【3345】 ◎ エリック・シュミット/ジョナサン・ローゼンバーグ/アラン・イーグル (櫻井祐子:訳) 『1兆ドルコーチ―シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え』 (2019/11 ダイヤモンド社) ★★★★☆

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○経営思想家トップ50 ランクイン(エリック・シュミット)

"GAFA"の経営者らが師と仰いだ伝説の人物のコーチングとはどのようなものかを紹介。

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1兆ドルコーチ シリコンバレーのレジェンド ビル・キャンベルの成功の教え』['19年] エリック・シュミット氏(右)とジョナサン・ローゼンバーグ氏

 スティーブ・ジョブズ、ジェフ・ベゾズ、ラリー・ペイジといった"GAFA"と呼ばれる企業の創業者らがこぞってコーチとして仰ぎ、シリコンバレーのレジェンドと言われながら、2016年に亡くなったビル・キャンベルの、彼の教えがどのようなものであったかを、『How Google Works―私たちの働き方とマネジメント』('14年/日本経済新聞出版社)の著者でもある元グーグルの経営幹部らが紹介した本です。

 ビル・キャンベルという人は、アメフトのコーチ出身でありながら、優秀なプロ経営者であり、著名な企業のタレント揃いの人材に多大な影響を及ぼしながらも、本人は表に出ることは少なく、人を活かす黒子役に徹してきたとのことです。本書は彼のコーチを受けた3人のグーグル幹部経験者が、彼のコーチングを受けた80人のエグゼクティブにヒアリングするなどして、改めて伝説のコーチの人となりやコーチングとはどのようなものだったのかを纒めています。

 まず紹介されているビルの考え方は、「人がすべて」という原則です(第2章)。マネジャーのいちばん大事な仕事は、部下が仕事で実力を発揮し、成長し、発展できるように手を貸すことであると。また、コミュニケーションが会社の命運を握るとし、例えば月曜のスタッフミーティングが始まると、まず一人ひとりに週末何をしたかを尋ね、旅行帰りの人がいれば簡単に旅の報告をしてもらったとのこと。この目的は二つあり、一つは、チームメンバーが仕事以外の生活を持つ人間同士としてお互いを知り合えるようにすること、二つめは、全員が特定の職務の責任者としてだけでなく、一人の人間として楽しんでミーティングに参加できるようにすることにあったとのことです。

 また、ビルにとって「信頼」は最優先されるべき価値観であり(第3章)、信頼を確立することは、最近の言葉で言う、チームの「心理的安全性」を育むための必要条件であるとしていたとのこと。心理的安全性とは、「チームメンバーが、安心して対人リスクを取れるという共通認識を持っている状態であり、ありのままでいることに心地よさを感じられようなチーム風土である」としています。

 ビルは、コーチングを受け入れられると判断した人に対しては、じっくりと耳を傾け、偉大なことを成し遂げられるとして、誠意を尽くしたとのことです。また、コーチとの関係から最大の価値を引き出すには、教えられる側が、コーチングを受け入れる姿勢がなくてはならないともしたとのことです。彼が求めた、コーチされるのに必要な資質とは、「正直さ」「謙虚さ」「努力を厭わない姿勢」「常に学ぼうとする意欲」であったとのことです。「正直さ」が求められるのは、コーチングの関係を成功させるには、赤裸々に自分の弱さをさらけ出す必要があるためであり、「謙虚さ」が重要なのは、リーダーシップとは、会社やチームという自分より大きなものに献身することだと考えていたためとのことです。

 また、ビルは、コーチングセッションで、「フリーフォーム」で話を聞くことを心掛けていたとのことです。いつでも相手に全神経を集中させ、じっくり耳を傾けたとのことです。相手が言いそうなことを先回りして考えたりせず、とにかく耳を傾けることが重要であるとしたと。ビルが「すべきこと」を指図することは一度もなく、むしろ彼は、どんどん質問を投げかけて、本当の問題に自分自身で気づかせるようにしたとのことです。

 さらに、ビルは、全員が「チーム・ファースト」となることを求め(第4章)、チームを最適化すれば問題は解決するとして、問題そのものよりも、チームに取り組むことの重要性を説いたとのことです。そして、物事がうまくいかないときは、いつにも増して「誠意」「献身」「決断力」がリーダーに求められると。また、小さな「声かけ」が大きな効果を持つということを自身が身をもって示していたとのことです。

 最後に紹介されているビルのモットーは、「パワー・オブ・ラブ」―ビジネスに愛を持ち込めということです(第5章)。人を大切にするには、人に関心を持たねばならず、プライベートな生活について尋ね、同僚の家族を理解し、大変な時には実際に駆けつけて手を差しのべていたと。ビルの小さな贈り物はほとんどの場合、アダム・グラントがその著書『GAVE & TAKE―「与える人」こそ成功する時代』('14年/三笠書房)「5分間の親切」と呼ばれるものにあたり、親切をする側にとってあまり負担はかからないが、受ける側にとっては大きな意味のあるものを指し、人々が絆で結ばれるとき、チームはずっと強くなれることをビルは信じ、自ら実践していたとのことです。

 ビル・キャンベルへの追悼の意を込めた伝記としての要素もあるため、やや故人が絶対視されている印象もありますが、本書に序文を寄せたアダム・グラントが述べているように、ビル・キャンベルが実践した人材管理やコーチングの原則は、「最先端の研究」のはるか先を行く考え方であり、そのコーチングにおける姿勢や考え方については、いつの時代にも通用するものであると思われ、人事パーソンにとっても参考になるかと思います

 日本ではエグゼクティブ・コーチングというものがそれほど浸透してはいないという現況がありますが、述べられていることは最も"オーソドックス"と言ってよく、やや精神論的な部分もありましたが、部下マネジメントに際して応用可能だと思いました。

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