【3198】 ○ 神代 辰巳 (原作:石川達三/脚本:長谷川和彦) 「青春の蹉跌 (1974/06 東宝) ★★★☆ (○ 石川 達三 『青春の蹉跌 (1968/12 新潮社) ★★★★)

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時代のしらけムードを体現したショーケンの演技。原作を70年代バージョンに改変した長谷川和彦。
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青春の蹉跌 <東宝 DVD 名作セレクション>」萩原健一/桃井かおり
青春の蹉跌 (新潮文庫)
『青春の蹉跌』2.jpg A大学法学部に通う江藤賢一郎(萩原健一)は、学生運動をキッパリと止め、アメリカン・フットボールの選手として活躍する一方、伯父・田中栄介(高橋昌也)の援助をうけてはいるが、大橋登美子(桃井かおり)の家庭教師をしながら小遣い銭を作っていた。やがて、賢一郎はフ「青春の蹉跌」図6.jpgットボール部を退部、司法試験に専念した。登美子が短大に合格、合格祝いにと賢一郎をスキーに誘った。ゲレンデに着いた二人、まるで滑れない賢一郎を背負い滑っていく登美子。その夜、燃え上がるいろりの炎に映えて、不器用で性急な二人の抱擁が続いた。賢一郎は母の悦子(荒木道子)と共に成城の伯父の家に招待された。晩餐の席、娘・康子(檀ふみ)と久しぶりに話をする賢一郎。第一次司法試験にパスした賢一郎が登美子とともに歩行者天国を散歩中、数人のヒッピーにからまれている康子を救出したことから、二人は急速に接近していく。第二次試験も難なくパスした賢一郎は、登美子との約束を無視して、康子とデートをした。やがて第三次試験も合格。合格す「青春の蹉跌」図5.jpgること、それは社会的地位を固めることであり、康子との結婚は野心の完成であった。相変らず登美子との情事が続いたある日、賢一郎は康子との婚約を告げたが、登美子は驚かず、逆に妊娠5ヵ月だと知らせた。あせる賢一郎は、登美子を産婦人科に連れて行き堕胎させようとするが医者に断わられる。不利な状況から脱出しようとする賢一郎だが、解決する術もなく二人で思い出のスキー場へやって来た。雪の中、懸命に燃えようとする二人の虚しい行為。一緒に心中しよう、と登美子が言う。雪の上を滑りながら賢一郎は登美子の首を締めていた。登美子の屍体を埋めた斜面に雨が降る。賢一郎と康子の内祝言の宴席。賢一郎は拍手の中、伯父や康子を大事にしていく、と自分の豊富を語る。賢一郎は再びフットボールの試合に出て駈け廻る。その時、二人の刑事がグラウンドに近づいた。賢一郎は何処へも逃げることができず、ボールを追って走る。タックルを受けて地面に叩きつけられ、その上に何人ものタックラーが重なる。ボールを抱えたまま、動かない賢一郎―。

「青春の蹉跌」図1.jpg 神代辰巳(1927-1995/67歳没)監督(「赫い髪の女」('79年/日活))の1974年公開作で、脚本は長谷川和彦(1946年生まれ)。原作は、石川達三の中編小説で、1968年4月から9月まで「毎日新聞」に連載され、同年に新潮社から単行本化されると、ベストセラーとなっています。それを、その6年後、当代人気の萩原健一(1950-2019/68歳没)を主演に据え、相手役に桃井かおり(1951年生まれ)を配して映画化したのがこの作品です(後に桃井かおりは、「映画『青春の蹉跌』で萩原さんと会って、尊敬してた、なんか一緒にくっついていたいっていう気持ちがあって」と語っており、その後多くの作品で萩原健一と共演する)。

 原作は、セオドア・ドライサーの『アメリカの悲劇』(ジョージ・スティーヴンス監督、モンゴメリー・クリフト、エリザベス・テイラー主演の「陽のあたる場所」('51年/米)など何度か映画化されている)に似ていると言われますが、1966年に佐賀県の天山で起きた「妊娠した女子大学生が、交際中の大学生に天山登山に誘い出され、殺される」という事件をモデルとしたとされています。ただし、映画化される6年前に原作が発表されていますが、主人公の印象は原作と映画でやや異なるように思いました。

「青春の蹉跌」図00.jpg 原作では、主人公は貧しい法学部生で、司法試験に合格することを階級投資闘争であると捉えていますが、映画では、70年安保終焉の虚無感を反映してか、萩原健一演じる主人公は学生運動もやめ、実際あまり政治的なことを考えている風でもないです。また、時代の"一億総中流化"(1967年に日本の推計人口が1億人に達し、70年代にこの言葉が流行った)を反映してか、金持ちの息子ではないけれど、そう貧しいと言うほどでもないといった境遇のようです。

 原作では、主人公は、自分が司法試験に合格したら自分にすり寄ってきた康子を軽蔑し、憎んでさえいますが、ただし、彼女の結婚するという意志は変わらず、そのために登美子を殺害します。映画では、主人公は、檀ふみ演じる登美子のことを良くも悪くも思っていない感じで、ただし、彼女と結婚するために妊娠した登美子を殺害するのは原作と同じです。

「青春の蹉跌」図9.jpg ただ、原作の主人公は、自分がエゴイストであるということを冷静に分析していて、自身の信念としてのエゴイズムを貫くために登美子を殺害するようなところがあります。一方、映画での主人公は、桃井かおり演じる登美子が仕掛けてきた何となく無理心中っぽい行為に反応するような形で、そこから逃れるため咄嗟に登美子を殺害したようにも見えます。総じて意志的・計画的である原作の主人公に比べ、映画でショーケンが演じる主人公はどこか刹那的で、虚無感が漂います。原作をねじ曲げたというよりも、60年代と70年代の時代のムードの違いでしょうか。ショーケンの演技は、時代のしらけムードを体現したものだったとも言えるかもしれません。。

 映画のラストで、アメフト選手として復帰した主人公のところへ下川辰平演じる刑事がやってきます。主人公がアメフト選手であるというのは、この映画の脚本を務めた長谷川和彦が東大のアメフト部出身であるためと思われ、原作には無い設定です(試合シーンは、明大と東大のアメフト部員を動員して、長谷川和彦が自分でメガホンを取ったという)。

 原作では、主人公は警察に逮捕されて厳しく尋問されますが、そうしたシーンがショーケンには似合わないと思ったのか、試合中に事故死するような終わり方にしたのかもしれません。ただし、原作には思いもかけない重大な事実判明がラストにあるのですが、これが映画では端折られたことになります。それが少し引っ掛かりました。

 銀座の歩行者天国って1970年8月2日にスタートしたのかあ(当然これも原作にはない)。長谷川和彦は、意図的に原作を70年代バージョンに改変したのだと思います。

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檀ふみ/桃井かおり/神代辰巳/萩原健一
「青春の蹉跌」図3.jpg「青春の蹉跌」図2.jpg「青春の蹉跌」●制作年:1974年●監督:神代辰巳●製作:田中収●脚本:長谷川和彦●撮影:姫田真佐久●音楽:井上堯之●時間:85分●出演:萩原健一/桃井かおり/檀ふみ/河原崎建三/赤座美代子/荒木道子/高橋昌也/上月左知子/森本レオ/泉晶子/くま由真/中島葵/渥美国泰/中島久之/北浦昭義/芹明香/下川辰平/山口哲也/加藤和夫/久米明/歌川千恵/堀川直義/守田比呂也●公開:1974/06●配給:東宝●最初に観た場所:神保町シアター(22-08-30)(評価:★★★☆)

【1971年文庫化[新潮文庫]】

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