【1584】 △ 牧野 正幸 『君の会社は五年後あるか?―最も優秀な人材が興奮する組織とは』 (2010/08 角川oneテーマ21) ★★★

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「GPTW1位企業」の経営者の人材採用・育成・定着施策。ITベンチャーらしいなあ。

君の会社は五年後あるか2.jpg 君の会社は五年後あるか 帯.jpg君の会社は五年後あるか? 最も優秀な人材が興奮する組織とは (角川oneテーマ21)』['10年]

 成長著しいIT企業(ワークスアプリケーションズ)の若きトップが、自社の人材戦略を自ら語ったもので、すでにこの会社のことは人事専門誌などでも紹介されていたりするため、さほど目新しさは感じませんでしたが、一般向けの新書ということで、読み易いことは読み易かったです。

 この会社が注目を浴びるようになったのは、「働きがいのある会社ランキング」で'09年に4位、'10年にはトップになったことも影響しているかと思いますが、これは、サンフランシスコに本部があるGreat Place to Work Institute(GPTW)のサーベイの、'07年から始まった「日本版」調査であり、企業の「働きがい」を高める具体的な施策について「採用する」「歓迎する」「触発する」「語り掛ける」「傾聴する」「育成する」「配慮する」「祝う」「分かち合う」といった組織風土面の従業員意識調査を行って採点し、ランキングを決めるものです。

 結構この調査は、毎年ランクイン企業の順位が入れ替わるので、1位になったタイミングでこうした本が出るパブリシティ効果は大きいし、また、それが出版の狙いであるという穿った見方も出来るわけですが('10年のトップ10のうち6社はIT企業であり、この業界の人材獲得競争の熾烈さを反映しているとも言える)、そうしたことは抜きにして、改めて参考になった面もありました。

 人材育成のコンセプトがしっかりしていて、「勉強ができた人を、仕事ができる人に育てる」ということですが、これ、グーグルとかマイクロソフトと同じだなあと。基本、先ず優秀な人材を採るわけですね、しかも新卒で(新卒採用に重きを置いているのは、'10年のGPTWで6位にランクインしているサイバーエージェントなども同じである)。そして、育成と定着を図る―。

 あと、評価(人事考課)に力を注いでいて、プロセス重視の「相互多面評価」を取り入れると共に、何をもって優秀な社員とするかを明確にしています。
 それと、こうした進取の気質溢れる会社では、社員が退職し独立するのはやむを得ないとしても、独立した後でまた出戻ってくるのは歓迎するとしています。
 もちろん、育児休業なども手厚く、産休から復帰した社員には特別ボーナスが出るとのことです。

 個人的に思うに、ソフト産業界には四年制大卒・文系女子がかなり流れるため、一から教育した投資分を人材の定着を図ることで回収しないと、初期の教育投資が無駄になってしまうというのもあるのでしょう。

 そうした業界特有の状況もあっていろいろ講じた施策(ある意味、"競争"的にそれをしている)が、現在の人事マネジメントのトレンドである「人を尊重する」或いは「ワークライフバランス」といったものに偶々合致したともとれますが、その結果、業績が伸びているのだから、ワークライフバランス施策を講じることが企業業績の向上に繋がるという恰好の見本であるとも言えるかと思います。

 経営者が自分で書いて、登場する人物が役員や幹部社員だったりするため、宣伝気味の感は拭えず(人事専門誌で読むとそうでもないのだが、こうして新書で読むとね)、実際には本書に書かれていない裏事情もあるのではないかと。

 でも、ベンチャーから大企業然とした会社になるのではなく、ベンチャーからメガベンチャーになるのだと最後に述べているのは、この会社のこれからの課題をよく認識しているように思えました。

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