【3197】 ○ 野村 孝 (原作:松本清張) 「松本清張の葦の浮船 (1984/02 テレビ朝日) ★★★★

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原作のアンチカタルシスを活かしながらも適度に改変。二人の女性の生き方の対比も。

「松本清張の葦の浮船」001.jpg「松本清張の葦の浮船」002.jpg 『葦の浮船』単行本.jpg
「松本清張の葦の浮船」['84年/テレ朝・土曜ワイド劇場]坂口良子/渡瀬恒彦 『葦の浮船』['67年/講談社]
「葦の浮船」41.jpg 大学の歴史学助教授・折戸二郎(津川雅彦)と小関久雄(渡瀬恒彦)は、中学校から大学院、勤務先までずっと一緒の友人同士。利己的でプレイボーイの折戸は、いつも女性関係の後始末を、人のいい小関に押し付けていた。折戸と人妻・笠原幸子(山口果林)との浮気「松本清張の葦の浮船」0061.jpg旅行の辻褄合わせにも、小関を利用していた。今回も小関は二人が密会している間、飛騨高山で仕事をしていて記者の近村達子(坂口良子)と出逢うが、それを知った折戸は早くも達子に目を付け、小関が同席すると見せかけ達子を食事に誘う。だが、達子は初めて会った時から小関に惹かれていて、折戸には靡かない。そこへ幸子が姿を現し、達子は店を後にする。折戸は浜田学部長(北村和夫)から次期教授に推薦すると知らされ、女性問題を起こさないように言い含められた。折戸は幸子と小関を使って別れようとするが、幸子は折戸の口から直接切り出されるまでは了承しない。仕方なく折戸は幸子と待合旅館で会うが、その時、たまたま隣室の不倫カップルの殺人事件を目撃してしまう。人妻が若い不倫相手の男に刺されたのだった。刑事(加藤武)に名を問われた折戸は、咄嗟に小関の名前を騙り、幸子も達子の名を騙って、折戸に迷惑がかからないようにした。幸子は、男と別れたい人妻と、彼女と別れたくない男の組み合わせが自分たちと似ていることで、彼らに特別な感情を抱いていた。どうしても幸子と別れたい折戸は、その現場に小関だけでなく妻(萩尾みどり)も来させ、ついに幸子は折戸と別れることを決意する。そして、一時は前向きに人生を考えるが、その後自殺する。遺体の安置所で、幸子の夫・笠原(高津住男)がナイフをで折戸に斬りかかる。小関は笠原に、折戸を殺すならば、二人の不倫関係に加担した自分も殺されるべきだと迫り、笠原は折戸を傷つけただけで殺すことは出来なかった。幸子の自殺、自身の傷害事件と続き、折戸のスキャンダルが明るみになる。マスコミは、幸子の死は折戸に狂った挙句の自殺だとし、折戸は笠原にも傷を負わせられ、彼らに迷惑をかけられた被害者であるとの報道をする。一時は大学を辞めることを覚悟した折戸だが、見舞いに来た浜田は、折戸を教授にすることが決まったと知らせる。大学としてもマスコミの報道を利用し、被害者的な扱いを利用し、名誉を損なわない対応を考えたのだった。一方の小関は島根へ行くことになっが、相変わらず小関は、不満も言わずに決定に従う―。

「松本清張の葦の浮船」tj1.jpg 原作は松本清張の「婦人倶楽部」(1966(昭和41)年1月号-1967(昭和42)年4月号に連載された長編小説(1967年に講談社から単行本刊行)。1971年に一度ドラマ化されていて、1984年にテレ朝「土曜ワイド劇場」枠で放映された本作は2度目のドラマ化作品(視聴率24.1%)。企画は、松本清張原作の映画化作品を多く手掛けた野村芳太郎で、監督は野村孝、脚本は橋本綾です。原作の設定は3月半ば以降ですが、ドラマは真冬の設定であり、雪景色の北陸(金沢・東尋坊)・奥飛騨でロケが行われています。

 主人公の小関に渡瀬恒彦(40)、プレーボーイの折戸に津川雅彦(44)、そのW不倫の相手・笠原幸子に山口果林(37)、小関が旅先で出会う若い女性・近村達子に坂口良子(29)という配役陣で、演技陣は実力的に安定しており、北陸や奥飛騨の雪景色と相俟って、情感のあるドラマに仕上がっていたように思います。

「松本清張の葦の浮船」達子.jpg 原作との大きな違いは、坂口良子が演じる近村達子がかなり前面に出ていて、実質、坂口良子が渡瀬恒彦とW主演のようになっており(クレジット的にもそうなっている)、この達子が渡瀬恒彦演じる折戸に一方的に好感を抱き、折戸の追っかけみたいな感じになっている点です。原作では風采が上がらず女っ気の無い男となっている小関を、どう見てもナイスガイの渡瀬恒彦が演じているので、こうなるのもありかなと。

「松本清張の葦の浮船」sin.jpg 細かいところでは、最初の方の、浮気旅行の折戸と奥飛騨に調査に行った小関が同じ新幹線で帰京するというのはドラマのオリジナルで、小関に"追っかけ"の達子がくっ付いてきたので、新幹線で達子は折戸と一緒にいた幸子と出会うことになりますが(達子は、折戸が幸子と不倫関係にあり旅行の口実に小関を利用していることを察知し、達子も開き直ってか折戸家の平和のためにいつもこうしていると言う)、幸子は小関を折戸と同様にいいように利用している達子のことを嫌悪するのかと思いきや、最終的には達子と幸子の間に何やら同志的な共感が生まれるのは、完全にドラマのオリジナルです(でも悪くなかった)。

「松本清張の葦の浮船」0091.jpg さらに、折戸と幸子が待合旅館でたまたま隣室の不倫カップルの殺人に遭遇するのは原作通りですが、直に殺人を目撃するのはドラマのオリジナル、加藤武演じる刑事に名を問われた折戸が咄嗟に小関の名前を言い、それを見た幸子も達子の名を言うのもドラマのオリジナルで、このあたりは、原作に薄いサスペンス色を、ドラマでは入れようとしたのでしょうか。

「松本清張の葦の浮船」w1.jpg 原作は、小関がいいように折戸に利用されて、結局、折戸は教授になって小関は地方に飛ばされるという終わり方で、それ自体はドラマも変わりませんが、ドラマでは渡瀬恒彦演じる小関が、津川雅彦演じる折戸を目覚めさせようと(というか、その自分勝手な講釈にムカついて)1発殴ったり、折戸が実は小関の優秀さにコンプレックスを抱いていたと吐露したりする場面があり、このあたりは原作があまりにアンチカタルシスなため、観る側に多少ともカタルシスを与えようとしたのではないでしょうか。折戸が幸子の夫に刺されるのも、その一環ではないかと思います(原作では止めに入った小関が誤って刺されてしまう)。

「松本清張の葦の浮船」果林1.jpg「葦の浮船」山口果林21.jpg 幸子役の山口果林(1947年生まれ)は桐朋学園大学短期大学部時代に安部公房(1924-1993)に見い出され、安倍公房スタジオの看板女優として活躍しましたが、実生活で安倍公房の愛人であったこともあって、役が似合ってしまう(笑)。まあ、安倍公房ご推薦の芸能界デビューだったとは言え、NHKの連続テレビ小説「繭子ひとり」('70年)の主役の座はオーディションで勝ち取っているから、もともと演技の素養はあったのでしょう。

「松本清張の葦の浮船」子1.jpg 坂口良子(1955-2013/57歳没)は1970年代はアイドル的扱いをされていて(市川崑監督の「犬神家の一族」('76年)に石坂浩二演じる金田一耕助に茶目っ気たっぷりに絡む娘役で出ていた)、このドラマの時もまだ20代でしたが、同じテレ朝「土曜ワイド劇場」枠の「松本清張の小さな旅館」('81年)(視聴率24.1%)でセミヌードを見せ、日テレ「火曜サスペンス劇場」枠の「松本清張の坂道の家」('83年)(視聴率21.8%)では長門裕之と激しい濡れ場を演じています(この頃の2時間ドラマって視聴率が高い)。そして、本ドラマでも最後、渡瀬恒彦演じる小関と寝ることになりますが、まあ、これだけ一緒にいれば自然かなと(原作は小関は最後まで女っ気無し)。
「松本清張の葦の浮船」坂口2.jpg
 また、その後、小関の地方赴任のための荷造りを手伝ったりしているシーンもありますが、最後は小関に付いていくのではなく、一人で生きていくような終わり方になっていたように思います(最初の頃はともかく小関に付いて行けばいいと思ったが、結局「誰かの船に乗せてもらう」のではなく「みんな一つ一つの船なのだ」と悟ったという、殆ど原作以上にタイトル解説している(笑)達子の独白がラストにある)。

「松本清張の葦の浮船」2人1.jpg アンチカタルシスの原作を、真逆のハッピーエンドにしてしまうのではなく、適度にカタルシスがあるものに改変してほろ苦さは残しているのがいいと思い「松本清張の葦の浮船」14 04.jpgました。また、小関と折戸という二人の男性を対比させるだけでなく、達子と幸子という二人の女性の生き方を対比させ(同調もさせ)ている点が上手いと思いました(幸子の最後の方も改変するのかと思ったけれど、2時間ドラマの定番的結末でありながらも、一応ここはまた原作に回帰した)。


「葦の浮船」er2.jpg「松本清張の葦の浮船」1984.jpg「松本清張の葦の浮船」●企画: 野村芳太郎●監督:野村孝●制作:東映/霧プロダクション●脚本:橋本綾●音楽:坂田晃一●原作:松本清張●出演:渡瀬恒彦/坂口良子/津川雅彦/山口果林/萩尾みどり/加藤武/北村和夫/一谷伸江/高津住男/西沢利明●放送日:1984/02/04●放送局:テレビ朝日(評価:★★★★)
 
 
 

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