【267】 ○ 安原 顕 『映画の魅惑―ジャンル別ベスト1000』 (1993/08 メタローグ・「リテレール」別冊) 《『ジャンル別映画ベスト1000』 (1996/03 学研)》★★★★ (○ サム・ライミ 「ダークマン」 (90年/米) (1991/03 ユニヴァーサル=UIP) ★★★★)

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古典重視でマニアックな選択傾向に見えるが、なかなかの"本物志向"。

映画の魅惑・ジャンル別ベスト1000.jpg  ジャンル別映画ベスト1000.jpg      ダークマン.jpg 今宵限りは  シュミット.jpg
映画の魅惑―ジャンル別ベスト1000』「リテレール」別冊『ジャンル別映画ベスト1000』(学研M文庫)/サム・ライミ監督「ダークマン」/ダニエル・シュミッ監督「今宵かぎりは...」

 スーパーエディターと呼ばれ、'03年にガン死したヤスケンこと安原顕の編集からなる本書は、彼が編集長をしていた雑誌リテレールの別冊の1つ。文芸映画、青春映画、音楽映画など20ジャンルの映画のベスト50を、蓮實重彦、辻邦生など大家や曲者(?)20人が分担して選び評しています。
 ただし担当ジャンルの定義は担当した執筆者に任されているようで(ある意味、読者に対しては不親切ですが)、読者におもねることなく、執筆者はみな本当に好きな映画、見てもらいたい映画について真摯に語っています。

アンドレイ・タルコフスキー/鏡.jpgルシアンの青春2.jpg鬼火.jpgラルジャン1.jpg白夜2.jpg 個人的には、ブレッソンの「白夜」「ラルジャン」、ルイ・マルの「鬼火」「ルシアンの青春」、タルコフスキーの「鏡」などの評があるのが嬉しい。キューブリックの「現金に体を張れ」「バリー・リンドン」、ヴィスコンティの「夏の嵐」「若者のすべて」、ヘルツォークの「アギーレ・神の怒り」「フィッツカラルド」が入っているのもいい。

イワン雷帝(DVD).jpg世界名作映画全集 99 キートンの大列車追跡.jpgグリード.jpg若者のすべて DVD.jpg現金(ゲンナマ)に体を張れ.jpg シュトロンハイムの「グリード」、キートンの「将軍」、エイゼンシュタインの「イワン雷帝」などの古典もあれば、ホークスの「脱出」「三つ数えろ」、ヒューストンの「キー・ラーゴ」といったハードボイルドやオルドリッチの「ロンゲスト・ヤード」「カリフォルニア・ドールズ」、サム・ライミの「ダークマン」などB級アクション映画もあります。

フリークス dvd.jpgアフター・アワーズ.jpgBurt Reynolds THE LONGEST YARD.jpg三つ数えろ.jpg脱出2.jpg スコセッシは「アフター・アワーズ」がミステリー部門にあります。「フリークス」「快楽殿の創造」などは"アートシアター新宿"の定番カルトでした。「ロッキー・ホラー・ショー」は楽しい参加型カルト(映画館でびしょ濡れになった思い出がある)。'06年に亡くなったダニエル・シュミットの「今宵限りは...」は、音楽映画とアヴァンギャルドの2部門に登場。ファスビンダーの「ケレル」っていうのもジャン・ジュネ原作で結構アブナイ映画...。

 これらの中で「B級」作品で自分の好みは、 ロバート・アルドリッチ監督の「カリフォルニア・ドールズ」('81年/米)と、サム・ライミ監督の「ダークマン」('90年/米)でしょうか。

カリフォルニア・ドールス.jpg 「カリフォルニア・ドールズ」は、男臭い世界を描いて定評のあるアルドリッチが女子プロレスの世界を描いた作品で、さえない女子プロのタッグ「カリフォルニア・ドールズ」のプロモーターを「刑事コロンボ」 のピーター・フォーク が好演しており、彼と2人の女性選手との心の通い合いが結構泣けます。

「カリフォルニア・ドールズ」●原題:...All THE MARBLES a.k.a. THE CALIFORNIA DOLLS●制作年:1981年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・アルドリッチ●製作:ウィリアム・アルドリッチ●脚本:メル・フローマン●撮影中野武蔵野ホール.jpg:ジョセフ・バイロック●音楽:フランク・デ・ヴォール●時間:113分●出演:ピーター・フォーク/ヴィッキー・フレデリック/ローレン・ランドン/バート・ヤング/クライド・クサツ/ミミ萩原●日本公開:1982/06●配給:コロムビア映画●最初に観た場所:中野武蔵野館(83-02-06)(評価:★★★★)●併映「ベストフレンズ」(ジョージ・キューカー)

THE DARKMAN 1990.jpgダークマン.jpg 「ダークマン」は、「死霊のはらわた」('81年/米)などのスプラッター映画で知られ、後に「スパイダーマン」('02年/米)を撮るサム・ライミ監督が、事故で全身に大やけどを負った男の復讐を描いたもので、「神経を切られているため痛覚は無く、怒りによって超人的な力を発揮し、人工皮膚を駆使して他人に変身する、黒マントに身を包んだ"異形のヒーロー"」というコミック調ですが、悪を倒しても元の自分には結局戻れないわけで、その孤独と哀しみが切々と伝わってきました。

ダークマン 1990.jpg「ダークマン」●原題:THE DARKMAN●制作年:1990年●制作国:アメリカ●監督・原作:サム・ライミ●製作:ロバート・タパート●脚本:チャック・ファーラー/サム・ライミ/アイヴァン・ライミ/ダニエル・ゴールディン/ジョシュア・ゴールディン●撮影:ビル・ポープ●音楽: ダニー・エルフマン●時間:96分●出演:リーアム・ニーソン/フランシス・マクドーマンド/ラリー・ドレイク/コリン・フリールズ/ネルソン・マシタ/ジェシー・ローレンス・ファーガソン/ラファエル・H・ロブレド/ダン・ヒックス/テッド・ライミ/ジョン・ランディス/ブルース・キャンベル●日本公開:1991/03●配給:ユニヴァーサル=UIP(評価:★★★★)
 
 変わった映画というか、最初観た時はよく分らなかった映画と言えば、 ジム・シャーマン監督の「ロッキー・ホラー・ショー」('75年/英)と、ダニエル・シュミット監督の「今宵かぎりは...」('72年/スイス)でしょうか。

 「ロッキー・ホラー・ショー」は、最初に名画座で観た時は、ロック・オペラってこんなのもあるのかという感じで(スーザン・サランドンが出てたなあ)よく分らんという印象だったのですが、2度目に渋谷のシネマライズ渋谷(地下1階スクリーン)で観た時には、アメリカからシネセゾンが招聘したと思われるコスプレ軍団が来日していて、映画館の最前列で映画に合わせて踊ったり、紙吹雪や米を撒いたり、雨のシーンでは如雨露で水を撒いたりして観客も大ノリ、ああ、これ、こうやってパーティ形式で観るものなんだと初めて知りました。

ロッキー・ホラー・ショー (1976).jpg「ロッキー・ホラー・ショー」●原題:THE ROCKY HORROR SHOW●制作年:1975年●制作国:イギリス●監督:ジム・シャーマン●製作:マイケル・ホワイト●脚本:ジム・シャーマン/リチャード・オブライエン●撮影:ピーター・サシツキー●音楽:リチャード・ハートレイ●時間:99分●出演:ティム・カリー/バリー・ボストウィック/スーザン・サランドン/リチャード・オブライエン/パトリシア・クイン/ジョナサン・アダムス/ミート・ローフ/チャールズ・グレイ●日本公開:1978/02●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:五反田TOEIシネマ(83-02-06)●2回目:シネマライズ渋谷(地下1階)(88-07-17)(評価:★★★?)●併映(1回目):「ファントム・オブ・パラダイス」(ブライアン・デ・パルマ)

今宵限りは  シュミット.jpg今宵限りは.jpg 「今宵かぎりは...」は、つい先だって('06年8月5日)亡くなった「ラ・パロマ」や「ヘカテ」の監督ダニエル・シュミットの最初の長編映画ですが(この人、大分の湯布院に行った時、自分と同じ旅館「亀の井別荘」に泊まっていた)、日本公開は制作の14年後でした。大きな屋敷の広間で夜中に宴会が行われていて、クラシック音楽が流れる中、殆ど台詞もなく淡々と、赤外線カメラで撮ったような粗い映像でその模様が映し出されているのですが、宴会の客たち以上にそれに仕える召使の方が陶然としている―実はこれ、年に一夜だけ、主人と召使たちが入れ替わる宴で、召使いのために主人が旅芸人たちと芝居などの余興を披露していたのだったという、そのことを映画を観た後で知り、しかしその後はなかなか観直す機会がない作品です。

今宵かぎりは .jpgHeute nacht oder nie (1972).jpg「今宵かぎりは...」●原題:HEUTE HACHT ODER NIE●制作年:1972年●制作国:スイス●監督・脚本:ダニエル・シュミット●製作:イングリット・カーフェン●脚本:メル・フローマン●撮影:レナート・ベルタ ●時間:90分●出演:ペーター・カーダニエル・シュミット.jpgン/イングリット・カーフェン/フォリ・ガイラー/ローズマリー・ハイニケル●日本公開:1986/11●配給:シネセゾン●最初に観た場所:シネヴィヴァン六本木(86-12-01)(評価:★★★?)
Daniel Schmid(1941- 2006/享年65)

 もちろん、もっと最近の映画や(といっても本書が'93年の刊行ですが)メジャーな映画(「スター・ウォーズ」など)も入っていますが、全体としてはいい意味で"本物志向" だけど古典重視でマニアックにも見えるかも。教養主義的な雑誌リテレールもほどなく廃刊となりましたが、この別冊のスタイルは'96年に学研から出た同じ編者の『ジャンル別映画ベスト1000』に引き継がれ、その後文庫にもなっています(学研M文庫)。

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