【3368】 ○ 小室 淑恵/天野 妙 『男性の育休―家族・企業・経済はこう変わる』 (2020/09 PHP新書) ★★★★

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「男性育休」は、啓発だけでは限界があり、少子化対策には「義務化」が必要と。

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男性の育休 家族・企業・経済はこう変わる (PHP新書) 』['20年]

 若手男性社員の多くが取得を希望しているという男性の育休ですが、その希望とは裏腹に、取得率は7%台と横ばいを続けています。少子化による人口減少の突破口としても期待されている男性育休ですが、それにもかかわらず普及しないのはなぜか、「男性育休義務化」が注目される背景は何なのか―本書は、自民党有志議員による「男性の育休『義務化』を目指す議員連盟」の民間アドバイザーである著者2人が、豊富なデータや具体的事例をもとに詳説したものです。

 第1章では、男性育休にまつわるよくある誤解について解説しています。育休期間中は収入がなくなる、共働きでないと取得できない、男性育休の制度がある大企業でないと取れない、といったことがいずれも誤解であることは、人事パーソンであれば常識かと思いますが、意外と経営幹部や一般社員には、そうした誤った思い込みがまだ一部にあるかもしれないと思いました。

 第2章では、男性育休の現状を豊富なデータから分析してその課題を探るとともに、結婚・出産・子育てをしたがらない若者が多くなっているのはなぜか、その背景を探っています。調査では、女子学生の9割が将来の夫に育休の取得を希望し、さらに、新入社員男性の8割、男性中堅社員の9割が育休取得を希望するものの、詰まるところ、育休を取得しづらい「職場の雰囲気」が大きな壁になっていることが事実として判明したとしています。

 第3章では、男性育休を企業が推進するメリットを説いています。男性育休は人材不足解決の切り札になるとし、男性育休の取得率を100%にすることで、残業ゼロで採用もうまくいった中小企業の事例を取り上げ、さらに、男性就活生に人気の企業は、男性育休の取得率が高いといったデータを紹介しています。そして、男性育休がもたらす変化として、①時間当たりの生産性の向上、②エンゲージメントとロイヤリティの向上、③周囲の社員や部下の成長機会になる、④上司のマネジメント力の向上、を挙げています。

 第4章では、男性育休を「義務化」することを提唱し、その理由を述べています。少子化対策には企業への働きかけが急務であるが、啓発するだけでは限界があり、少子化対策を加速させるためには、義務化が必要であるとしています。平成は"女性活躍時代"の時代だったが、それは「女性のスーパーウーマン化」によって支えられたものであり、令和は、"男性の家庭活躍の時代"にしなければならないとも述べています。

 第5章は、具体的にどのようにして男性育休を「義務化」するかについて、①企業の周知行動の報告の義務化、②取得率に応じたペナルティやインセンティブの整備、③有価証券報告書に「男性育休取得率」を記載、④育休の一カ月前申請を柔軟に、⑤男性の産休を新設し、産休期間中の給付金を実質100%へ、⑥半休制度の柔軟な運用、⑦育休を有効に活用するための「父親学級」支援策、の7つの提言をしています。

 男性育休について知るためのテキスト的要素もある本でしたが、それ以上に、男性育休を「義務化」することを提唱している本でした(だから、一般向け新書なのか。ナルホド)。企業の人事部には、男性で育休を取った前例が少なく、育休を取る人が出ないので、「いっそ、全員が取得することを義務付けてくれたらいいのに」との声も多いとのことです。先進諸国の例でも、取得が義務化されていたり、取得に対するインセンティブが用意されていたりした上での、高い男性育休取得率になっていることが窺えます(義務やインセンティブ条件を満たしてしまえば、すぐに職場復帰する傾向もみられる)。

 コロナ禍によるテレワークの浸透などで、企業における業務の生産性についても見直される機会の多い昨今、効率性の概念が弱く、社員に果てしなく残業をさせるような職場は「問題」とされ、これから企業には、生産性高く効率的に働いて、早く帰り家族に会いたいと思う社員自身の欲求を満たすことが求められるのでしょう。一般向けの新書ではありますが、男性の育休取得促進は、企業にとって経営戦略として位置付けられるとの思いを抱かされました。

 因みに、2022年の育児・介護休業法の改正により、男性の育休取得推進が義務化されています。これは、男性労働者に対して育休の取得を義務づけたものではなく、使用者に対して男性従業員の育休取得を促進することが義務づけられたというものでり、これだと「義務化」と言っても実質「努力規定」に留まっていることになってしまいます。法律は少しずつ改正されていますが、その歩みはあまりに小刻みすぎる気がします。

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