【3417】 ◎ マックス・H・ベイザーマン/アン・E・テンブランセル (池村千秋:訳) 『倫理の死角―なぜ人と企業は判断を誤るのか』 (2013/09 エヌティティ出版) ★★★★☆ 《再読》

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コンプライアンスの取り組みが逆に組織の非倫理的な行動を助長してしまうことがある‼

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倫理の死角ーなぜ人と企業は判断を誤るのか

 本書は、企業不祥事を防ぐにはどうしたらよいか、人や組織はなぜ無責任で、非倫理的な行動を起こすのか―この問題を考えるに際して、「人間」の行動に焦点を当てた「行動倫理学」という行動心理学・行動経済学的アプローチにより、いわばミクロの視点から人や組織の行動メカニズムを読み解きながら、意思決定プロセスに潜むさまざまな落とし穴を浮き彫りにした本です。個人的には2014年に読み、今回が約10年ぶりの再読及び選評になります・。

 第1章では、たいがいの人はおおむね倫理的に行動しているが、ときには自分が非倫理的行動をとっていると自覚している場合もあり、いちばん危険なのは、自分も気づかずに非倫理的な行動をとるケースであるとしています。

 第2章では、人は概して、自分の倫理上の判断がバイアスの影響を受けていても気づかずに非倫理的決定を下しがちで、そうした人間の認知能力の限界(「倫理の死角」)を前提に物事を考えるのが「行動倫理学」であるとしています。

 第3章では、無意識のうちに非倫理的行動を取ってしまう心理的プロセスについて述べており、そこには、内集団びいき、日常的偏見、自己中心主義のバイアス、未来の過剰な割引の4つがその要因としてあるとして分析しています。

 第4章では、聡明な人たちがどうして意思決定の際に問題の倫理的側面を見落としてしまうのかについて、意思決定の「事前」の予測の誤り(自分の倫理的行動能力を過大評価し、倫理問題を度外視した判断(直感的行動)をしがち)、意思決定の「最中」の「したい」の自己と「すべき」の自己のせめぎ合い、意思決定の「事後」の回想のバイアス(自分の判断を正当化したり、倫理性の判断基準をすり替えたりして、自己イメージを守りがち)の3点から分析しています。

 第5章では、どうして多くの人が他人の非倫理的行動を見落としたり、阻止できなかったりするのかについて、動機づけられた見落とし(非倫理的行動を黙認する方が自分の得になるという)、間接性による見落とし、段階的エスカレートの罠、結果偏重のバイアスの4点から分析しています。

 以下の三章では、そうしたバイアスが組織と社会に及ぼす影響と、問題のある行動パターンを改めるための道筋について論じています。

 第6章では、なぜ倫理的な組織を築けないのかを考察し、報酬システムのゆがみ、制裁システムの思わぬ副作用、善行の「免罪符効果」、目に見えない組織文化の影響の4点から分析しています。

 第7章では、なぜ改革が実現しないのか、どのような組織がどうやって非倫理的行動を増幅させているのかを、たばこ産業、(経営破綻したエンロンの)会計事務所、エネルギー産業を例に見ていっています。

 第8章では、読者が自分の「倫理の死角」をなくし、人生でぶつかる倫理上のジレンマを明確に認識できるように、個人、組織、社会の各レベルでのアドバイスを記して、本書を締めくくっています。

 興味深いのは、コンプライアンスの取り組みを進めても、逆にそのことがバイアスとなって、組織の暗黙の文化が非倫理的な行動を助長してしまうことがあることを指摘している点で、制度化の圧力が強まると、人は制度や目標に合わせることばかり考え、内面からの動機や自らの言葉で倫理問題について考えなくなる傾向にあるという指摘は、非常にブラインド・スポットを突いているように思いました。

 制度化を進めるだけでは非倫理的行動を防ぐという期待通り効果を生むとは限らず、一つの意思決定が組織内・外にどういった倫理的影響を与えるか、一人一人が考えることが大事であり、企業側も、形式的な取り組みではなく、自社が抱える問題を明確にし、自らの言葉で説明し、それに応える制度を作っていかない限り、経営基盤の強化にも繋がらないということなのでしょう。

 今回読み直して(翻訳者も同じですが)改めて考えさせられる面があり、評価を★★★★から★★★★☆に変更しました。

【2772】 ○ 日本経済新聞社 (編) 『企業変革の名著を読む』 (2016/12 日経文庫)

《読書MEMO》
企業変革の名著を読む.jpg● 『企業変革の名著を読む』('16年/日経文庫)で取り上げている本
1 ジョン・P・コッター『企業変革力』
2 ロバート・バーゲルマン『インテルの戦略』
3 ピーター・センゲほか『出現する未来』
4 サリム・イスマイルほか『シンギュラリティ大学が教える飛躍する方法』
5 松下幸之助述『リーダーになる人に知っておいてほしいこと』
6 ジョセフ・L・バダラッコ『静かなリーダーシップ』
7 C・K・プラハラード『ネクスト・マーケット』
8 シーナ・アイエンガー『選択の科学』
9 ナシーム・ニコラス・タレブ『ブラック・スワン』
10 マックス・ベイザーマンほか『倫理の死角』
11 若桑みどり『クアトロ・ラガッツィ』
12 アレックス・ファーガソン『アレックス・ファーガソン自伝』


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