【3398】 ○ 友原 章典 『会社ではネガティブな人を活かしなさい (2021/12 集英社新書) ★★★☆

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『オプティミストはなぜ成功するか』の"裏返し"のようなアプローチの本に思えた。

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会社ではネガティブな人を活かしなさい (集英社新書) 』['21年] マーティン・セリグマン 『オプティミストはなぜ成功するか [新装版] (フェニックスシリーズ)

 本書では、巷に流布する「従業員が幸せ(ポジティブ)になれば会社の業績が上がる」という言説に疑念を呈し、会社はもっとネガティブな人を活かすべきだとしています。第1章から第3章では、「幸せな従業員が業績を上げる」というのは事実かどうかを検証し、ネガティブな従業員が組織にもたらす恩恵もあると分析、第4章では、これからの組織の在り方を念頭に、テレワークやeリーダーシップ(オンライン上のリーダー論)に言及しています。

 第1章では、幸せ(ポジティブ)な従業員は業績を上げるかどうかをさまざな実験結果から検証しています。従業員の気分が良くなって生産性が向上するのは一時的なものであって、従業員あたりの売上高は仕事の満足度とは無関係であり、従業員を幸せにする労務管理は、費用対効果から推奨できない可能性が高いとしています。

 第2章では、不幸せ(ネガティブ)な従業員こそ重要であるとしています。ネガティブな従業員は、現状に問題があるととらえ、より体系的かつ合理的に考えるし、ここ一番では協調的であるとして、金融業などでは心配性の方が有利であるとしています。

 第3章では、最近その重要性が唱えられているマインドフルネスについて言及しています。ストレスが多い職場では、マインドフルな従業員ほどよい成績を上げるとそています。マインドフルネスの訓練は、ストレスからの回復力(レジリエンス)を向上させ、また、上司がマインドフルであれば、部下の疲弊度は低く、業務評価は高い傾向にあるとしています。

 第4章では、在宅勤務により、従業員のパフォーマンスが向上する傾向にある一方、在宅勤務に向かない従業員もいて、キャリア形成面での悪影響も懸念されるとしています。また、テレワーク時代に成果を出す上司とはどのような上司かを分析し、オンライン上での感情表現の重要性について述べています。

 最後に第5章で、企業は従業員に「幸せ」を押しつけない方がよいとし、ネガティブな人間が創造性を発揮しやすい環境を作れば、ネガティブ社員はいざという時に会社のピンチを救うことになるとしています。

本書を読んで、ポジティブ心理学の創始者セリグマンの『オプティミストはなぜ成功するか』という本を思い出しました。楽観主義者は悲観主義者よりも物事において良い結果を残すことが多いとした本ですが、会社で社員全員がオプティミストだと会社は破綻するとしています。財務管理や安全管理などの面では、現在の状況をしっかり把握する職業的ペシミストが必要であるとし、分野によっては悲観主義者の方が優れていることを指摘していました(人事はこの分野に該当するとされていました)。

 本書は、ポジティブ心理学を批判した本のように見えますが、結局、ネガティブだからといってがすべて悪いわけではなければ、ポジティブだからといってすべて良いとも限らず、状況によって活躍する人材は異なってくるということを意識すべきであるといっているのだと思います。その意味では、むしろ『オプティミストはなぜ成功するか』に書かれていることに通じる部分があったように感じました(この本の"裏返し"のようなアプローチ)。

 「幸福学から考えた組織論」であり、マインドフルネスの本質と訓練方法や職場への影響、オンライン上のリーダーの「怒り」の表現の効用などについても書かれていて、そうした新たな知見に触れたい人にはお薦めです。

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