【3391】 ◎ 濱口 桂一郎 『ジョブ型雇用社会とは何か―正社員体制の矛盾と転機』 (2021/09 岩波新書) ★★★★☆

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「ジョブ型雇用」について理解でき、「同一労働同一賃金ガイドライン」の謎も解明。

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ジョブ型雇用社会とは何か: 正社員体制の矛盾と転機 (岩波新書 新赤版 1894)』['21年]

 著者の前著『新しい労働社会―雇用システムの再構築へ』(2009年/岩波新書)で提起された「ジョブ型」という言葉は、今や世に広く使われるようになりました。しかしながら著者は、昨今きわめていい加減な「ジョブ型」論がはびこっているとして、本書では、改めて「ジョブ型」「メンバーシップ型」とは何かを解説するとともに、日本の雇用システムの問題点を浮かび上がらせています

 序章で、世に氾濫するおかしなジョブ型論を取り上げ、とりわけ、ジョブ型を成果主義と結びつける考え方の誤りを指摘しています。第1章では、ジョブ型とメンバーシップ型の「基礎の基礎」を解説し、続いて第2章から第6章にかけて、採用と退職、賃金、労働時間、非正規雇用、集団的労使関係という各領域ごとに、メンバーシップ型の矛盾がどのように現れているかを分析し、解決の方向性を探っています。

 特に印象に残ったのは、第2章の「採用」のところで、日本型雇用システムにおいて採用差別という概念が成立しにくいのは、それだけメンバーシップ型の採用が自由度が高いためであり、それをジョブ型の採用にすると日本型の採用の自由を捨てることになるが、ジョブ型をもてはやしている人の中に、その覚悟がある人がいるようには思えないとしている点でした。

 また、第3章の「賃金」のところで、1990年代から2000年代にかけてブームになったものの失敗に終わった成果主義を、もう一度今度は成果を測定するジョブを明確化することで再チャレンジしようとしているのが2020年以来の日本版ジョブ型ブームではないかとし、その目的は成果主義によって中高年の不当な高給を是正することにあり、本来のジョブ型を実践する気は毛頭ないのだとしているのもナルホドと思わされました。

 さらに著者は、同一労働同一賃金の政策過程の裏側を探り、日本版同一労働同一賃金を"虚構"であると言い切っています。安倍政権の政策に携わる中で、それを日本でも可能だとした労働法学者・水町勇一郎氏(東大教授)の真意は、正社員の職能給をすべて職務給に入れ替えるのではなく(それにはかなり困難)、せめて非正規労働者の(職務給的)賃金を正社員の職能給に統一しようとしたのではないかとしています(確かに「同一労働同一賃金ガイドライン」は能力給、成果給、年功給のケースを書いているが、職務給については触れていない)。

 しかし、結局は、ガイドライン策定の過程段階で、基本給の項の最後に、雇用形態によって賃金制度が異なることを前提とした「注」付け加えられることになり、実はこの「注」の部分こそが、圧倒的多数の企業に関わりがあるとしています。この点については、学習院大学の今野浩一郎名誉教授も、『同一労働同一賃金を活かす人事管理>』(2012年/日本経済新聞出版)の中で、ガイドラインの中で最も重要なのはこの「注」であり、先にこれをもってくるべだとしていました。

 今野教授は「ジョブ型雇用の亡霊」がまた現れたといった表現をしていましたが、本書はどちらかというと「ジョブ型」を正しく読者に理解してもらうことに注力しているように思いました。「ジョブ型」というものに対して人事の現場が何となく抱いている疑念を整理し、すっきりさせてくれる本であり(ついでに「同一労働同一賃金ガイドライン」の「謎」(笑)も解明してくれる)、人事パーソンにお薦めします。


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