【3196】 ○ 松本 清張 『葦の浮船 (1967/05 講談社) ★★★★

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大学の教授任用人事がモチーフ。アンチカタルシスの作品。小関は「積極的従属」タイプか。

『葦の浮船』単行本.jpg『葦の浮船』ロマン.jpg『葦の浮船』角川文庫1.jpg『葦の浮船』角川文庫2.jpg

『葦の浮船 (角川文庫)』['74年]
『葦の浮船 (ロマン・ブックス)』['69年]
『葦の浮船』['67年/講談社]
葦の浮船 新装版 (角川文庫)』['21年]
『葦の浮船』角川文庫新装.jpg 東京のR大学で助教授を務める小関久雄は、金沢市での学会後、同僚の折戸二郎に不倫のアリバイを頼まれたのち、荘園に関する古文書を見る目的で飛騨高山に向かう。折戸が山中温泉で自分を尊敬する笠原幸子の陥落に成功し、東尋坊に赴く一方、小関は高山の古寺で遺品を見に来た近村達子と知り合う。帰りがけ名古屋に向かう列車内で達子と再会した小関は、若い女性との同席に窮屈を感じて席を外してしまう。東京に戻った折戸は、幸子との密会を続けたものの、火の点いた幸子を重荷に感じるようになり、主任教授から教授昇進を示唆される中、幸子との縁切りを考え始める。小関は折戸の妻の睦子から見合いを勧められるが、達子が偶然にも見合い相手の友人として付いてきたことを知ると、何となくその見合いを断る気になり、また達子に目を付けて近づこうとする折戸に危うさを感じる。折戸は達子と一緒にいた連れ込み宿で遭遇した殺人事件で、警察の職務質問に巻き込まれる。幸子との関係の露見を恐れた折戸は、小関を使って幸子に別れを言い渡す一方、強引に達子を高山へ誘い攻略しようと企む―。

 松本清張の「婦人倶楽部」(1966(昭和41)年1月号-1967(昭和42)年4月号に連載された長編小説(1967年5月に講談社から単行本刊行)。

 折戸は主任教授の覚え目出度く、それなりに実力もあって、しかも万事に抜け目なく、結局、何やかやあっても教授に就任し、また、女性問題のトラブルがあってもその地位から降りることはありません。まあ、昔の大学の教授任用なんてこんなものだったかも。いや、今だって、こうしたことは、露骨ではないにしろ、土壌的・潜在的にはあるのではないかと思います。

 利己的な折戸に対し、学問上の負い目から常に彼に屈服してしまう小関。折戸の方は、教授になった勢いで、強引に達子を高山へ誘い攻略しようとする最中、別れるつもりでいた幸子が自殺未遂を図り、夫が高山まで自分に会いに来るということで追い詰められます。そのパニック的状況は可哀そうと言うより滑稽であり、大いにいい気味ですが、それでも小関は折戸のその場凌ぎの工作に協力してしまうのだなあ。

 そして、結局とばっちりを受けたのは小関であり、事件の全容が警察によって明らかになると、「小関さん、あなたは立派な方ですね」と言われていますが、ちょっと人が良すぎるのではないかと(地方に飛ばされても自らの運命として受け容れている感じ)。

 でも、「積極的従属」と言うか、こうした小関みたいな人って実際いるかもしれないなあ。本人にも一応は心理的葛藤があったりしてはいますが、もう、既存の従属関係から抜け出せないのでしょう。そうした心理描写も丁寧で、個人的には、リアリティがあるように思いました。

 それと、松本清張作品に少なからずあるパターンですが、勧善懲悪の逆を行く結末で(コレやると一般に読者の受けは悪くなるのだが)、アンチカタルシスにすることで、より問題の根深さを印象づける効果のある作品となっていたように思います。

 過去の2度ドラマ化されていて、何れもテレビ朝日系です。

 •1971年「葦の浮舟(NETテレビ[現テレビ朝日])」佐久間良子・北村和夫・中谷一郎 
 •1984年「松本清張の葦の浮船(テレビ朝日)」渡瀬恒彦・坂口良子・津川雅彦・山口果林

「松本清張の葦の浮船」006.jpg ドラマでは、こうした「悪い奴が勝ってしまい、いい人が報われない」みたいな話をどう扱うのでしょうか。1984年の「土曜ワイド劇場」枠にて放映された渡瀬恒彦・津川雅彦版について、次のエントリーで取り上げようと思います。

【3197】 「松本清張の葦の浮船」 (1984/02 テレビ朝日) ★★★★ (主演:渡瀬恒彦)

【1969年新書化[講談社ロマンブックス]/1974年文庫化・2012年新装版[角川文庫]】

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