきことを説いています。

 人的資本は、人的資本情報の「開示」という面で注目を集めていますが、将来的に企業価値向上につなげるという意味では、実際のアクション部分である人的資本の「最大化」を行うことが、組織を強くする上で大事であり、その中核を担うのが中間管理職であるという本書の趣旨は、その通りであると思います。

 「組織を変えるリーダーの教科書」とサブタイトルにあるように、人的資本時代における「チーム経営責任者」としての管理職やリーダーに求められる能力とそれを発揮するためのスキルが、よくまとめられていると思いました。

 一方で、啓発的な内容でありながらも、どことなくもやっとした印象にとどまる面もあり、読みやすい本ですが、書かれていることを実践しようとしたら、何度か読み返しが必要な本でもあるように思いました。

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