【3200】 ○ 藤田 敏八 (原作:中上健次) 「十八歳、海へ (1979/08 にっかつ) ★★★☆ (○ 中上 健次 『十八歳、海へ (1977/05 集英社) ★★★★)

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夏、海、鎌倉、心中ゲーム? と70年代の虚無的ムード漂う作品。

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十八歳、海へ (集英社文庫)
『十八歳、海へ』 文庫.jpg 実家から予備校の夏期講習を受けに東京の姉の自宅アパートに滞在中の高校生・有島佳(森下愛子)は、二浪中の予備校生・桑田敦夫(永島敏行)に誘われて鎌倉の夜の海に訪れる。そして砂浜で、佳たち「十八歳、海へ」01.jpgと同じ予備校の浪人生・森本英介(小林薫)が暴走族のリーダーと海に入っていく度胸試しをするのを偶然目撃する。数時間後、夜明けの海で2人きりになった佳と敦夫は、遊び半分で英介たちの真似をして海に入ると、彼女は海の息苦しさと気持ち良さを同時に体験し、不思議な感覚を覚える。しかし、たまたま通りかかった裕福な老人(小沢栄太郎)に心中と勘違いされて助けられた後、「もう心中しないように」と諭されて小切手を渡される。英介がホテルでバイトをしていると聞いた佳は心中未遂遊びを思いつき、彼のホテルに敦夫と泊まって少しずつ睡眠薬を飲み始める。その直前に佳と会っていた英介は、異変を感じて2人の部屋に入り、昏睡状態の2人と老人の連絡先のメモを見つけると、急いで救急車を呼ぶ。病室で目を覚ました佳は、連絡を受けて駆けつけた姉・悠(島村佳江)から「英介が警察沙汰にならないようメモを持ち帰った」と伝えられ、「十八歳、海へ」02.jpg余計なお節介だと不機嫌になる。退院した佳は敦夫と同棲を始め、そのまま姉に会おうとせず、心配した姉は英介に頼んで妹の様子を伺ってもらうが、妹から構わないよう言われてしまう。数日後、佳と敦夫は海水浴客で賑わう鎌倉の海に再び訪れ、敦夫はもう一度心中未遂遊びで老人から金を貰うことに誘うが、佳は「あの人はもう信じてくれない」と断る。数日後、夏期講習も終わりに近づき、会えるのも僅かとなった佳と敦夫は、英介に再びホテルに泊めて貰えるようにお願いする。その直後、数年前から家族に居場所を知らせていなかった英介のもとに、彼を偶然見かけた父(鈴木瑞穂)が現れる。しかし、父は英介の今の生活を否定して今すぐホテルを辞めるよう強要し、箱根のホテルに英介の名前で部屋を予約。後から来るよう言われる。ホテルを辞めさせられた英介は佳に会い、「心中未遂遊びをしたいが騙す相手がいない」との彼女の言葉に、父を騙すことを思いつく。英介は父が自身のために予約した部屋を佳と敦夫に貸してその場を後にし、2人はホテルの庭にある太い木で心中未遂遊びをするため首を吊ろうとする―。

 藤田敏八監督の「帰らざる日々」('78年/日活)の翌年1979年作で(同年9月に日活→にっかつに社名変更)、夏、海、鎌倉、心中ゲーム(狂言心中による小遣い稼ぎ?) と70年代の虚無的ムード漂う作品。そう言えば、同じ藤田敏八監督の「八月の濡れた砂」('71年/ダイニチ映配、この作品の後、日活は「ロマンポルノ」路線に転じた)も夏の湘南を舞台にしていたなあと。若者の激情が迸る印象のあった「八月の濡れた砂」に比べると、こちらはもう70年代の終わりの方で、やや疲れ切ったムードでしょうか(一方で、迫りくるバブルの気配も感じられる)。

『十八歳、海へ』t1.jpg『十八歳、海へ』t2.jpg 原作は、中上健次(1946‐1992/享年46)の23歳までの60年代作品を収めた初期短編集『十八歳、海へ』(1977年 集英社刊)の中の1編「隆男と美津子」で、この短篇集は「十八歳」「JAZZ」「隆男と美津子」「愛のような」「不満足」「眠りの日々」「海へ」の7編を収めますが、「十八歳」は青春小説としてなかなか良かったです(これ、作者が18歳の時に書き始めたらしい処女作。「俺十八歳」として1966年、作者20歳の時に「文藝首都」に掲載される)。「JAZZ」「海へ」などは散文詩的な作品で(文庫解説の津島佑子氏は「海へ」を絶賛しているが、「JAZZ」の方が好きという人がいてもおかしくない)、ユビというペッティング・ペットが出てくる「愛のような」は幻想小説、シュールレアリスム小説っぽく、川端康成の「片腕」や村上春樹「緑色の獣」を想起させました。それに対して「隆男と美津子」は、津島佑子氏によれば上手に書かれた「現代小説」とのこと。確かに、この中で映画化するとすればやはりこれなのかなという感じです(「現代」の若者の心中を描いた小説では、笹沢左保が1962年に発表した「六本木心中」など先行作品がある)。

「十八歳、海へ」04.jpg 原作では、主人公の「俺」は心中ゲームを繰り返す「隆男と美津子」に対して傍観者的な位置づけで、物語の語り手として一歩引いた状態であるのに対し、映画では、隆男に該当する永島敏行が演じる「敦夫」が一応の主人公ですが、「俺」に該当する小林薫が演じる「英介」がかなり前面に出てきて、敦夫や森下愛子が演じる「佳」に絡むだけでなく、佳の姉の、島村佳江が演じる「悠」にまで絡んできます(二人でいきなりロタ島へいくところがバブルの先駆けっぽい)。

森下愛子/永島敏行/小林薫/島村佳江

「十八歳、海へ」08.jpg 敦夫と佳のうち、心中ゲームに嵌っているのはどちらかというと佳の方で、やや病的な印象も。それに対し、敦夫の方は、半分は小遣い稼ぎが目的で、半分は佳に振り回されてただそれに従っているだけで影が薄く、英介も含めた同じ予備校に通う3人(英介は5浪くらいしているのか)の中では最も没個性的な存在になっています。その分、小林薫と島村佳江の演技力のせいもあってか、原作には全くない英介と佳の姉・悠のサイドストーリーの方がかなり前面に出ていて、二人が旅行に行ったのを自分に対する裏切りと捉えた佳が、ますます死に向かうという流れになっています。

 そうしてみると、病んではいるけれどキャラとしては一貫している佳が、この映画の主人公と言えるのではないと思います。英介と悠に対しては、姉である悠よりも、英介の方に対して裏切られたという気持ちを抱いたみたいで、結局のところ内心では、というか海で暴走族と度胸試しをするのを見た時から英介のことが実は好きだったということでしょう(ここが原作との最大の違い)。

 ただ、その英介が、最初はカッコ良かったけれども、実は金持ちの医師の息子で、父親を憎みながらも、悠の姉を強引に手に入れ、悠と敦夫の心中ゲームを父への復讐の手段にしようとするなど、実は結構エゴイストっぽい人格だとわかるにつれ、ややがっかり。ただし、小林薫はこの複雑なキャラを見事に演じ切っています。

 でも、観終わった後に虚無的なムードが残るのは、まさにこの作品の狙いなのかも。森下愛子が演じる危ういながらも一貫しているキャラが、ばらばらになりそうなこの作品を底支えしていて、やはり作品の一番の魅力だったかもしれません(彼女の演技はときどき"地"に見えるが、これも監督の演出力の賜物なのか。ヌードはオマケのようなもの)。

 それにしても1979年は、いずれも同じく中上健次の原作である、神代辰巳監督の「赫い髪の女」が2月に、柳町光男監督の「十九歳の地図」が12月に公開されていて、"中上健次イヤー"みたいな感じだったのだなあ。

「十八歳、海へ」m[.jpg

「十八歳、海へ」m1.jpg「十八歳、海へ」小沢jpg.jpg小沢栄太郎(鎌倉の海近くの大邸宅に暮らす裕福な老人。心中未遂ごっこ中の佳と敦天を助け、自宅の風呂を貸した後、二人に説教をする)

「十八歳、海へ」●制作年:1979年●監督:藤田敏八●製作:佐々木志郎/結城良煕●脚本:田村孟/渡辺千明●撮影:安藤庄平●音楽:チト河内●原作:中上健次「十八歳、海へ」より「隆男と美津子」●時間:88分●出演:永島敏行/森下愛子/小林薫/小沢栄太郎/島村佳江/下絛アトム/鈴木瑞穂/深水三章●公開:1979/08●配給:にっかつ●最初に観た場所:神保町シアター(22-09-07)(評価:★★★☆)

【1970年文庫化[集英社文庫]】

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