「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3442】 フランシス・フライ/アン・モリス 『世界最高のリーダーシップ 』
「●マネジメント」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(ユベール・ジョリー)
人的資本時代のリーダー論。組織のパーパスと社員のパーパスを結びつけるという点で啓発的。
『THE HEART OF BUSINESS(ハート・オブ・ビジネス)――「人とパーパス」を本気で大切にする新時代のリーダーシップ』['22年]『The Heart of Business: Leadership Principles for the Next Era of Capitalism』['00年]ユベール・ジョリー
ベスト・バイ(Best Buy)米ミネソタ州ミネアポリスに本社を置く世界最大の家電量販店
「人」を大事にする、「パーパス」を大切にするといったことは最近よく聞かれますが、「パーパス経営」と言われても今一つ漠たるイメージしかなかったりすることも多いかと思います。本書は、マッキンゼーのコンサルタント出身で数々の企業の再生を行なってきた元ベスト・バイのCEOが、企業経営がどん底の中、リストラでも事業縮小でもインセンティブでもなく、目の前の人とパーパスでつながることを選んで会社を立て直した自身の実体験をもとに、これからの時代のリーダーシップについて述べたものです。本書では、パーパスを明らかにし、人々の深いつながりとパーパスを基軸に経営することが、ビジネスの核心(ハート・オブ・ビジネス)だと述べています。
第1部(第1章~第3章)では、人にとっての仕事の意味について考察しています。仕事は生きる意味の探究の一部であり、「人間らしく生きるのに欠かせないもの」「自分の生きる意味を探すための鍵」「人生に充実感を見いだす手段」だと捉えることで、経営者と従業員の関係がよくなり、ビジョンを達成できるようになるとしています。また、自分のパーパスを探るには、
① 愛していること、
② 得意なこと、
③ 世界が必要としていること、
④ お金を得られること
の4つの要素が重なるところに自分のパーパスがあるとしています。
第2部(第4章~第7章)では、企業は利益ばかりに目を向けていると、顧客や従業員を敵に回すことになり、企業におけるパーパス(その企業が存在する意義)と人を重視すべきであって、「ノーブル・パーパス(大いなる存在意義)」を会社の戦略の要とし、それに沿った経営慣行を作るべきであるとしています。そして、どんなときも人から始め人が最後になるとし、人のエネルギーを生むにはどうすればよいかを説いています。
第3部(第8章~第13章)では、時代遅れとなった「アメとムチ」による経営手法に代わるアプローチの鍵となるものを「ヒューマン・マジック(人に備わる魔法のような力)」と呼び、経営者が以下の5つの要素を意識し従業員への接し方を変えることで、彼らの働き方が変わるとしています。
① 個人の夢と会社のパーパスを結びつける
② 人と人とのつながりを育む
③ 自律性を育む
④ マスタリー(熟達)を追究する
⑤ 追い風に乗る(成長できる環境を作る)
第4部(第14章~第15章)では、パーパスフルなリーダーになるために大切なことを挙げ、パーパスフル・リーダーの5つの「あり方」として、以下を挙げています。
① 自分と周囲の人々のパーパスを理解し、それらと企業のパーパスの結びつきを明確にする
② リーダーとしての役割を明確にする
③ 誰に仕えているかを明確にする
④ 価値観を原動力にする
⑤ 偽りのない自分になる
本書は、経営者自らがパーパスについて語った最初の本であるとのことです。個人的には、一人ひとりにとってのパーパスというものを、企業にとってのノーブル・パーパスに敷衍している点が興味深かったです。個々にものすごく目新しいことが書いてあるわけではありませんが、リーダーは完璧である必要はなく、リーダーにとって重要なのは自分らしくあることであり、また、最善を求めて努力し続け、周りの人とコミュケーションをとり、組織のパーパスと社員のパーパスを結びつけ、彼らがのびのびと働ける環境づくりをすることこそが求められるということを、改めて教唆してくれる本でした。