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評判の良い人の方の3つの重要ポイントを示す。これって〈コンピテンシー〉だなと。
相原 孝夫 氏
『会社人生は「評判」で決まる (日経プレミアシリーズ)』['12年]
人事コンサルタントである著者は、企業内では「評価」に基づく人事が前提となっているにもかかわらず、「評判」が"裏スタンダード"として大きな影響力を発揮していると、本書で述べています。評価が高くても、たった一つの悪評で、彼には人望がないとされて、昇進が見送られたりすることもあるとしていますが、自社内を見回して、思い当たるフシのある人は多いのではないでしょうか。
著者は本書で、評判がどのように形成され、どのような特徴を持つものなのかを解説するとともに、評判の善し悪しを分ける3つの重要ポイントを示しています。それによれば、悪い評判につながる傾向が強いと考えられるのは、1番目が、自分の力を誤認している、自信過剰な「ナルシスト」、2番目が、自分自身を省みないで、他人のことはとやかく言う「評論家」、3番目が、自分の立場を理解しておらず、勘違いの大きい「分不相応な人」であると。
評判の良い人の方はこの裏返しとなり、1番目が、自分自身をよく分かっており「他者への十分な配慮のできる人」、2番目が、口は出すが手は出さない「評論家」の逆で、労をいとわない「実行力の人」、3番目が、自分の立場や役割を正しく理解し、それに基づいた「本質的な役割の果たせる人」であるとしています。
また、著者がこれまで仕事上行ってきた好業績者に対する数多くのインタビューから、業種・職種を問わず、それらの人たちに見られる重要な共通点として、それらの人たちが20代~30代前半という時期に、脇目も振らずに目の前の仕事に没頭してきたことを挙げ、社外の人脈づくりに一生懸命であったり、資格取得に励んだりしてきた人たちではないとしています。
数年前から若年層の間で"自己ブランド化"が流行っているようですが、著者は、見えやすい特徴をアピールすることに重点が置かれる「パーソナル・ブランディング」は、結果として、現在の仕事や組織と乖離してしまうということが起こりがちであり、今後のキャリアを切り拓くための実力を身に付けようとするならば、現在の仕事に没頭し、組織とより密着度を高めていく方向へ向かわなければならないとしています。
つまり、社外へ向けての「パーソナル・ブランディング」ではなく、社内での自分自身の価値を高め、同時に評判を高めていく「パーソナル・レピュテーション・マネジメント」こそが、将来のキャリアを切り拓くことにつながるというのが本書の趣旨ですが、近年言われる「エンプロイアビリティ」とか「自律的キャリア」といった言葉には、「社外に向けて」「業界内でも通用する」といったイメージが付きまといがちであるため、こうした対比のさせ方は興味深く思いました。
全体を通して具体例を踏まえ、分かりやすく書かれており、とりわけ若いビジネスパーソンには、単なる処世術・出世術ではない示唆を与えるようになっていると思いました(処世術・出世術として読んでしまう人も、もしかしたらいるかもしれないが、そうした人には物足りないかも。元々"人望"って、そう簡単に意図して形成されるものでもないと思うけれどね)。
人事部の人から見れば、「好業績者に対するインタビューから」という箇所で、これって〈コンピテンシー〉だな、と思い当たる人も多いはず。実際、著者には、〈コンピテンシー〉や〈360°評価〉について書かれた著作もあります。
〈コンピテンシー〉って、最近今一つ言われなくなった気がしますが、「行動評価」という風に形を変えて、定着している企業には定着しているのではないでしょうか。本来は「(性格に近いところの)能力」を指すものであったはずが、従来の「業績・能力・情意」の三大効果要素のうち、「能力」とではなく「情意」と置き換わり、「性格」を評価するのではなく、そうした「行動」をしたかどうか評価するようになっているというのが、"日本的コンピテンシー"の特徴ではないかと、個人的には思います(結局〈コンピテンシー〉って、本来は人物評価なんだよなあ)。
一般のビジネスパーソンに向けて書かれた本ですが、著者がこれを人事部に向けて書くとすれば、「他者への十分な配慮のできる人」「実行力の人」「本質的な役割の果たせる人」という項目を、考課要素(とりわけ昇格・昇進において)に織り込みましょう、ということになるのかな(その方が、本来的な〈コンピテンシー〉に近いかも)。そうしたら、「評価」と「評判」がより一致することにも繋がるのだろうけれども...。
但し、本書にもそうした事例があるように、日本企業の場合、昇格・昇進においては、「パーソナル・レピュテーション」のチェックが比較的"自動装置"的に機能し、結果をコントロールしてきたような気もします。
むしろ著者自身も、「パーソナル・レピュテーション」そのもの自体を考課要素とすべきであるという考えではなく、「評価」と「評判」が乖離しないことが望ましいのであって、その手法として、〈コンピテンシー〉の考え方が補完的に生かせるという考え方なのだろうけれども、本書の対象読者層が一般ビジネスパーソンであるため、そのあたりまで踏み込んでいないのが、人事部目線でみた場合、やや物足りないか。