【264】 ○ 杉山 平一 『映画芸術への招待』 (1975/01 講談社現代新書) ★★★★ (○ ビットリオ・デ・シーカ 「自転車泥棒」 (48年/伊) (1950/08 イタリフィルム) ★★★★/○ セルゲイ・M・エイゼンシュテイン 「戦艦ポチョムキン」 (25年/ソ連) (1967/10 東和=ATG) ★★★★)

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平易な言葉で"モンタージュ"技法などの「感動」させる仕組みを解き明かしている。

映画芸術への招待2.jpg  自転車泥棒.jpg 自転車泥棒b.jpg ランベルト・マジョラーニ(右)
映画芸術への招待 (1975年)』講談社現代新書「自転車泥棒 [DVD]

『自転車泥棒』(1948) 2.jpg ビットリオ・デ・シーカ監督に「自転車泥棒」('48年/伊)という名画があり、世界中の人を感動させたわけですが、実際自分がフィルムセンター(焼失前の)でこの作品を観たときも、上映が終わって映画館から出てくる客がみんな泣いていました。

zitensha.jpg この映画の主人公を演じたランベルト・マジョラーニは、演技においては全くのズブの素人だったとのことで、ではなぜ、そんな素人が演じた映画が名画たりえたかと言うと、それは"モンタージュ"によるものであるとして、著者は、その"モンタージュ"という「魔法」を、この本でわかり易く解説しています(素人の演技が何故世界中の人々を泣かせるのかという導入自体がすでに"モンタージュ"の威力を示しており、効果的なイントロだと言える)。

東京物語.jpg つまり映画とは"断片"から構成されるもので、例えば小津安二郎の映画は、1分間に平均10カットあり、役者は6秒間だけ演技を持続すればよい―、となると、役者の演技力の持続性は求められないわけです。そして、「現実」を映すだけの映画が「芸術」になりうるのは、まさにこのモンタージュにはじまる技法によるもので、本書ではそうした技法の秘密を、具体的に良く知られている内外の作品に触れながら解説しています。

 モンタージュ技法を最初に完成させたと言われるのが「戦艦ポチョムキン」('25年/ソ連)のセルゲイ・エイゼンシュテインですが、日本公開は昭和42年だったものの、作られた年代(大正14年)を考えるとスゴイ作品です。

 「戦艦ポチョムキン」.jpg 「戦艦ポチョムキン [DVD]

『戦艦ポチョムキン』(1925)2.jpg『戦艦ポチョムキン』(1925)1.jpg

イワン雷帝(DVD).jpgイワン2.jpgイワン1.jpg エイゼンシュテインは更に歌舞伎の影響を強く受け、結局「イワン雷帝」(第1部'44年/第2部'46年/ソ連)などはその影響を受け過ぎて歌舞伎っぽくなってしまったとのことですが、確かに、あまりに大時代的で自分の肌に合わなかった...(この映画、ずーっと白黒で、第2部の途中からいきなり極彩色カラーになるのでビックリした。「民衆の支持を得た独裁者」というパラドクサルな主題のため、時の独裁者スターリンによって公開禁止になった作品。第3部は未完)。そのエイゼンシュテインに影響を与えた歌舞伎は、実は人形浄瑠璃の影響を受けているというのが興味深く、まさに「自然は芸術を模倣する」(人が人形の動きを真似する)という言葉の表れかと思います。

 日本映画「白い巨塔」で、田宮二郎演じる主人公が執刀する手術の場面と教授選の場面が交互に出てくるシーンや、「砂の器」で、最後のピアノ演奏会と刑事の逮捕状請求場面と海辺をさすらう主人公の幼年時代がトリプル・ラッシュするのも、モンタージュ技法であると。三四郎.jpg八月の光.jpg更に、詩人である著者は、詩や小説にも同様の技法が用いられていることを示唆していて、フォークナーの『八月の光』と漱石の『三四郎』において、同じようなモンタージュ的表現が使われていることを指摘しています。

 難解になりがちな映像美学に関するテーマを扱いながら、終始平易な言葉で「感動」の仕組みを解き明かしていて、映画鑑賞に新たな視点を提供してくれる本だと思います。

Jitensha dorobô (1948)
Jitensha dorobô (1948).jpg
『自転車泥棒』(1948).jpg自転車泥棒2.jpg「自転車泥棒」●原題:LADRI DI BICICLETTE●制作年:1948年●制作国:イタリア●監督・製作:ビットリオ・デ・シーカ●脚本:チェーザレ・ザヴァッティーニ/オレステ・ビアンコーリ/スーゾ・チェッキ・ダミーコ/アドルフォ・フランチ/ジェラルド・グェリエリ●撮影:カルロ・モンテュオリ●音楽:アレッサンドロ・チコニーニ●原作:ルイジフィルムセンター旧新 .jpg・ バルトリーニ●時間:93分●出演:ランベルト・マジョラーニ/エンツォ・スタヨーラ/ジーノ・サルタメレンダ/リアネッラ・カレル/ヴィットリオ・アントヌッチ/エレナ・アルティエリ●日本京橋フィルムセンター.jpg公開:1950/08●配給:イタリフィルム●最初に観た場所:京橋フィルムセンター(78-11-30) (評価:★★★★)
旧・京橋フィルムセンター(東京国立近代美術館フィルムセンター) 1970年5月オープン、1984(昭和59)年9月3日火災により焼失、1995(平成7)年5月12日リニューアル・オープン。

戦艦ポチョムキン.jpg 「戦艦ポチョムキン」●原題:IVAN THE TERRIBLE IVAN GROZNYI●制作年:1925年)●制作国:ソ連●監督:セルゲイ・M・エイゼンシュテイン●脚本:セルゲイ・M・エイゼンシュテイン/ニーナ・アガジャノヴァ・シュトコ●撮影:エドゥアルド・ティッセ●音楽:ニコライ・クリューコフ●時間:66分●出演:アレクサンドル・アントノーフ/グリゴーリ・アレクサンドロフ/ウラジミール・バルスキー/セルゲイ・M・エイゼンシュテイン●日本公開:1967/10●配給:東和=ATG●最初に観た場所:武蔵野推理(78-12-18)●2回目:池袋文芸坐 (79-04-11) (評価:★★★★)●併映(1回目):「兵士トーマス」(スチュアート・クーパー)●併映(2回目):「イワン雷帝」(セルゲイ・エイゼンシュタイン) 「戦艦ポチョムキン [DVD]

イワン4.jpgイワン3.jpg 「イワン雷帝」●原題:IVAN THE TERRIBLE IVAN GROZNYI●制作年:1946年(第1部・1944年)●制作国:ソ連●監督・脚本:セルゲイ・M・エイゼンシュテイン●撮影:アンドレイ・モスクヴィン/エドゥアルド・ティッセ ●音楽:セルゲイ・プロコフィエフ●時間:209分●出演:ニコライ・チェルカーソフ/リュドミラ・ツェリコフスカヤ/セラフィマ・ビルマン/パーヴェル・カドチニコフ/ミハイル・ジャーロフ●日本公開:1948/11●配給:東和●最初に観た場所:池袋文芸坐 (79-04-11) (評価:★★★)●併映:「戦艦ポチョムキン」(セルゲイ・エイゼンシュタイン)

杉山平一2.jpg 杉山 平一(すぎやま へいいち、1914年11月2日 - 2012年5月19日)詩人、 映画評論家。2012年5月19日、肺炎のため死去。97歳。

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