【3199】 △ 神代 辰巳 (原作:古井由吉) 「櫛の火 (1975/04 東宝) ★★☆ (? 古井 由吉 『櫛の火 (1974/12 河出書房新社) ★★★?)

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部分的にはともかく、全体的には(気の毒な事情もあったが)失敗作。

「櫛の火」1975.jpg「櫛の火」01.jpg
邦画映画チラシ[ 櫛の火 草刈正雄 ジャネット八田」#944」草刈正雄//桃井かおり
櫛の火』['74年]/『櫛の火 (新潮文庫)
『櫛の日』単行本.jpg『櫛の火』.jpg「櫛の火」c.jpg 広部(草刈正雄)が初めて柾子(ジャネット八田)と会った時、彼女はホテルのロビィで、大学講師の夫・矢沢(河原崎長一郎)、矢沢の友人・田部(岸田森)、松岡(名古屋章)と話していた。広部が待っていた先輩と松岡が知り合いで、形「櫛の火」05.jpg式的に柾子を紹介される。3年前、大学紛争も終りに近い頃、弥須子(桃井かおり)が激烈な常套句で広部の生き方をなじって離れていった。そして一年後に、広部は弥須子と再会し、その夜、二人は連れ込み宿で肌を寄せう。翌朝、弥須子は広部と別れた後、急に腹痛を起こし入院、病院に駆けつけた広部は献身的な看護を続けたが、一週間後彼女は息を引きとる。彼女の櫛が形見として広部に渡された。初めて柾子を紹介されてから10日ほどして、広部は柾子と電話で話した。征子は夫の矢沢と別居しており離婚の話がついていると言い、二人は月に一度ほどの間隔で逢うようになり、どちらからともなく体を求めるようになった。一方、矢沢はあけみ(高橋洋子)と同棲していた。しかし、あけみは多情な女で、矢沢はいつも嫉「櫛の火」06.jpg妬していた。遂にあけみに我慢ができなくなった矢沢が家に戻って来て、柾子とは一階と二階に別れて暮すことになった。柾子は離婚の立合人・田部に相談しに行くが、酔ったあげく彼に体を許した。数日後、柾子は矢沢に強引に迫られ、殺されそうな気がしたのでつい抱かれた、と言って広部のアパートに転がり込んだ。二人は一緒に暮すことにする。広部の机は翻訳をする柾子に占領され、抽出しに放り込んであった弥須子の形見の櫛も、今では柾子が自分の物のように使っていた。数日後、広部は矢沢に呼び出され、捺印した離婚届を渡された。その夜の明け方近く、柾子は、矢沢が家に帰って来たのはあけみを殺害したからだ、と広部に言った。その事を広部は信用しなかったが―。

草刈正雄/ジャネット八田/神代辰巳/桃井かおり
「櫛の火」08.jpg 神代辰巳(くましろ たつみ、1927-1995/67歳没)監督が「青春の蹉跌」('74年/東宝)の翌年の1975年に撮った作品。原作は、芥川賞作家でありドイツ文学者でもあった古井由吉(ふるい よしきち、1937- 2020/82歳没)の長編小説『櫛の火』で、1974年12月河出書房新社刊ですから、単行本が出て比較的すぐに映画化したことになります。

 原作は、心理小説であると同時に観念小説であって、登場人物たちの人物像と言うか輪郭がはっきりしない(登場人物はすべて実存的存在であり、定位されないともとれる)―これはある意味、登場人物がすべて狂っているのではないかと錯覚させるような印象もあり、個人的には今一つ入り込めなかった印象がありました(評価不能とした)。

「櫛の火」03.jpg 概略的には(或いは外形的には)恋人を亡くした男が別の女性との関係を築き上げていく物語で、原作では、冒頭、主人公は恋人・弥須子との一年ぶりの再会も束の間、その翌日に彼女は入院し、あっという間(10日後)に広部の目の前で息を引き取ってしまうため、弥須子は最初から、主人公の広部による過去の出来事の回想の中で登場します。

 映画では亡くなる前の弥須子がリアルタイムで描かれる一方、弥須子が亡くなった後もカットバックで登場します。ただ、そうしたこともあって時制が把握しにくかったです(死者は生者の中に在るという主題も込められているとは思うが)。分かりくなった背景には、併映の蔵原惟繕監督、萩原健一、岸惠子主演の「雨のアムステルダム」('75年/東宝)の都合で30分もカットせざるをえなかったという不幸な事情があったためのようです(〈草刈正雄&ジャネット八田〉では〈ショーケン&岸惠子〉に抗えなかったか)。

 予め計算してカットバックを入れているのに、後から無理やりフィルムカットすると、こうした観る側を混乱させるような作品になってしまうのも無理ないように思います。よって「文芸ポルノ」だとかいう誹(そし)りもも出ててきてしまうわけで、難解な原作を選んだのが裏目に出てしまった? 元の2時間バージョンはもう残ってないのかなあ。

 ただ、ラストだけ、原作の解題になっていました。原作では、柾子が「やっぱり殺しているわ」と言うところで終わり、誰が誰を殺したのか、それは事実なのか彼女の妄言なのか分かりませんが、映画ではオチがあります。結局、最も狂っていたのは○○か。言われてみればそうかもしれないけれど、映画でも伏線が見えないないし(柾子(ジャネット八田)の夫(河原崎長一郎)の愛人役として出演した高橋洋子なんてほとんど出番が無かった。伏線もカットされたのか)、原作ももともと人物の輪郭が見えないため、この結末はちょっと唐突感があるように思いました。

草刈正雄/ジャネット八田
「櫛の火」04.jpg 草刈正雄は資生堂の男性化粧品「MG5」などのCMのモデルから俳優にになって2年目、この当時はセリフも不自然だし、まったくの大根役者で、しかも痩せ過ぎ。ただ、ジャネット八田が美しくて、脱ぎ捨てたショーツでで綾取りをしたりする場面がいいとかいう(マニアック?な)見方もあるとか。部分的にはいい箇所があったかもしれませんが、全体的には(気の毒な事情もあったが)失敗作だと思います。

「櫛の火」●制作年:1975年●監督:神代辰巳●製作:田中収●脚本:大野晴子/神代辰巳●撮影:姫田真佐久●音楽:多賀英典/林哲司●時間:88分●出演:草刈正雄/桃井かおり/ジャネット八田/高橋洋子/河原崎長一郎/名古屋章/岸田森/武士真大/小川順子/大場健二/歌川千恵/芹明香●公開:1975/04●配給:東宝●最初に観た場所:神保町シアター(22-08-30)(評価:★★☆)

【1981年文庫化[新潮文庫]】

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