【3384】 ◎ 今野 浩一郎 『同一労働同一賃金を活かす人事管理 (2021/04 日本経済新聞出版) ★★★★☆

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同一労働同一賃金の法的要請を人事管理の観点から解説している点がユニーク。

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同一労働同一賃金を活かす人事管理』['21年]

同一労働同一賃金を活かす人事管理p.jpg 本書は、同一労働同一賃金の法的要請は人事管理に大きな影響を及ぼすが、人事管理の在り方を決めるものでもないし決めるべきものではないとの考え方のもと、人事管理の観点からすると同一労働同一賃金の法的要請はどう解釈するべきなのか、同一労働同一賃金は、賃金を合理的に決めるうえでどのような意味があるのかを検討し、企業のとるべき非正社員の人事管理・賃金管理の方向を解説したものです。

 第1章「非正規労働者の雇用と賃金」では、非正規労働者の雇用について、労働市場全体における位置やその構成、正規労働者との賃金格差や仕事のレベルなどの実態を統計資料から読み解くとともに、それらを踏まえ、同一労働同一賃金を検討するにあたっての留意点ついて、賞与、退職金など基本給以外の賃金要素と、役職等の高レベルの仕事に就く非正規労働者の基本給を挙げています。

 第2章「同一労働同一賃金の法規制の捉え方」では、パートタイム・有期雇用労働法によって策定された「同一労働同一賃金ガイドライン」を人事管理の観点から読み解き、そのポイントを整理するとともに、人事管理からみたガイドラインに欠ける3つの視点として「賃金の全体性」「賃金の関連性」「市場均衡」の3つの視点を挙げてそれぞれ解説し、その上で、企業が同一労働同一賃金に対してどう取り組むべきか、その基本姿勢を示しています。

 第3章「派遣労働者の同一労働同一賃金」」では、派遣労働者の同一労働同一賃金について、ガイドラインによれば賃金や賃金以外の待遇の決定のルールはどうなるのかを解説し、人事管理からみた賃金決定のポイントを整理しています。

 第4章「同一労働同一賃金のための賃金の基礎理論」では、企業にとっての「あるべき賃金」は多様性を持つが、その多様性を超えた「基本理論」があるとし、人事管理にとっての同一労働同一賃金の意味を解説するとともに、賃金決定の2つの原則としれ、「内部公平性原則」と「外部競争性原則」を挙げ、この2つの原則は緊張関係にあるとしています。

 第5章「制約社員と人事管理」では、同一労働同一賃金を実現するために人事管理は何をすべきであるのか、同一労働同一賃金を考える上で「同一労働同一賃金は人事管理の一部」であるとの視点と、「非正社員は制約社員の1タイプ」であるとの視点の2つの視点を示すとともに、伝統的人事の特徴とその崩壊について述べた上で、人事管理改革の今後の方向性としての「多元型人事管理」のもとでの賃金決定の諸原則を解説しています。

 第6章「総合職の制約社員化と人事管理」では、総合職が制約社員化してきている現状において、正社員の制約社員化における課題と、これからの人事管理の方向を示しています。

 第7章「同一労働同一賃金に応える賃金」では、正社員の賃金の現状と今後の行方、同一労働同一賃金を実現するためのパート社員の賃金、同じく高齢社員の賃金、さらに賞与、退職金、諸手当の同一労働同一賃金について解説しており、パートについては「逆Y字型」の人事管理モデルを提唱しています。

 法律が求める同一労働同一賃金とは何かを人事管理の観点から解説している点がユニークであると思いましたが、それにとどまらず、企業が同一労働同一賃金に対してどう取り組むべきか、その基本姿勢を示した上で、今後の人事管理の在り方や制度策定の方向性まで示している良書であるように思いました。人事パーソンにはご一読をお勧めします。

 後半部分は、前著『正社員消滅時代の人事改革―制約社員を戦力化する仕組みづくり』('12年/日本経済新聞出版社)や『高齢社員の人事管理―戦力化のための仕事・評価・賃金』('14年/中央経済社)に書かれていることとダブったりもしますが、冒頭で、同一労働同一賃金の法的要請はどう解釈するべきなのかということを今回新たに論じた上で、ちゃんと論旨が繋がっていくのは、著者の理論体系がしっかりしているためではないかと思いました。

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