【3277】 ○ 森村 誠一 『会社とつきあう法―サラリーマン悪徳セミナー』 (1977/05 ゴマブックス) 《サラリーマン悪徳セミナーー悪い奴ほど出世する!』 (1965/11 池田書店・イケダ3Mブックス)》 ★★★☆

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「作家生活を通して記念碑的な第一作」。若くして冷静に人を見る眼を持っていた。

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会社とつきあう法―サラリーマン悪徳セミナー (1977年) (ゴマブックス) 』['77年]/『サラリーマン悪徳セミナー―悪い奴ほど出世する! (1965年) (イケダ3Mブックス) 』['65年]/『サラリーマン悪徳セミナー (1980年) (角川文庫)

「森村誠一 死去」.jpg 先月['23年7月]24日に90歳で亡くなった森村誠一(1933-2033)の、本人が「私の作家生活を通して記念碑的な第一作」と言っていた著作。

 著者は1933(昭和8)年、埼玉・熊谷市生まれ。熊谷商工高等学校を卒業後、伯父の紹介で東芝系の自動車部品会社にいったん入社するも、そこを辞め、青山学院大学の文学部英米文学科に入学。大学卒業時は就職不況時代であったため、希望したマスコミ業界には就職できず、妻が新大阪ホテル(現リーガロイヤルホテル)の重役の姪だったこともあり、同ホテルに就職。1年後に東京の平河町にオープンした系列都市センターホテルに転勤するも、妻のコネという庇護から逃れるため、その頃オープンしたホテルニューオータニに自力で飛び込み転職、ホテル勤務は25歳から34歳まで通算9年に及んでいます。

 1959(昭和34)年26歳で都市センターホテルに移った際に、アパートの近くの貸本屋に内外の推理小説が集められていたのをきっかけに推理小説の世界に傾倒し、エラリー・クイーンに最も強い影響を受け、また、勤務先のホテルのすぐそば(紀尾井町)に文藝春秋の新社屋ができたことから、梶山季之、阿川弘之、笹沢左保など多くの売れっ子作家が来社するのに刺激を受け、自身も小説を書きたいという気持ちが強くなったそうです。

 1965(昭和40)年32歳で、同年4月から12月まで「総務課の実務」にサラリーマン向けのエッセイを雪代敬太郎の名義で連載(ホテルから副業は禁止されていた)、11月、それを再構成した『サラリーマン悪徳セミナー』('65年/池田書店)が刊行され、それが最初の著作であり、本書の基になっています(後に『サラリーマン悪徳セミナー』のタイトルのまま文庫化された('80年/角川文庫))。

横山白虹・松本清張.jpg 著者の公式サイトによれば、これをホテルの常連客であった元現代俳句協会会長・横山白虹氏に贈呈したところ、松本清張を紹介してもらうことになり、「その際、白虹氏に伴われて、5分間という約束で清張邸に赴いた私を、清張氏は一顧だにせず、白虹氏とばかり話していた。清張氏の注意を惹こうとして、私は清張氏のある作品のホテルの描写にミスがあると言ったところ、清張氏は初めてぎらりと眼鏡越しに私の方へ目を向けて、「どこがどうちがっているのか、言ってみたまえ」と言った。私がその箇所を説明すると、清張氏は奥さんにノートとペンを持参させ、「ホテルのフロントのシステムについて話してくれ」と言った。5分の約束が2時間の取材となって、辞去するとき、清張氏は上機嫌で、私の第1作に60字の推薦文を書いてくださった」とのこと。

横山白虹/松本清張(撮影:森村誠一)著者公式サイトより

 興味深い話です。本の内容はサラリーマン社会の本質を突いているため、現代でも通用するものであり、司馬遼太郎がサンケイ新聞社の記者時代に本名の福田定一名義で書いた『名言随筆 サラリーマン―ユーモア新論語』('55年/六月社、後に『ビジネスエリートの新論語』('16年/文春新書)として新書化)を想起させられました。

『会社とつきあう法』1.jpg ゴマブックスのカバー解説は作家の高木彬光で、「鋭い作家の眼と筆であらわしたサラリーマンの哀歓図、涙あり笑いあり怨念あり、千差万別の生態が見事に描き出されている」と称賛しています。個人的印象としては、非常にロジカルに分かりやすく書かれていると思われ、この作家はもともと文章力と理論構築力があったのだなあと感じたのと、32歳くらいでこれだけ人間を識別する眼を持っていたという、その冷静な洞察力に感心させられました(30代前半の人間が書いたようには思えない)。

 ベストセラー作家として順風満帆の人生を送ったわけではなく、晩年はうつ病になったり認知症を発症したりしていましたが、自分自身に起きたそれらのことをテーマに本を出したりして、ある意味最後まで「作家」だった人かもしれません。

【1980年文庫化[角川文庫(『サラリーマン悪徳セミナー』)]】

   

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