【3195】 ○ 前川 つかさ 『大東京ビンボー生活マニュアル (全5巻)』 (1987/02 講談社・ワイドKCモーニング) ★★★★

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貧乏なりに生活を楽しむ主人公。「ACTミニ・シアター」が懐かしかった。

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大東京ビンボー生活マニュアル(1) (モーニングコミックス) Kindle版』『大東京ビンボー生活マニュアル(2) (モーニングコミックス) Kindle版

『大東京ビンボー生活マニュアル』4.gif 東京・杉並区のとある住宅街に建つボロアパート「平和荘」に住む青年「コースケ」と、そのまわりの人達の交流を描いた作品。時はバブル時代の全盛期、そんな時代に、貧乏なりに生活を楽しむコースケとその周囲の、季節感を織り込んだ日常スケッチがメインとなります。

 初出は「別冊モーニングパーティ増刊'86(昭和61)年5月10日号で、『大東京ビンボー生活カタログ』のタイトルで読切が2話掲載された後、「週刊モーニング」本誌にて連載となり、1話完結式で'89年まで連載、その間、'87年2月に単行本の第1巻が刊行されています(最終的に単行本は全5巻に)。

 これ、'80年代当時の"リアルタイム"での話ですが、当時の日本は所謂バブル景気だったわけであって、その中で主人公のコースケは、経済的事情はあるにしても、敢えて「ビンボー生活」を送っているように思います。従って、映画「ALWAYS 三丁目の夕日」('05年/東宝)の原作である西岸良平の漫画『三丁目の夕日』のようなノスタルジーが感じられるものの、昭和30年代前半が舞台の『三丁目の夕日』とは30年以上、年代の開きがあることになります。

 また、タイトルに「マニュアル」とあるように、「ビンボー生活」に関するウンチク漫画のようになっていて、冒頭にも述べたように、本人がそうした生活を楽しんでいることが窺えます(従って、"格差社会"云々といった流れにはならない)。第6話のタイトルが「東京で9度目の夏が来た」で、大学入学時に田舎から上京しているので、年齢は20代後半と思われますが、いわゆるフリーターであるものの怠け者というわけではなく、ことバイトにあたれば真面目に仕事をこなすといった風です。

 しっかり者の彼女がいることも、主人公が精神的に安定していることの要因であると思われます。この彼女とは、基本的にはつかず離れずの関係で、手をつないだり自転車の二人乗りをする以上の深い様子は描かれていません。この一定の距離感が(不自然と言う人もいるかもしれないが)、主人公にとってはそれが却っていいのかも(主人公は、作者による後日談=目撃情報によれば、その後、第4巻に出てくる天海和尚の寺で寺男になったらしい)。

『大東京ビンボー生活マニュアル shibuya.jpgシネマライズ.bmp 「ビンボー生活」ばかり描かれているかというと、主人公はあまり呑まないのですが彼女が割と呑み助なので、吾妻橋のアサヒビヤホールに行ったり(ここは1988年に取り壊された)、また彼女は芸術家志望でもあるので、彼女にくっついてバブル感溢れる渋谷の街へストリートウォッチングに行ったり、一緒にロードショー館で映画を観たりしています(彼女が買った前売り券でだが)。「東急名画座」ってロードショー館だったなあ。スペイン坂上の「ライズビル」にも行っていますが、この中にあった映画館「シネマライズ」は2016年に閉館しています。

ACTミニシアター9.jpg こうして見ると映画ネタが結構ありますが、個人的に懐かしかったのは、第121話「枕付きオールナイト劇場」でかつて早稲田通り沿いにあった「ACTミニ・シアター」(をモデルとした)と思われる小劇場が描かれていることで、確かに木戸銭を払うと下足札とミルキー飴をくれたし("ご縁がありますように"という意味での5円玉もくれた)、オールナイトの時には座布団枕を貸してくれて、休憩タイムにお茶とお菓子が出たなあと思い出して感動してしまい(笑)、これって、なかなか貴重な"記録"ではないかと思いました。そこで主人公が観る各映画の1シーンも作中に描かれていて(作者の思い入れの深さだろうなあ)、こうしたきめ細かい作画もこの漫画の魅力の1つです。

『大東京ビンボー生活マニュアル』文庫.jpg 単行本が入手しにくい状況ですが全5巻とも文庫化されており、そちらの方は比較的手に入り易いかもしれません(Kindle版もある)。自分も今回、文庫で再読しましたが、第121話などは単行本か拡大画面で読みたいです。

 【1995年文庫化[講談社漫画文庫]】

 

 

第121話「枕付きオールナイト劇場」ACTミニ・シアターと思われる劇場が描かれている(「幕末太陽傳」「めし」「人情紙風船」「隣の八重ちゃん」のオールナイト上映。各映画の1シーンが作中に描かれている)。

 「幕末太陽傳」(川島雄三)... 佐平次(フランキー堺)と高杉晋作(石原裕次郎)の風呂場での会話シーン
 「めし」(成瀬巳喜男)... 初之輔(上原謙)と三千(原節子)の倦怠期にある夫婦の夕餉シーン
 「人情紙風船」(山中貞雄)... ヤクザの子分・猪助(加東大介)が髪結いの新三(中村翫右衛門)を脅すシーン
 「隣の八重ちゃん」(島津保次郎)... 八重子(逢初夢子)と隣の家の東大生・新海恵太郎(大日方伝)
ACTミニシアター 漫画.jpg
       
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This page contains a single entry by wada published on 2022年9月 4日 00:33.

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